地方創生はビジネスに影響を与える?新しい時代の流れである地方創生SDGsの取り組み
(画像=yoshihiro/stock.adobe.com)

日本は少子高齢化による人口減少問題に直面している。特に地方は人口流出により産業の衰退や財政の窮状に喘いでいる。ただ、政府のデジタル化促進や企業の急速なテレワークシフトにより、新しい時代の流れが生まれていることも事実だ。「地方創生」という言葉を聞くようになって久しいが、ここにきてまた新しい時代の流れが生まれつつある。

地方創生の意義や目的、そして地方創生SDGsの取り組みについて見ていこう。

目次

  1. 地方創生の意義や目的
    1. そもそも地方創生とは?
    2. 「まち・ひと・しごと創生法」の目的と意義
  2. 地方創生の現状
    1. 現状の課題
    2. 地域経済の現状
    3. 取り組み事例の紹介
  3. 新しい時代の流れである地方創生SDGs
    1. 「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」の新しい時代の流れを力にする取り組み
    2. 中小企業に与える影響
    3. 地方創生と働き方改革
    4. 地方創生施策が企業活動の幅を広げる
  4. 地方創生の足掛かりとなるSDGs

地方創生の意義や目的

わが国は人口の減少および少子高齢化社会という大きな問題があり、都市と地方の経済格差に歯止めをかける必要性が指摘されてきた。最初に地方創生の意義や目的について見てみよう。

そもそも地方創生とは?

地方創生とは政府一体となり地方の人口減少に歯止めをかけ、各地域がその特徴を活かして自律的かつ持続的な社会を創生することを目的とした政府の取り組みである。2014年に第2次安倍内閣が目指した成長戦略の一つだ。同年9月に政府は「まち・ひと・しごと創生法」を制定し、地方経済圏における地方産業の成長や雇用の安定維持、消費促進に向けて動き出した。

内閣には「まち・ひと・しごと創生本部」が設置された。現在でもその取り組みは続いており、2021年6月に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」では、新型コロナウイルス感染症の状況も踏まえたさまざまな政策の方向性が盛り込まれている。

「まち・ひと・しごと創生法」の目的と意義

「まち・ひと・しごと創生法」の条文を見ると地方創生の目的と意義は理解しやすい。同法第1条では、目的を以下のように記載している。

・「急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保する」
・「国民一人一人が夢や希望を持ち、潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成、地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保及び地域における魅力ある多様な就業の機会の創出を一体的に推進する」
出典:e-Gov(まち・ひと・しごと創生法)

同法のまち・ひと・しごととは、以下のような内容を指す。

・まち:潤いのある豊かな生活を安心して営むことができる地域社会の形成
・ひと:地域社会を担う個性豊かで多様な人材の確保
・しごと:地域における魅力ある多様な就業の機会の創出
 出典:内閣府

また基本理念には、以下の7つがあげられている。

①国民が「個性豊かで魅力ある地域社会で潤いのある豊かな生活」を営むために地域の実情に応じた環境整備を図る
②「日常生活と社会生活の基盤となるサービス」を、需要と供給を長期的に見通しつつ、住民の負担を考慮して、事業者と住民の理解と協力を得ながら、「現在および将来における提供」を確保する
③「結婚や出産は個人の決定に基づくものであること」を基本に「結婚・出産・育児について希望を持てる社会を形成」するための環境整備を図る
④「仕事と生活の調和」を図るための環境整備を図る
⑤「地域特性を生かした創業の促進と事業活動の活性化」により、「魅力ある就業の機会」を創出する
⑥地域の実情に応じて、「地方公共団体相互の連携協力による効率的かつ効果的な行政運営」の確保を図る
⑦「国・地方公共団体・事業者の相互連携」を図りながら協力に努める

地方創生の現状

実際の地方の現状はどうなのかというと、厳しいのが実態だ。地方創生の取り組みは、日本が抱える問題点を浮き彫りにしている。人口減少は経済規模の縮小による国力の低下につながりかねない。国際競争力の低下や医療・介護費の増加に伴う社会保障制度の崩壊、地方社会の存続危機など日本が直面する課題は多岐にわたる。

現状の課題

日本が抱える課題解決のための地方創生の取り組みとして以下3つのアプローチがあげられる。

・東京など都心への一極集中の是正
地方創生には東京など都市への一極集中を是正し、地方に人の流れをつくることで人口減少に歯止めをかける目的がある。総務省が公表している「住民基本台帳人口移動報告」によると2020年において東京圏は、9万9,243人の転入超過の状況だ。前年比4万9,540人減となっているのは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う影響が大きい。

