源泉徴収額とは?計算方法や納付手続き、注意点などを解説
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鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

会社経営で避けて通れないのが、給与や賞与の源泉徴収額の計算だ。今回は、源泉徴収額とは何かを理解できるよう、必要性や計算方法、注意点などについてわかりやすく解説する。納付手続きについても触れているので、あわせて参考にしてほしい。

目次

  1. 源泉徴収額とは何か?
    1. 源泉徴収額の必要性
    2. 源泉徴収すべき対象の例
    3. 源泉徴収額・年末調整・確定申告の関係
    4. 源泉徴収額の納付手続き
  2. 給与の源泉徴収額
    1. 給与の意味
    2. 給与の源泉徴収で対象外となる金額
    3. 給与の源泉徴収で確認すべき書類
    4. 給与の源泉徴収額の計算方法
  3. 賞与の源泉徴収額
    1. 賞与の意味
    2. 賞与の源泉徴収額の計算方法
  4. 源泉徴収額の計算に関する2つの注意点
    1. 注意点1.扶養親族の状況に変化があると控除が激減
    2. 注意点2.モノ・権利・サービスの付与も源泉徴収の対象

源泉徴収額とは何か?

源泉徴収額は源泉となる金額から天引きされる金額だ。源泉とは、給与や賞与、退職金といった「支給されるお金の大元」であり、そこから国や地方自治体に納める所得税や住民税を差し引く。公的負担を差し引いた残りの金額が役員や従業員に支払われるというわけだ。

なお、源泉徴収されるのは税金だけではない。健康保険料や厚生年金保険料、雇用保険料といった社会保険料も給与や賞与から差し引かれる。

源泉徴収額の必要性

日本には確定申告の制度があるが、なぜ源泉徴収を行うのだろうか。

総務省統計局の労働力調査によれば、2021年6月時点で日本の就業者数は約6,692万人だ。この内、役員を除く雇用者の数は約5,652万人で全体の約84%を占める。8割超という割合は1993年以降続いている。

参考:労働力調査2021年6月分(総務省統計局)

所得税・住民税の徴収対象の大半は、サラリーマンや派遣社員、バイト、パートといった給与所得者だ。

基本的に国民の税金は、申告によって納税されるべきだ。しかし、すべてを3月15日までの確定申告に集中させてしまうと、税務署の処理負担が過剰に重くなってしまう。無申告や過少申告の確認にもコストがかかる。

しかし、源泉徴収制度で支払う所得の一部から税金を天引きしておけば、税務署の手続負担やコストを軽減できる。また、定期的に税収を確保することで、国の財政も安定化するだろう。

源泉徴収すべき対象の例

正社員や派遣社員、バイト、パートなどの給与所得者に支払われるお金に関して、所得税の源泉徴収が必要な対象は以下の3つだ。

・給与
・賞与
・退職金

退職所得は申告書を退職時に提出すれば、会社が退職者の代わりに正しい税金だけを源泉徴収して税務署に納めてくれる。

なお、役員や従業員以外に対する支払いでも源泉徴収は必要だ。たとえば、原稿料や講演料、士業の報酬などが挙げられる。非居住者や外国法人への支払いも対象になる。

源泉徴収額・年末調整・確定申告の関係

給与や賞与から源泉徴収した所得税は、あくまで予納の位置づけでしかない。

給与や賞与に関しては、年末調整か確定申告で本来の納税額を計算する。もし、源泉徴収額が多すぎれば還付となり、少なすぎれば追加で徴収する。

役員や従業員によっては、副業をしている場合や医療費控除がある場合もあり、納税が年末調整で終わらないこともある。その場合、各自で確定申告をしてもらい、最終的な所得税額を決定する流れだ。

源泉徴収額の納付手続き

源泉徴収した所得税は、原則として毎月10日までに納付しなくてはならない。つまり、4月支給分の給与から源泉徴収した所得税は、5月10日までに税務署や金融機関で納める。

ただし、給与の支給人員が常時10人未満の会社なら、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に出すことで、毎月の納付を半年の納付に切り替えられる。このときの納付期限は以下の通りだ。

1月から6月までの源泉徴収額:7月10日まで
7月から12月までの源泉徴収額:翌年1月20日まで

参考:源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(国税庁)

給与の源泉徴収額

給与に関する源泉徴収額の計算方法を確認する。まずは給与の意味からおさらいしていこう。

給与の意味

給与は、所得税法上において給与所得という。給与所得とは、雇用契約等にもとづき会社の指揮・命令に従いながら非独立的に働く対価としてもらう所得である。

給与は、毎月・毎週など定期的に支払う金銭をさす。具体的には給料、俸給、賃金などが該当する。基本手当や家族手当など、名称を問わず定期的に支給される金額が対象だ。

給与の源泉徴収で対象外となる金額

定期的な支給でも、以下のような金額は源泉徴収の対象から外れる。

・毎月の給与と一緒に支払う通勤交通費で一定額以下の金額
・出張旅費で業務上必要と認められる範囲内の金額
・食事代や宿日直料で一定額以下の金額
・香典や災害の見舞金で常識範囲内の金額
・災害などによる休業手当や一部の休業補償
・業務上必要な交際費や接待費など

