スタートアップ大国ならではのコミュニティ「TechAviv」
イスラエルには、スタートアップ大国ならでは特別なコミュニティーがあります。それは、ファウンダーによるファウンダーの為の集まり「TechAviv」です。

TechAviv集まりの様子
(画像=TechAviv集まりの様子)

イスラエルは、人口850万人に対し、人口一人当たりのスタートアップの数が世界最大であり、それゆえにスタートアップ大国と呼ばれています。このTechAvivは、すでにユニコーンと呼ばれるスタートアップ後期、もしくはすでに大企業として成長を遂げた企業らのファウンダー(創立者)達とVC・投資家が、次の世代のスタートアップ・ファウンダーを支援していくもので、ノウハウや経験談の共有、モチベーション向上など、様々なテーマで月一回イベントが開かれます。

TechAvivへの入会には条件があり、①イスラエル人のファウンダーであること、②$1M(約一億円)以上の資金調達をしたか、収益があること、③既存TechAvivメンバーからの推薦があること、の3つです。入会費やイベント参加費は無料なので、次の「ユニコーン企業を育てる」という熱意がこのTechAvivを支えています。

TechAvivを率いるヤロン サミッド(Yaron Samid)氏にインタビュー
このTechAvivは、2007年夏にヤロン サミッド(Yaron Samid)氏により創設されました。ヤロン氏は、自身もファウンダーとして3つの企業を創設し、エグジットを経験しています。ヤロン氏はまた、スタンフォード大学ならびにコロンビア大学のビジネススクールで、entrepreneurship lecturer(起業家講師)として講師を務めます。今回、このヤロン氏にTechAvivの生まれた理由、スタートアップの移りかわり、スタートアップ大国イスラエルの今後の展望を聞く機会を持つことができました。インタビューでお伺いした興味深いお話を皆様にご紹介いたします!

TechAviv創設者Yaron氏
(画像=TechAviv創設者Yaron氏)

ーー誕生のきっかけとTechAvivが目指しているものは何ですか?

TechAvivが誕生した当時は、ニューヨークのコーヒーショップでイスラエル人のファウンダー達が毎月集まるといったような、小さな会でした。この集まりは、困難に直面している事や学んで得た事、役に立つ情報などを率直に、そして自信をもって意見交換ができる場にしたいという目的のもとに創設されました。ファウンダーでCEOというのは、実は大変孤独を感じる仕事です。自分が率いている会社ですから、自信をもって会社の進む方向性をまわりに示す必要があり、自分の中の疑問や葛藤を、他の誰とも共有できないものなのです。

だからファウンダー同士であれば、助け合う事ができるのです。私はエモーション・キャピタル(Emotion Capital: EC)と呼んでいますが、ファウンダーという「同志」と一緒にいることで、苦難な状況にあったとしても、感情エナジーにより乗り越えることができます。感情エナジーであるエモーション・キャピタルは、起業家を支える「力の源」です。

TechAviv集まりの様子
(画像=TechAviv集まりの様子)

スタートアップ企業は、VCがなくても存続できますが、ECなしではやっていけません。TechAvivは、そんなエモーション・キャピタルを提供し、共有していく場です。それは過去も現在も変わっていません。

TechAvivには、27社のユニコーン、そして200社以上の準ユニコーンである市場評価$100M以上のスタートアップ企業が在籍します。TechAvivはまさしく、ハイ・クオリティな唯一無二の集まりと言っても過言ではないでしょう。さらにシードステージのファンド(資金)を50人の実績あるファウンダー達で形成し、次の世代のイスラエル人ファウンダーを積極的にサポートする仕組みを整えました。

ランチ会の様子
(画像=ランチ会の様子)

ーー過去十数年間で感じるスタートアップ大国・イスラエルの変革は何ですか?

もっとも大きな変革として、今までは、イスラエル人が生んだ技術を大手企業が早々に買収するというのが通常であったのに対し、近年ではスタートアップ企業を大規模な企業へと成長させ、IPOを果たす企業が増えてきました。その他の変革として言えることは、これまでサイバーセキュリティ―やセミコン分野のスタートアップ企業が大半を占めていたのに対し、分野はかなり多様化し、AI/ML、フィンテック(金融)、ヘルステック(ヘルスケア・医療)、バイオテック、Eコマース、モビリティ(自動車)、インシュアテック(保険)、プロップテック(不動産)、アグテック(農業)、フードテック(食品)、リテイルテック(小売業)、トラベルテック(旅行業界)、ファッションテック、B2Cアプリやサービスなど、多岐に渡るようになったことでしょう。

ーー米国企業でもイスラエル人のファウンダーというのをよく見かけます。

現在もなお米国シリコンバレーへ移る企業が多数があります。それはイスラエルという国が900万人にも満たない国民しかおらず、マーケットとしては期待できないからです。ただ米国内でもニューヨークであったり、ボストン、ロスなど大都市へも広がりを見せ、また欧州やアジアに拠点を置く企業も増えました。そして最近では、イスラエルに本社を設け、グローバル市場へ進出していく企業も傾向にあります。

ーーこの先の10年をどう考えますか?

次の10年でイスラエルは、世界の中で秀でたAIイノベーション、生命科学イノベーションの拠点として成長していく事でしょう。この分野で様々な企業が育ち、B2BやB2C、上場企業、未上場企業と多様化すると思います。そしてスタートアップ大国は、「スケールアップ大国」として呼ばれるようになるかもしれません。

<Yaron Samid(ヤロン サミッド)プロフィール>

イスラエルと米国の両国籍を持ち、起業家として3社を創設、現在はスタートアップ企業の取締役やアドバイザーとして活躍すると共に、米国のビジネススクールで講師を勤めたり、投資家としても活動している。TechAvivを2007年に創設し、スタートアップ大国・イスラエルのエコシステム構築に励む。

TechAviv
https://www.techaviv.com/