矢野経済研究所
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2021年夏、地上における移動の自由が新型コロナウイルスによって奪われる中、民間による宇宙への扉が大きく開かれた。7月11日、ヴァージン創業者リチャード・ブランソン氏らを乗せた有人宇宙船「ユニティ」が試験飛行に成功した。その10日後にはアマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏が、自らが創業した宇宙ベンチャー「ブルーオリジン」社の「ニューシェパード」に乗船、5分間の無重力を体験した。そして、先月、テスラ創業者イーロン・マスク氏の「スペースX」社が民間人のみを乗せた宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げに成功、3日間の地球周回旅行を楽しんだ後、無事地上に帰還した。

「有人」という壁はあるものの、日本勢の可能性も大きい。ロケット、人工衛星、ソフトウェア、通信・放送、観測、デブリ除去など、製造から利用サービスまで、日本の技術は世界有数のレベルにある。そこに新たな「本命」が加わる。30日、Hondaが宇宙事業への参入を表明した。2020年代の打ち上げを目指し、小型ロケットを開発する。ロケットは低軌道向け小型人工衛星を搭載、自動運転技術で培った制御・誘導技術を活用し再利用型とする、とのことである。

また、電動化技術を応用した電動垂直離着陸機(Honda eVTOL)や分身ロボット(Hondaアバターロボット)の開発も強化する。
前者のコンセプトは、都市内移動にとどまらず都市間移動を実現することにある。そのためには長い航続距離が必要であり、これを実現すべくガスタービンとのハイブリッド方式を採用する。あくまでも実用本位で電動に拘らないあたりがホンダ的だ。独創的な設計思想で世界を驚かせたHonda Jetの技術が活かされる。後者は、言うまでもなくASIMOの技術と経験が土台となる。こちらは月面遠隔操作ロボットへの応用も想定される。

“宇宙“ は、国の威信を競う場であり、また、安全保障上の要衝でもある。とは言え、「地球の子供たち、聞いてくれ。かつては私も星を見上げる少年だった。しかし、今、大人になって、ここにいる」と屈託なく感動を表現するブランソン氏の笑顔や「人類を多惑星種にしたい」などと語るマスク氏の夢と自信こそがイノベーションの原動力である。
Hondaの宇宙開発も「コア技術を生かして小型ロケットをつくりたい」という若手技術者の発案がきっかけであったという。「チャレンジを恐れるな。何もしないことを恐れろ」、宗一郎氏の他界から30年、創業者の想いが継承されていることが嬉しい。

今週の“ひらめき”視点 10.3 – 10.7
代表取締役社長 水越 孝