給与の源泉徴収で確認すべき書類

給与の源泉徴収額を計算する前に、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を確認しよう。申告書に記載される控除対象配偶者や扶養親族の情報は、源泉徴収額の計算で必要となる。

一般的に、この申告書は年末調整や入社のときに会社へ提出する。昨年から在籍している役員・従業員なら、前回の年末調整の申告書を確認しよう。今年から入社した人が、申告書の提出を受けていないなら、書いてもらわなくてはならない。

給与の源泉徴収額の計算方法

給与から源泉徴収する所得税の金額は、「源泉徴収税額表」で確認する。該当年分の表を使わなくてはならない。2021年に支給する給与なら「令和3年分(2021年分)」を使う。毎月支給の給与については「給与所得の源泉徴収税額表 月額表」を使う。

参考:
源泉徴収税額表(国税庁)
給与所得の源泉徴収税額表 月額表(国税庁)

源泉徴収額の計算は、以下の流れで行う。

1. 「給与の支払額-社会保険料の徴収額」を計算する
2. 1の金額と対象者の扶養親族等の数から、「給与所得の源泉徴収税額表 月額表」の甲欄からあてはまる数字を探し出す
3. 2で探した金額を支給する給与月額から差し引く

扶養親族等の数とは、配偶者控除の対象となる配偶者や、扶養控除の対象となる16歳以上の同一生計親族の数だ。年間の合計所得金額が48万円に届かないような家族を扶養しているのなら、その人数を加味した上で源泉徴収額を決定する。

控除対象配偶者や扶養親族は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」で確認できる。通常は、前回の年末調整で配偶者控除や扶養控除の対象とした親族の数を扶養親族の数として考える。

なお、役員や従業員が他社にも勤務していて、自社には「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していないのならば、扶養親族等の数は関係ない。「給与所得の源泉徴収税額表 月額表」の乙欄の数字をもって源泉徴収額とする。

賞与の源泉徴収額

賞与に関する源泉徴収額の計算方法を確認していく。まずは賞与の意味からおさらいしていこう。

賞与の意味

賞与とは、定期的に支払われる給料とは別に支払われる報酬だ。賞与、ボーナス、夏季手当などさまざまな名称があるが、所得税では以下のような報酬を賞与としている。

・会社の純益を基準に支給する金額
・あらかじめ支給額や支給基準に定めのない金額
・あらかじめ支給期に定めのない金額(雇用契約自体が臨時のものを除く)
・法人税法の事前確定給与や業績連動給与に該当する金額

なお、賞与でも給与計算と同様に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」から扶養親族の数を算出し、賞与の源泉徴収額を決定する。

賞与の源泉徴収額の計算方法

賞与の源泉徴収額は、ボーナス支給月の前月の給与を参考にして、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から税率を探し出してから計算する。

参考:賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(国税庁)

具体的な計算の流れは以下の通りだ。

1. 賞与支給月の前月の「給与の支払額-社会保険料の徴収額」を計算する
2. 1の金額と対象者の扶養親族等の数をもとに「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の甲欄から賞与に乗じる税率を探し出す。
3. 2で探し出した税率を「支給する賞与額-賞与から差し引く社会保険料の額」に乗じ、賞与の源泉徴収額を算出する。

給与と同様、役員や従業員が他社で勤務していて、自社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していないのなら、扶養親族の数を考慮せずに乙欄の数字から税率を決定する。

源泉徴収額の計算に関する2つの注意点

源泉徴収額を計算する際は2つの注意点をおさえておこう。

注意点1.扶養親族の状況に変化があると控除が激減

前回の年末調整で配偶者控除や扶養控除の対象となった扶養親族の数が、源泉徴収額の基準になることが多い。ただし、それは絶対ではない。特に以下のようなときは、扶養親族の数が変動しやすいので注意しなくてはならない。

・扶養している子どもが、中学3年生や高校1年生、大学4年生など、状況が変動しやすい年齢のとき
・配偶者の所得額が前々回よりも急激に増え、48万円を超えそうなとき
・扶養している親が高齢(80代・90代など)であるとき

こういったケースで扶養親族の数を多めに入れると、毎月の源泉徴収額は少なくなる。しかし年末調整の段階になり、子どもが独立したり、妻の収入が急激に増えたり、親が他界していたりするといった事情が明らかになると、配偶者控除や扶養控除が激減してしまう。年末調整のタイミングで、不足分の所得税を徴収されるかもしれない。

年末調整の目的は1年間の所得税を精算することだ。しかし、計算してもらう役員や従業員にとって、年末の報酬が減るのは精神的な負担になりえる。年の途中でも社員の扶養状況を確認したほうがよいだろう。

注意点2.モノ・権利・サービスの付与も源泉徴収の対象

源泉徴収の対象として思い浮かぶのは主に金銭だ。しかし、金銭以外にも源泉徴収される対象があるので注意したい。具体的には以下のような対象がある。

・従業員のモチベーションアップのために付与されたストックオプション
・通勤交通費のうち高額だと見られる金額
・自社で扱う商品のうち無償で支給された商品や値引き販売された商品
・会社からの貸付金で返済不要とされた金額

こういった対象は「経済的利益の供与」といわれ、給与や賞与として扱われる。そのため、源泉徴収の対象となる。安易な支給をすると源泉徴収額が不足し、税務署から指摘を受けることがあるので注意したい。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)

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