10年ぶりに経済成長率が8%を上回ると予想されている中国で、国有企業の社債デフォルト(債務不履行)が急増している。それに伴い、企業破産整理再建や買収も加速しており、一部では連鎖破たんなどのシステミックリスクへの懸念も浮上し始めた。倒産ラッシュは中国経済の足元が崩れ始めた兆候なのか、それともさらなる跳躍の足掛かりとなる変化なのか。
中国企業債務、過去最悪の水準に 国有企業の破たん急増
中国では2020年11月頃から、国有企業のデフォルトが目立つようになった。この中には10億元(約170億2,387万円)の超短期債券をデフォルトにした石炭大手の永城石炭電力保有グループや、13億元(約221億 3,255万円)の債券など複数回のデフォルトを起こし、2021年7月に破産申し立てを行った半導体大手、紫光集団など、巨大国有企業(SOE)が含まれる。
ロイターの報道によると、これらの企業がコロナショックを乗り切る手段として大規模な資金調達を行った結果、2020年の債務水準は過去最悪の記録を更新した。また、格付け情報を提供するフィッチ・レーティングスのデータによると、この潮流は2021年に持ち越され、上半期の中国企業の債券デフォルトは625億9,000万元(約1兆655億円)とさらに記録を更新した。
市場が最も警戒しているのは、国有企業(SOE)によるデフォルトの割合が増加している点だ。非国有企業がデフォルト全体の8割以上を占めていた2017~19年から一転、2020年はSOEが5割以上を占め、総額366億5,000万元(約6,239億1,232万円)に達した。
国有企業デフォルト増加 2つの要因
世界に先駆けてコロナ禍の経済活動を軌道に乗せたにも関わらず、政府の寛大な支援を受けているはずの国有企業がなぜ、次々と焦げ付いているのか。背景には主に2つの要因がある。
1.国有企業への融資を縮小
1つ目は、政府が国有企業への融資を縮小しつつあることだ。以前は失業や税収の損失を回避する手段として、各自治体が積極的に財務的な危機に瀕している企業を救済していたが、2017年以降は不良債権を処理する政策に移行している。
多くの中国企業は海外の信用格付けが禁止されていた時代に、国内の信用格付け企業から過剰評価された格付けを受けていた。その結果、政府の暗黙の了解の元、実質的な価値が格付けよりはるかに低く、いつ破たんしても不思議ではないゾンビ企業が増加した。
2.ドルに依存し過ぎの中国企業
さらに、多数の中国企業がドルに依存しすぎていた点も、デフォルトを加速させる要因となった。トランプ政権で火蓋を切った中国企業への締め付けは、バイデン政権にも受け継がれており、今や中国企業の米上場もままならない状況だ。これまで中国IT企業に巨額の資金を投じてきた米金融機関や投資家は、舵を切らざるを得なくなった。
地盤緩む中国経済 崩壊?進歩?
しかし、「国有企業のデフォルトが増えた=中国経済が崩壊に向かっている」と結論付けるのは早計だ。デフォルトの増加が市場の不安定性を生み出す懸念がある一方で、「政府による暗黙の債務保証」という大きなリスクを軽減する効果があると期待されている。
リーマンショック時にブッシュ大統領が呟いた、「Too Big To Fail(TBTF/大きすぎて破たんさせられない)」という有名なフレーズがある。国際金融機関を破たんさせることが、世界恐慌の引き金になりかねないという警告だ。それ以来、各国の政府は金融機関に限らず、破たんが社会に大きな影響を与える規模の企業が困難に直面すると、支援の手を差し伸べていた。
しかし、コロナという予期せぬ災難で国の財政が悪化している現在、少なくとも中国ではTBTFは成り立たず、余力のないゾンビ企業を「整理」していく機会になるとの見方もある。
これまで政府の後押しのもと、民間企業より多くの恩恵や優位性を享受してきた国営企業は、今後、より厳格な予算制約の順守と信用規律の行使を余儀なくされるはずだ。その結果、より効率的で堅硬、かつ健全な財源配分の確立が可能になれば、中期的には中国経済に利益をもたらすだろう。
再建、買収が増加 システミックリスクへの懸念も
デフォルトの増加に伴い、不良債権を含む特殊資産投資市場の拡大や再建、買収の増加といった新たな変化が見られる。すでに紫光集団破たんのケースでは、債権者である微商銀行が破産再建の申立てを行ったほか、外資系ファンドなどがこれらの企業の不良債権を買い集め、買収に乗り出しているという。今後、このような潮流はさらに加速すると予想されている。
一方で、連鎖破たんなどのシステミックリスクも懸念される。現時点において中国金融当局は、デフォルトの急増が想定内であることを示唆しており、深刻なシステミックリスクを生じさせるような事態には陥っていない。しかし、多少なりとも金融市場や景気の安定を脅かすリスクを秘めている点は、楽観視できない。
中国経済の行く末は?
このような懸念材料に加え、中国人民銀行が7月、預金準備率の引き下げという予想外の追加緩和バイアスに転換したことも注目されている。中小企業の資金繰りを支援する意図だが、実際は同国におけるコロナ禍の経済回復がピークを過ぎ、足元が崩れ始めたのではないかとの見方もある。
数々の目まぐるしい変化が中国経済、しいては世界経済にどのような影響をもたらすのか、その行く末には何が待っているのか。崩壊か、構造改革の発展か。「混沌の時代」とされる現在、世界中が中国の動きを注視している。
文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)