これは、緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、東京圏の転入超過数が前年に比べて大きく減少していることからも分かる。これまでは人や企業が首都圏に集中することにより業務効率や市場性の面から生産性が高まりイノベーションも起こしやすいなどのメリットがあった。

しかし一極集中には、デメリットもある。地震や台風など災害が起きた際の被害は、甚大なものになることが予想されるためリスクが高いとの指摘もあった。これは、新型コロナウイルスの感染者数が都市圏で多いことからも容易に想像できる。

・地方財政、サービスの安定
2006年の北海道夕張市財政破たんのニュースを覚えている人も多いのではないだろうか。相次ぐ炭鉱災害やエネルギー変革により炭鉱が閉山し人口減少に歯止めがかからなかったことが大きな要因となっている。財政悪化により公共施設や教育施設のサービスが停止し、住民が本来受けられる行政のサービスが大きく制限されることになった。

高齢化社会の進展と若者の都市圏への移動による地方の人口減少は、地方財政に大きな影響を与える。地方創生は地方自治体における安定した財政やサービスを維持するためにも必要な施策といえるだろう。

・地方産業の強化
地方から都市圏への人口異動の原因の一つに地方産業の衰退があげられる。「後継者不足で経営を断念する」「大手企業の工場移転により地元住民の働き口がなくなる」といったケースも少なくない。働くところがなければ、人は生活できず仕事がある場所へ移転するのは当然だ。地方創生は、企業の誘致や既存産業の強化、地方における新たな産業をつくり出し、雇用を創出する役割を担っている。

国・地方公共団体・事業者の相互連携を図り、地域特性を活かした創業の促進と事業活動の活性化により就業の機会を創出する効果もあるのだ。

地域経済の現状

地域経済の状況を今一度振り返ってみよう。

・新型コロナウイルス感染症の状況
2020 年1月に最初の新型コロナウイルス感染症の感染者が確認され、その後感染者数が急増。同年4月7日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が7都府県に発出された。以降も感染拡大が続き第5波では医療崩壊ともいえる事態となった。

しかしワクチンの接種率の増加など、感染対策も功を奏し、2021年9月末時点で緊急事態宣言は解除となっている。しかし、このまま収束に向かうのか先は読めない。冬季には第6波が懸念されている。

一方でコロナ禍を契機に一気に加速したのがテレワークだ。テレワークの急速な普及とともに、地方に移住することへの関心が高まった。就労者の意識や行動の変化が生まれ、都会から地方へ人や仕事の新たな流れを生み出すことにつながっている。

・産業の動向(サービス業、観光業、農林水産業、鉱工業)
新型コロナウイルスの影響により地域経済も多大な損害を被った。観光・運輸、飲食およびイベントを中心にサービス業や観光業への影響は計り知れない。また農林水産業も観光業や飲食業とともにインバウンド需要や外食需要の減少に伴い大きな影響を受けている。さらに鉱工業は、海外経済の影響による需要の大幅な落ち込みやサプライチェーンの寸断による供給制約を背景に生産活動への影響が生じた。

・雇用の動向
新型コロナウイルスの影響は、今後の企業の雇用への影響が懸念されている。完全失業率は、2020年10月に3.1%まで上昇した後、2021年7月には2.8%と大きな変化を見せていない。これは、雇用調整助成金を中心とした政府の対策が功を奏しているといえるだろう。しかし新型コロナウイルスの影響が長期間続いている状況を踏まえると、予断を許さない状況にあることには変わりない。

1年以上に及んで各企業の営業活動は制限され、観光・運輸、飲食およびイベントを中心としたサービス業、観光業は疲へいしている。

取り組み事例の紹介

地方創生は、新たなビジネスチャンスを作り出す可能性を秘めている。企業の新たな事業分野への進出や販路拡大に成功した取り組み事例を見てみよう。

・ 「コロナに打ち勝て!オール岐阜でのマスク生産 ~岐阜県内中小企業によるゼロからの挑戦~」(岐阜信用金庫)
岐阜県は新型コロナウイルス感染防止のために県内からの安定した医療用マスクの供給態勢の構築を必要としていた。岐阜信用金庫は、新たな事業分野への進出を模索していた企業に呼び掛け、材料供給と生産体制を構築。県内中小企業は医療用の不織布マスク生産にゼロから挑戦した。

2020年7月には、岐阜県へマスク1万5,000枚を寄贈し、県民へのサージカルマスク供給態勢を実現している。

・ 「協同組合を母体とした事業者・金融機関・自治体等の連携による販路拡大及び地域PRの取組」(渡島信用金庫)
地域の事業者同士が協同組合を通じて連携し、地域特産品のマーケティング・ブランド化・新規マーケット開拓・共同販売による地域活性化を図り、持続可能な地域社会を目指した。

