独占インタビュー | チャータードグループ創設者、エヤル・アグモニ氏
金融投資のベテランであるエヤル・アグモニ氏は、証券業、投融資、ホスピタリティ事業、テクノロジー事業と多岐にわたる事業を傘下で展開しているチャータードグループの創業者であり、現在は会長として現役で活動されています。チャータードグループは、日本をはじめシンガポール、ドイツ、タイ、ならびにルクセンブルクの世界5カ国を拠点にグローバルな企業を数多く顧客にもつプライベート・エクイティで、アグモニ氏はイスラエルに数十社の投資先企業を保有するアセットマネジメント会社であるチャータードインベストメントマネージャーズのCEOも兼任されています。
アグモニ氏とチャータードグループは、長年にわたり、日本の投資家とイスラエルのスタートアップ企業の橋渡しに注力してきました。最近では、イスラエルの国防研究開発部門であるMAFATとの合弁事業であるJapan Israel High Tech Ventures 2 LPファンドを設立しました。
この独占インタビューでは、アグモニ氏の日本における事業展開とその経験、世界のテクノロジー市場の現状、そして今後の日本とイスラエルの間の投資プロジェクトへの期待についてお話を伺いました。
――― まず日本で事業を始められた理由やきっかけについて教えていただけますか?
アグモニ氏: 初めて日本へ来たのは短い出張のためでしたが、そこから全てが変わりました。
日本は「チャンスの国」だと私は思います。その理由として、日本にはビジネスや投資の方法に対して一定の考え方があります。そんな中、日本にいる外国人は違う角度から物事をみることにより、ビジネスを成長させる機会を見出すことができるからです。
私たちイスラエル人にとって文化はとても重要な要素で、日本でも家族の価値観、奥深い歴史や文化へのつながりという点で似ているところがあると感じました。もちろん日本とイスラエルでは明らかな文化の違いもあります。例えば、日本の公園では、全員が平等になるように子供達は行儀よく列に並んで滑り台の順番を待ちます。それこそまさに日本です。変わってイスラエルの幼稚園の子供達を見てみると、喧嘩をしたり、割り込みをしたりして、中には10回も滑り台を滑っている子供もいれば、泥を食べている子供もいて、滅茶苦茶なのです。
この例は特に日本とイスラエルの違いを顕著に表しています。日本では皆一度は滑り台を滑ることができますが、私の出身地イスラエルでは、賢く振る舞えば何回も滑ることができますし、一度も滑れない子供もいるのです。そこでイスラエルの文化を日本に持ち込むことで、両国の文化のギャップを埋めることができると考えました。
まずはじめは、日本企業へ資金をもたらすことに専念しました。クリエイティブな金融ソリューションを提供し、日本で多くの企業買収やプライベートエクイティへの投資を行いました。資金は我々のオフショアファンド経由で調達し、日本企業へ投資していました。
弊社の投資先の一つはホスピタリティ事業です。13年前の日本市場をみると、インバウンドの観光客はたった500-600万人ほどでしたが、他国をみると一位のフランスは8500万人、二位のアメリカは6500万人ほどで、日本の600万という数字は比較にならないほど小さかったのです。タイも4000万人を超えていましたが、我々はなぜ日本のインバウンドの数がこんなにも少ないのかと疑問に思いました。
問題を分析したところ、多くの人が日本の文化についてあまり知らないということが分かりました。 日本に対して物価が高いイメージはありましたが、高品質のホテルは少なく、ブランドホテルでさえも、世界レベルでは4つ星以下でした。 日本の良さを分かっている我々からすれば、まだまだたくさんある日本の魅力が伝わっておらず、大きなチャンスがあると思いホスピタリティの事業に賭けました。
ここ数年では5つ星ホテルがブームとなり、より多くのグローバルブランドが市場に参入し、ビザの規則が緩和されたことで、日本は外国人観光客に対してより開放的になりました。昨年のインバウンド訪問者数は4000万人を超えたので、このパンデミックが落ち着いた後には、6000万人に達するだろうと期待しています。
――― 今後、このCOVID-19パンデミックが市場や企業にどのような影響を与えると思いますか?
