中国、「経済絶好調」は大ウソ? 苦悩にあえぐ中小企業の実態
(画像=Destina/stock.adobe.com)

経済、学術などさまざまな分野において、中国は米国と並ぶ経済大国に成長を遂げた。世界がパンデミックの経済的ショックに苦戦する中、一早く回復基調に転じ、今や米国をしのぐ勢いだ。しかし、実際は国内の物価が高騰し追加金融緩和が講じられるなど、足元が揺らいでいるのではないかとの疑念もささやかれるなど、その実態には不透明さが漂っている。

中国、2028年までに世界一の経済大国に?

世界で最初に新型コロナの危機に直面したにも関わらず、中国は迅速かつ厳格な措置を講じることで感染拡大の抑制に成功した。これが経済活動の早期回復につながった。

さらに6兆元(約101兆6,150億円)規模の大型財政出動や国内外からの生産需要の急増という強力な追い風に背中を押され、「中国一人勝ち」の状況を創り上げた。コロナ禍にも関わらず、2020年の貿易黒字は前年から27%増の5,350億ドル(約58兆6,934億円)と、過去最高に近い水準を記録した。

国際通貨基金(IMF)が2021年7月に発表したデータによると、世界がコロナの大打撃を受けた2020年、主要国の中で唯一経済がプラス成長を記録したのは中国のみだった。2021年の成長予想も8.1%と世界平均(6.0%)を上回り、米国(7.0%)や日本(2.8%)、ドイツ(3.6%)といった経済大国との差がさらに広がる見通しだ。

英シンクタンク、経済ビジネスリサーチセンター(CEBR)は最新の報告書の中で、「中国が2028年までに米国を追い抜き、世界最大の経済大国となる」と予想している。また、国営通信社新華社によると、習近平国家主席は「自国が2035年までにGDPを2倍に増やすことは絶対に可能である」と豪語しているという。

原材料価格高騰で苦悩にあえぐ中小企業

しかし、このような「中国一人勝ち」や「将来の経済大国NO.1」の信ぴょう性に疑問を投げかける声も多い。コロナ禍の経済回復がピークを越え、苦悩にあえぐ企業が増加傾向にあるというのだ。

これを裏付けるかのように、7月初旬、中国の中央銀行である中国人民銀行は小規模な金融機関以外の預金準備率を0.5%に引き下げ、17兆円相当を市場に注入する追加金融緩和政策の実施を発表した。金融機関による中小企業への融資増加を促し、「原材料価格の高騰により、資金繰りが圧迫されている中小企業を支援する」ことが狙いだ。

原料価格高騰を引き起こした要因は、景気回復に伴う原油や非鉄金属価格の高騰で製造業者の調達コストが膨らんだこと、米国の利上げ前倒しに対する懸念からドル高・円安基調にあることなど、いくつか挙げられる。

実際、5月の中国生産者物価指数(PPI)が2008年9月以来の速度で上昇し、前月から2.2%増の9%に達するなど尋常ではない事態が報告されている。華宝信託のチーフエコノミスト、ニエ・ウェン氏は「PPIが長期間高水準に留まり、中小企業がコストの上昇に耐えきれない場合、経済的な頭痛の種となるだろう」との懸念を示した。

「需要が高まるほど赤字」のジレンマ

中国人民銀行は「引き続き経済は順調に回復しているため、ばら撒き金融政策は不要」とし、あくまで補足的な効果を狙っている点をアピールしている。しかし、水面下ではすでに原材料価格の高騰を受けた企業は日を追うごとに悲壮感が色濃くなっており、特に製造業は「需要が高まるほど赤字が膨らむ」というジレンマに陥っている。

大手はすでに、商品やサービスを値上げしてコストの増加を補うという強気な手段に出ているが、中小企業にとっては些細な値上げが致命傷になりかねない。事業規模の小さい企業は価格を据え置き、自腹を切って何とか耐え忍ぶしかない。

中国南部の電機メーカーいわく、鉄からアルミ、包装に使う紙類まであらゆる原材料価格が最大50%近く値上がりし、商品の製造コストが2割増加したという。同工場は巣籠リ需要で2021年の受注台数が前年の1.5倍増となったが、赤字額は2億円になると見込んでいる。

このような「矛盾」が中国全土で起きていると想定すると、「中国の景気はそれほど良くないのではないか」と思わざるを得ない。

李克強首相「公式の経済統計は信頼できない」

そもそも、中国経済の急成長には常に誇張疑惑が付きまとう。一部のエコノミストは2008~2016年にわたり、中国がGDPを毎年1.7%誇張することにより、経済規模を10%以上水増ししていたと確信している。

また、2015 年には中国北東部の地方当局者らが過去数年間にわたり各地域の経済データを偽造し、実際よりはるかに高い成長率を偽装していたことを暴露した。告発者の一人である黒竜江省の当局者は、地元の投資額を実際より少なくとも20%水増しして(1,000億元相当)報告していたことを認めている。

李克強首相が「公式の経済統計は信頼できない」と発言した、米国の機密文書も流出している。これは政府・企業・宗教などに関する機密情報を公開するサイト「ウィキリークス」が2007年に公開したものだ。

李氏は米外交官に「GDPの数字は人工」であり、「信頼できない」と述べたとされている。米連邦準備銀行の研究者らも「中国の経済データシステムはまだ発展段階にある」という名目上の理由から、同様の見解を示している。

「世界の工場」を武器に米国を追い抜くか?

「原材料価格の高騰による影響は限定的」と楽観視する見方もあり、中国が「世界の工場」という立場を武器に、今後も勢力を拡大し続けることは疑う余地がない。他の主要国よりはるかに経済成長に貪欲で、自らの目標を達成するためには手段を選ばない野心家であるから、世界を敵に回しても、中国は決して怯まないだろう。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

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