協同組合は、渡島信用金庫札幌支店内にアンテナショップや協同組合独自のブランド牛や豚を主力商品とした焼肉店を札幌市に開設。

また営業力を活かして地域事業者の特産品をバイヤーやホテル、飲食店へ販路拡大に成功している。渡島当金庫は、アンテナショップを無償提供するほか、ブランド化を支援し、東京・大阪・愛知などで南北海道物産展を開催するほか、連携して販路拡大や特産品の販売を協働。アンテナショップや物産展等は南北海道の自治体とも連携し、観光PR等を継続的に実施している。

新しい時代の流れである地方創生SDGs

近年、「誰⼀⼈取り残さない」持続可能でよりよい社会の実現を⽬指す世界共通の⽬標であるSDGsの取り組みが積極的に行われている。持続可能な社会の実現は、地方創生が目指す社会でもあるため、その中で生まれた地方創生を原動力としたSDGsの取り組みは注目を集めているのだ。

「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」の新しい時代の流れを力にする取り組み

2021年6月18日に閣議決定した「まち・ひと・しごと創⽣基本⽅針2021」の中では、「地⽅創⽣SDGsの実現を通じた持続可能なまちづくり」を推進している。今後の新たな地方創生の展開にあたって脱炭素化の流れを地⽅創⽣に取り込むこととし、その中で「地方創生と脱炭素の好循環」の実現に向けた取り組みを推進していくことが明記されている。

「地域経済の活性化や地域課題の解決の実現」に向けて、地域資源の有効活用により再生可能エネルギーを導入するなどの脱炭素化の取り組みを地方で積極的に推進していくというものだ。

中小企業に与える影響

「中小企業等による地域・社会課題の解決を通じた地域の持続的発展の促進」も取り組みの一つとして注目したい。地方創生SDGsは、政府中心の取り組みのイメージがある。しかし地方創生の取り組み事例で紹介したように、政府や金融機関が中小企業と連携して成功する事例も多い。例えば以下のようなものは、中小企業にとってビジネスチャンスになる。

・ビジネスの手法を適用して解決を図る取り組みに対する支援
・地方公共団体と連携
・新たな需要の創出につながる機能の導入
・最適な供給体制の実現に向けた仕組みづくりなど

地方創生SDGsが中小企業に与える影響は、大きなものとなるだろう。

地方創生と働き方改革

地方創生の取り組みは、働き方改革にもつながる。ワーク・ライフ・バランスの実現や多様で柔軟な働き方が選択できる社会の実現を目指す働き方改革は、テレワークの推進や結婚・出産・子育てしやすい環境の整備と関係性が深い。地方創生にとって働き方改革は共通の目的を持つ必要な取り組みでもある。

地方創生施策が企業活動の幅を広げる

地方創生SDGsは、持続可能なまちづくりや地域活性化に向けた取り組みの推進を進めている。SDGsは政策の最適化と地域課題の解決を加速させるだろう。またテレワーク推進やデジタル化の進展により地方でも仕事ができるインフラが整備され、大都市から地方へと移り住む人が増えている。

都会から地方への新たな「ひと」や「しごと」の流れを生み出す取り組みは、企業活動の幅を広げ、新たなビジネスチャンスを生み出すことになるのではないだろうか。

地方創生の足掛かりとなるSDGs

新しい時代の流れとして地方創生SDGsの取り組みが企業に与える影響は大きくなってきている。政府が提唱する地方創生やSDGs、働き方改革の取り組みにより都市から地方に人や企業活動の流れが向かいつつあるのだ。新型コロナウイルスの影響によりテレワークが急速に進展した今、地方をビジネス拠点として活用できる環境が整ってきているといえるだろう。

企業拠点や人材の都市から地方へのシフトが進んでいけば地方創生への大きな足がかりとなることが期待される。

加治 直樹
著:加治 直樹
特定社会保険労務士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。銀行に20年以上勤務。融資及び営業の責任者として不動産融資から住宅ローンの審査、資産運用や年金相談まで幅広く相談業務を行う。退職後、かじ社会保険労務士事務所を設立。現在は労働基準監督署で企業の労務相談や個人の労働相談を受けつつ、セミナー講師など幅広く活動中。中小企業の決算書の財務内容のアドバイス、資金調達における銀行対応までできるコンサルタントを目指す。法人個人を問わず対応可能であり、会社と従業員双方にとって良い職場をつくり、ともに成長したいと考える。
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