アグモニ氏: 幸いなことに、日本はコロナウイルスの感染拡大状況に対して非常にうまく対処したと思います。 国がロックダウンを強制しなくても、人々は政府の勧告に従い、衛生的な対策もよく保たれていました。
さらにシンガポールやタイなど国内市場が限られている国と比較すると、日本の国内市場は堅調です。 日本人は自国内を自由に旅行することができるので、それが国内市場を後押ししています。
来年はオリンピックが計画通り開催されることを期待していますが、開催されるか否か、また開催されたとしてもその規模もまだ定かではありません。たとえワクチンが開発されたとしても、パンデミックの渦中に生きる今の私たちの生活スタイルは、当分変わらないと思います。特効薬が開発されない限り、私たちの生活が通常通りに戻ることはないでしょう。
私たちの仕事のスタイルや、旅行、買い物そして不動産やオフィスなどへの投資に関しても、元通りになるには少なくとも2~4年はかかると思います。ホスピタリティ事業においては、格安ホテルが最も経営危機に直面しています。 旅行をするために節約をして、より高価なホテルに長期間滞在しようとする人が増えているからです。今年のバケーションシーズンはどうなるかわかりませんが、現状ではおそらくインバウンド市場に変化はないはずです。その一方で国内市場の景気は持ち直されると思います。
――― 御社はホスピタリティやサービス事業開発にも携わられていますが、近年京都で最もラグジュアリーなホテルと言われているアマン京都をオープンされ、現在北海道のニセコに新しいホテルを開発されていると伺いました。この業界は、世界的なパンデミックにより特に大きな打撃を受けていますが、どのようにして「ニューノーマル」に適応されましたか?
アグモニ氏: 昨年アマン京都をオープンしましたが、日本の伝統を守りつつ、街の中心にモダンなラグジュアリーを取り入れることができたことを誇りに思います。パンデミックの影響でインバウンド市場が縮小しているだけでなく、建設価格が上昇しているため、北海道でのプロジェクトは延期せざるを得ませんでした。少し待つことでコストも抑えられると思いますので、今のところは延期して状況を見守ることにしました。
――― Japan Israel High Tech Ventures 2 LPファンドについてお伺いしたいと思います。チャータードグループはMAFATと提携した最初の企業であり、そのことで独自の立場を確立されました。 このパートナーシップが成立した経緯を教えてください。
アグモニ氏: まず、どうしてハイテク事業を日本市場へ紹介する機会があると考えたのかをお話しします。
5年ほど前にさかのぼりますが、シンガポールで現地の携帯通信会社から無料でSonyスマートフォンXperiaを提供されたので、自宅に持ち帰り、自分の子供たちに誰か使いたいかと尋ねたのですが、誰も受け取ろうとはしませんでした。どうしてかと聞くと、「ソニーでしょ?ソニーの携帯なんかいらないよ」と言われてとても驚きました。私が子供の頃は、ソニーや日立、カシオなどの日本ブランドの製品しか欲しくありませんでした。ドイツの製品、さらに中国やアメリカ製のものはもってのほかでした。 日本のブランドが一番のトレンドでしたね。
この20年間で日本のブランドがどうして国際的に魅力を失ってしまったのか。それは決して教育のレベルやエンジニアの能力が下がったからではありません。むしろそれらは向上していますが、インターネットの普及により、今や多くの情報を得るのが簡単な時代になっています。キーワードは「スピード」です。
70年代や80年代に、シャープのような企業がファックスの機械を作ろうとしたら、デザインからエンジニアリングなど複数のチームが協力して全てインハウスで生産していました。しかし、昨今のFacebookやGoogle、Appleなどのグローバル企業は、他国から取り入れた最新のテクノロジーを駆使して、できる限りショートカットをしようとします。日本の企業はイノベーションの面で提供できるものがたくさんあるにも関わらず、技術をゼロから開発して生産し、すべての物事をインハウスで進めようとするため、遅れをとっています。世界はスピードを持って変化しており、情報は流動的で、人々は物事にすばやく簡単にアクセスできてしまいます。
もう一つの原因は、日本企業の階層文化です。日本社会において、上司が訳の分からないスピーチをしていても、部下はただ黙って拍手をしますが、イスラエルでは、手を挙げて上司に面と向かって彼の言っていることが正しくないことを告げるでしょう。 時にそれは、会社を救うことにもなります。
日本では、多才で賢いエンジニアや大卒の新入社員たちがその企業の階層の底辺で、自分たちのアイディアを有効的に活用できないでいます。社会的なシステムが邪魔をしていて、彼らの声はトップへ十分に届いていません。もちろんこれは一般化した見解ですので、トヨタのように、一般社員が役員らと話をするための「ラウンドテーブル」の機会を設けることで成功している企業もあります。
弊社は、日本市場にチャンスを見出しました。もし日本企業が新しいテクノロジーを買おうと考えた時、中国やインドから買えるものはほとんど残っていないですし、アフリカと南アフリカは論外で、ヨーロッパではいくつか機会があるかもしれませんがあまり体系的ではありません。もう1つの選択肢は、北米とカナダの巨大なテクノロジー市場ですが、アメリカで売りに出ているものがある場合、日本企業がそのテクノロジーを購入できる可能性はほぼゼロに近いです。 言語の壁と文化的な距離があるため、他の競合他社と比較して動きが遅すぎてしまいます。
