M&Aコラム
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中小企業の休廃業が増加傾向にある中で、特に一定の業績を出しながらも経営に行き詰まり事業を停止する「黒字倒産」が増えています。本記事ではその理由や対策についてご紹介していきます。

黒字倒産とは?

黒字倒産とは、損益計算書(P/L)では黒字の状態でありながら経営破綻することを指します。企業が倒産へと至ってしまう原因はさまざまです。中小企業庁によると、企業が倒産する原因の上位5つは「販売不振」「既往のしわよせ」「連鎖倒産」「放漫経営」「過小資本」となっています。
一般的に倒産とは、債務の返済を自己資金でまかなえず、銀行からの借入もできなくなり、経営が行き詰まってしまう、いわゆる資金繰りが困難になった状態です。つまり、時代の変化や市場予測を見誤り、販売不振から赤字決算に陥ったり資金調達に失敗したりといった理由から倒産に至るといえます。

黒字とは、収入が支出や費用を上回ることで剰余が生じた状態です。反対に赤字は支出が収入を上回っている状態を指します。一般的に考えれば収入が支出を上回っている黒字の状態で倒産へと至るはずがないと思われる人も多いでしょう。一体なぜ黒字倒産という事態が起こってしまうのか、次の項目で詳しく解説します。

黒字倒産はなぜ起きてしまうのか

一言で表すならば、キャッシュフローの悪化です。黒字倒産にはいくつか種類がありますが、いずれも資金の流れがうまくいかなくなったことが原因として挙げられます。

たとえば、A社は1個10万円の商品を100個仕入れたと仮定しましょう。
この場合の仕入れ費用は合計1,000万円です。
そして、仕入れた商品のうち60個を、1つあたり15万円で販売しました。
この場合、売上高は900万円、売上原価は600万円であるため、損益計算書(P/L)では300万円の利益として計上されます。ここで大切なポイントは、損益計算書(P/L)では在庫は売上原価として計上されない点です。

たとえば、A社は1個10万円の商品を100個仕入れたと仮定しましょう。
この場合の仕入れ費用は合計1,000万円です。
そして、仕入れた商品のうち30個を、1つあたり15万円で販売しました。
この場合、売上高は600万円で売上原価は400万円となり、損益計算書(P/L)では200万円の利益として計上されます。ここで大切なポイントは、損益計算書(P/L)では在庫は売上原価として計上されない点です。

損益計算書(P/L)

  • 売上高=15万円×30個=450万円
  • 売上原価=10万円×30個=300万円
  • 利益=売上高-売上原価=150万円

キャッシュフロー計算書(C/L)は現金の増減を計算するため、仕入れた商品が売れなくても代金を支払っているのであれば仕入支出として計上されます。つまり、キャッシュフロー計算書(C/L)では売上による収入が450万円あるものの、仕入れの支出が1,000万円あるため550万円のマイナスです。つまり100個仕入れた商品のうち70個が売れ残ったままであり、このまま在庫を抱えていれば借入の返済ができず、資金繰りが困難になります。このまま資金を調達できなれば事業の継続そのものが困難となり、やがて経営破綻へと至ります。

キャッシュフロー計算書(C/L)

  • 収入=15万円×30個=450万円
  • 支出=10万円×100個=1,000万円
  • 収入-支出=▲550万円

これは在庫過多によるキャッシュフローの悪化で起きる黒字倒産の例ですが、他にも売掛金と買掛金の支払い時期のずれが原因で起きる場合や、売掛金の未回収が原因の場合などもあります。

黒字倒産を回避するために

ここからはキャッシュフローの管理や在庫管理など、黒字倒産を防ぐために必要となる具体的な対策について解説します。

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決算書で自社の状況を正しく把握する

会社経営の基本ですが、自社の経営の健全性や倒産リスクを常時把握することが大前提となります。

1.キャッシュフロー計算書で収支状況を確認

期初と期末の現金残高を比較し、現金の出入りを正しく把握しましょう。ここをきちんと確認しておくことで、現金が不足してしまう事態を防げます。

2.貸借対照表では自己資本比率を確認

貸借対照表は、バランスシートとも呼ばれ「会社にどれだけの資産があり、それらをどのように調達・運用しているか」、つまり会社の財務状態を表したものです。一般的には四半期や半期ごとに作成されます。貸借対照表では

  • 自社が現在保有する資産
  • 自社が返す必要のある負債
  • 返済義務のない総資産から負債を引いた純資産

が把握できます。

3.損益計算書で損益分岐点を把握

損益計算書は、会社の経営成績を表します。黒字と赤字の境界線を示す損益分岐点を正しく把握することが、黒字倒産の回避に不可欠です。

資金繰りを管理する

最も重要となるポイントは資金繰りの管理です。キャッシュフローを可視化するための資金繰り表を作成し、定量的な分析に管理が必要になります。たとえば、事業活動による経常収入や経常支出、前月繰越金額や次月繰越金額など、キャッシュフローを可視化し、資金繰りの流れを管理しましょう。

在庫を管理する

黒字倒産に陥る大きな原因のひとつが過剰在庫です。前述のように、損益計算書(P/L)では在庫は経費として計上されません。黒字倒産を防ぐために大切なのはキャッシュフローです。過剰在庫を抱えないように適時適量の仕入れを行い、在庫管理を最適化する必要があります。

入出金のタイミングを調整する

黒字倒産は取引先の入金の遅れや売掛金の未回収などによって発生します。そのため、黒字倒産を防ぐためには入出金のタイミング調整も必要です。状況によっては支払いの延長や入金の前倒しを外部取引先に検討してもらう必要もあるでしょう。(たとえば、融資を受けている銀行など借入先に直近の決算書や資金繰り表、返済計画書などの資料を提出し、支払いの延長交渉に臨む、など)

資金を調達する

黒字倒産を防止するためにも資金調達は非常に重要な経営課題のひとつです。資金調達では、短期資金と長期資金のいずれかによる計画が必要です。返済期間が1年未満のものを短期資金、返済期間が1年以上にわたるものを長期資金と呼びます。そして、計画に基づいて融資を受ける、株式を発行して資本を増やす、あるいは資産を現金化するなどの方法で資金を調達します。

M&Aを活用する

黒字倒産の危機に陥った企業でも、M&Aによって経営破綻を回避するという事例は少なくありません。売却可能な事業を譲渡することで獲得資金を支払いに充てられるため、経営破綻を回避することができます。また、近年では経営者の高齢化や後継者不足といった問題も相まって、企業の買収や合併が増加傾向にあります。M&Aで黒字倒産を防いだ事例をご紹介します。

後継者不在による黒字倒産の危機をM&Aで回避

資材メーカーA社は会社の業績は順調に伸びているものの、後継者不在によって黒字倒産の危機に陥っていました。後継者候補として経営者に子供が二人いるものの、二人とも大手企業で活躍し、それぞれ別の業界でキャリアを重ねていることから事業継承へと至りませんでした。そんなA社がM&Aを視野に入れるようになったきっかけは、地域の商工会議所による経営指導でした。その後紹介された仲介会社の協力もあって、県外の同業他社への譲渡が行われました。M&Aによって事業継承と倒産の危機の回避に至ったのです。

終わりに

以上、黒字倒産についてご紹介してまいりました。黒字倒産を回避するには、経営を行う上での基本であるキャッシュフローの管理や在庫管理など、堅実な経営体制の構築が求められます。企業の長期的な発展を視野に入れるならばM&Aも有効な一手となりえます。M&Aについて他社の事例など詳しく話を聞いてみたい、という方はぜひお気軽にお問合せください。
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