資本的支出とは、会社が保有する固定資産に対して支出した改良費等のうち、一定の要件を満たす金額である。この記事では、資本的支出と判定された場合の耐用年数や減価償却を解説する。中古資産に関する考え方も紹介しているので参考にしてほしい。
目次
資本的支出とは
資本的支出とは、固定資産の修理・改良等のために支出した金額のうち、次のいずれかにあたる金額をさす。
・資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する支出
・資産の耐久性を増すと認められる支出
・資産の価値を高める部分に対応する支出
資本的支出の例
たとえば、次のような支出は資本的支出にあたる。
・建物への避難階段取付など、物理的に付加した部分
・用途変更を目的とした模様替えなど、改造や改装に直接要した費用
・機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合、その取替えに要した費用のうち、通常の取替えに要すると認められる費用を超える部分
ただし、一つひとつの支出に対して判断するのは難しい。そのため、形式的に修繕費と区別するためのフローチャートが、さまざまな機関や専門家によって作られている。
資本的支出と判定されたものは、その支出の対象となった元の資産と種類・耐用年数が同じ資産を、新しく取得したものとして扱う。
修繕費であれば一度に経費にできるが、資本的支出は減価償却によって耐用年数にわたり少しずつ経費にしなければならない。
参考:
法人税法施行令第132条(e-Govポータル)
第8節 資本的支出と修繕費(国税庁)
資本的支出と耐用年数の考え方
資本的支出をしたときの耐用年数の考え方を解説していく。まずは耐用年数の意味からおさらいしていこう。
耐用年数の意味
税務会計でいう耐用年数とは、減価償却費を計算するための使用可能期間である。会計では正しい期間損益計算を行うための測定に用いられ、税務では減価償却費の損金算入限度額を計算するために用いられる。
耐用年数は、「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によって、資産の種類や材質、用途などを考慮した年数が細かく定められている。この年数を法定耐用年数という。
法定耐用年数を見るときは、わざわざ省令を調べる必要はなく、国税庁のホームページに掲載された耐用年数表で確認できる。
耐用年数は使用期限だと誤解されがちだが、簿価が1円になっても資産を使い続けてよいし、そうした資産に資本的支出を行っても構わない。その場合、資本的支出と修繕費の判定は通常と変わらず行う。
耐用年数の延長・短縮
減価償却費を耐用年数から計算した限度額より少なく計上する(=耐用年数を延ばす)のは、税務上で特に問題ない。
逆に耐用年数を短くすることは原則不可である。ただし特別な理由があって、その資産の使用可能期間が法定耐用年数よりもおおむね10%以上短くなっている場合、国税局の承認を受けたときに限り耐用年数を短縮できる。特別な理由とは主に以下の通りだ。
・材質または製作方法が同種のほかの資産と著しく異なる
・資産が陳腐化した
・地盤の隆起、沈下
・使用場所に基因する腐食がある
・一般的な修理や手入れの不足で著しく損耗した
資本的支出をしたときの耐用年数
資本的支出の耐用年数は元の資産と同じだ。耐用年数が同じ資産を新しく取得したとして扱うことから、資本的支出をしたあとは元の資産の部分と資本的支出の部分に取得価額を分けて、それぞれで減価償却を進めていく。
会計ソフトに、資本的支出の区分で別資産として登録すればよい。ちなみに法人税や所得税における減価償却だけでなく、償却資産の申告でも資本的支出は本体と区分する。固定資産税の計算も、資本的支出は本体と区分して行われている。
中古資産に関する資本的支出と耐用年数の考え方
中古資産に資本的支出をしたときの耐用年数の考え方を解説していく。まずは中古資産の耐用年数の計算方法や計算例を確認してみたい。
耐用年数の計算方法
中古資産を取得したときの耐用年数は、それまで事業に使用されていた期間を考慮して、法定耐用年数とは異なる耐用年数が適用される。
原則として、中古資産の耐用年数は各中古資産に対して使用可能期間を見積もって決める。
しかし、建物や建物附属設備、構築物、車両、工具、器具及び備品、機械及び装置などのうち、見積もりが困難なときは例外的に簡便な方法で耐用年数を算出する。
実務では、後者の簡便法がよく用いられる。使用可能期間の年数を見積るのが困難な資産は、以下の理由にもとづく資産をさす。
・見積りに必要な資料がないため技術者等が積極的に特別の調査をしなければならない
・耐用年数の見積りに多額の費用を要すると認められる
耐用年数の計算例
法定耐用年数が15年、経過年数が6年として耐用年数を計算してみる。
15年-6年+6年×20%=10.2年
1年未満の端数は切り捨てるため、この中古資産の耐用年数は10年になる。もし計算式で2年未満の年数がでたときは2年とする。
【中古車の場合】
4年落ち中古車の購入が節税になるという話をご存知だろうか。理由は、自動車の耐用年数が6年であり、耐用年数が最低年数である2年になるからである。
耐用年数の計算式は以下の通りだ。
6年-4年+4年×20%=2.8年
先ほどの計算と同様に、1年未満の端数は切り捨てるため、この中古資産の耐用年数は2年になる。耐用年数が2年だと、定率法の償却率は1.00である。よって、12ヶ月で取得価額をすべて経費にできる。
中古資産に資本的支出をしたときの耐用年数
中古資産に対して資本的支出をした場合の耐用年数も、基本的には元の中古資産にしたがう。
ただし、中古資産に高額な資本的支出を行った場合、耐用年数の扱いが変わる。資本的支出の額が中古資産の取得価額の50%を超えるとき、簡便法は使えない。
続いて、資本的支出の額が中古資産の再取得価額の50%を超える場合、見積法・簡便法はともに使えない。以上のルールを表にまとめてみる。
再取得価額とは、中古資産を新品で購入したときの取得価額をいう。新品の50%を超える改良費を支出すれば、中古資産に対してかなり高額な支出になるはずだ。この場合、新品を取得したときと同様の扱いとなり、法定耐用年数で減価償却を行う。
【簡便法が使えない場合】
②の簡便法が使えない場合、以下の計算で耐用年数を算出できる。
ア÷(イ/ウ+エ/オ)
ア:中古資産の取得価額(資本的支出の価額を含む)
イ:中古資産の取得価額(資本的支出の価額を含まない)
ウ:中古資産の簡便法による耐用年数
エ:中古資産の資本的支出の額
オ:中古資産の法定耐用年数
条件を設定して耐用年数を計算してみる。
・法定耐用年数15年
・経過年数6年
・中古資産の取得価額80万円
・資本的支出45万円
・再取得価額120万円
(80万円+45万円)/(80万円/10年+45万円/15年)=11.36
先ほどの計算と同様に、1年未満の端数は切り捨てるため、この中古資産の耐用年数は11年になる。
中古資産に資本的支出をするときのトラブル
ひとつの計画により、複数年度にわたって資本的支出をすることがある。その場合、次に掲げるいずれかの合計金額が中古資産の再取得価額の50%を超えたあと、元の中古資産と資本的支出の両方の減価償却を法定耐用年数で行う。
・資本的支出の合計金額
・各事業年度中に支出した資本的支出の合計金額
気づかずに超えてしまい、中古資産の耐用年数のまま償却を続けると、損金不算入額が生じ、法人税の追徴や加算税がかかる可能性がある。
資本的支出と耐用年数の関係を正確に理解
中古資産のケースを含めて、資本的支出を行ったときの耐用年数に関するルールを間違えると、追徴や加算税のリスクも生じる。税金のトラブルを引き起こさないように、資本的支出と耐用年数の関係を正確に把握しておきたい。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)