そこで、日本企業にとって一番可能性がある市場はイスラエルです。イスラエルのテクノロジーは、実装や売却の成功例において、米国に次いでいます。これは、日本企業と価値のある技術を体系的に生み出すイスラエルのスタートアップ企業を繋げる良い機会だと思い、我々のプロジェクトを始動させました。
ここ数年、弊社は日本とイスラエルのビジネスにおける関係を深めようと努めてきました。 なんとか日本から資金を集め、特にディープテクノロジーを狙ってイスラエルのテクノロジー市場へ投資しました。しかしイスラエルのスタートアップ企業は、非常に順調で洗練されているため、世界中から既に投資を受けており、我々が集めた日本の資金を必要としていませんでした。イスラエルでは、ポテンシャルのあるスタートアップ企業には投資が集まります。すでに競合投資家が多くいましたので、アドバンテージがない我々にとって見込みがないと感じました。
そこで、イスラエルのスタートアップ企業の出所は二ヶ所であることに目をつけました。一つは軍または国防省、もう一つはアカデミアです。弊社は最初にテルアビブ大学と提携してTAU Venturesと呼ばれるイスラエル初の大学発ベンチャーキャピタルファンドを設立しました。
次に、軍との提携へ移行し、MAFAT(イスラエル国防省)にデュアルユース技術をあるプロジェクトに活用するよう依頼しました。提携プロジェクトにおいて成功を収め、その技術を日本市場へ持ち込むことを提案しました(会社名: InnerEye)。彼らは数多くのエンジニアや知識を持ち合わせているので、日本企業との提携に最適のテクノロジーを見いだすことができます。そこで彼らと連携して力を合わせ、資金を投資して日本市場にそのテクノロジーを展開していこうと考えました。それがこのパートナーシップの始まりです。我々チャータードグループが世界で初めてMAFATとの業務提携を実現することができました。
彼らが受諾してくれたことにより、弊社は軍事技術ではなく、民間技術の情報源となりました。我々はこの関係を深め、現在、イスラエル・日本間のハイテクベンチャーファンドを設立しています。弊社のゴールはテクノロジーを開発することではなく、テクノロジーを買収できる日本のパートナーを見つけることです。今の時代、多くの企業が社外から取得した技術でものを作り、販売しています。例えばIntelのテクノロジーの背後にいるのはイスラエル人です。今や、「どこから来た」ではなく「誰が最新の技術を使っているか」が注目されるなか、日本の企業もぜひ取り入れるべきだと思います。
――― なぜアメリカではなく日本の市場に注目されたのですか?
アグモニ氏: 北米やヨーロッパなどの企業とは異なり、日本企業はイスラエルの技術市場にあまり精通していません。 このため、弊社は他国の企業へは介入できませんが、日本企業へはまだ提案できる機会があります。
日本以外のほとんどの国は、イスラエルで盛んに投資活動を行っていますが、日本企業はまだ本格的に介入してきていません。日本とイスラエルのビジネスを繋げることが目的ですが、現段階では、投資するスタートアップに、日本とアメリカから同時にオファーがあった場合、もしアメリカのオファーの方がはるかに高い価値だと判断されれば、そのテクノロジーはアメリカ企業へ売却されてしまいます。 そのため、我々は今、入札を勝ち取るためにどうすれば良いかを、日本の投資家にレクチャーをしようとしています。
日本の企業は自発的な投資を躊躇する傾向にあるので、日本企業へは、時間をかけてその技術が「幼児から高校生」のように成長する過程を見せることができれば(すべての投資は我々にとって赤ちゃんのようなものです)、彼らは競合と同じレベルで入札するのに十分な自信を持つことができると考えました。そうすることで、日本の企業へも、外国企業と同様に、ショートカットを提供することができます。弊社はこのイスラエルと日本の間の架け橋を実現させたいと切に願っています。
――― Japan Israel High Tech Ventures 2ファンド設立の進捗はいかがですか?
アグモニ氏: 我々は現在、資金を調達している段階です。コロナの影響で動向は多少減速気味ですが、まだ資金調達は続けておりますので、読者の方や企業様でご興味がある方は、是非弊社までお問い合わせください。また、MAFATや日本のパートナーとともに、日本でのイノベーションハブの構築にも力を入れており、技術移転においてさらなる連携を図っていきます。
――― 今後の展望について教えてください。
アグモニ氏: 日本とイスラエル間でもっとオポチュニティを広げていくことが、弊社の核心となっており、常に日本市場におけるオポチュニティをうかがっています。ファンドにおける資金調達に励むと同時に、現在弊社が既に投資している会社(約25社のディープテクノロジー企業)へのサポートもあらゆる形で行っています。また、日本市場へ参入するイスラエル企業の仲介も行っていますので、今後も我々は金融投資家であるだけでなく、イスラエル企業のためにPOC(概念実証)やgo-to-market(市場獲得に向けたマーケティング戦略)の機会を模索し、日本市場に参入するためのファシリテーターとしての役割も務めてまいります。
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