所得税は身近な税金だが、課税の仕組みを理解しきれていない人は意外に多い。なかでも所得の種類は多く、混乱しやすいポイントだ。そこで今回は、所得の種類や計算方法などをまとめた。所得について正しい知識を学び、スムーズに申告できるように準備しておこう。
目次
そもそも所得税とは?
所得税とは、個人が1年間(1月~12月)に稼いだ所得に対して課される税金のことだ。所得税の計算には超過累進課税が採用されており、所得が多い個人ほど税率が高くなる。
サラリーマンなどの給与所得者であれば、毎月の源泉徴収によって自動的に納税されるため、所得税を別途支払う必要はない。一方で、普段の収入から源泉徴収されていない個人事業主などは、確定申告で1年間の所得税額を決定し、後日まとめて支払う。
ちなみに、法人の所得に対して課される税金は法人税と呼ばれている。法人税では比例税率と呼ばれる計算方式が採用されており、所得金額ではなく法人の規模などによって税率が定められている。
所得税の3つの基礎知識
所得税の仕組みを理解するために知っておきたい基礎知識がある。いずれも確定申告や税務に欠かせない知識だ。所得税の計算を間違わないように、あらためておさらいしておこう。
基礎知識1.収入と所得の違い
収入とは、労働の対価や資産の売却などによって得たお金のことだ。サラリーマンでいえば毎月の給料、個人事業主でいえば売上金などが該当する。
その一方で所得は、収入から必要経費や控除額を差し引いた金額であり、所得税や住民税などの税金はこの所得に対して課される。つまり、所得が収入金額を上回ることはない。基本的には「収入>所得」の式が成り立つ。
税法上で収入という場合は、ほとんどのケースで年収をさすことも知っておきたい。
基礎知識2.所得控除と税額控除の違い
所得金額から控除される金額には、所得控除と税額控除の2種類がある。
所得控除は、税率をかける前の所得に対して適用される。一方で税額控除は、税率をかけた後の税額に対して適用される。
なお、いずれの控除制度に関しても、適用を受けるには確定申告などによる事前の申請が必要だ。申請を忘れると要件を満たしても適用されないので、所得控除や税額控除の概要は確定申告の前にチェックしておこう。
基礎知識3.総合課税と分離課税の違い
所得税は仕組みが少し難しい税金であり、所得ごとに課税方式が異なる点も理解しておきたい。
総合課税と分離課税の種類を分けるのは複雑である。
たとえば、同じ事業所得であっても自営業から生じる所得は総合課税に、株式譲渡による事業所得は分離課税に分類される。そのほか、利子所得や配当所得なども、内訳によって課税方式が異なる。
所得の10種類と計算方法
所得税の対象となる所得は、その形態によって大きく10種類に分けられている。各所得の概要と所得金額の計算方法を簡単にまとめた。
種類1.事業所得
事業所得とは、事業主が取り組む事業によって生じた所得だ。自営業から生じた収益をイメージするかもしれないが、事業所得は以下の2つに分けられており、どちらに該当するかで課税方式が異なっている。
【1】商業や農工業など、自営業から生じた所得…総合課税
【2】株式等を譲渡した際の所得や、先物取引に係る所得…分離課税
事業所得は、必要経費を収入から差し引くことが認められている。したがって、事業所得の金額は以下の式によって計算される。
事業所得の金額=収入金額-必要経費
事業に関係する費用であれば必要経費として認められるが、関係性が薄い金額を必要経費として計上すると、税務調査において指摘を受ける恐れがある。また、必要経費として計上した金額は領収書等を保管しておかなければならない。
種類2.給与所得
給与所得とは、賃金や給料、俸給、賞与などに該当する所得をさす。一般的な会社員やサラリーマンが受け取る収入と考えればイメージが湧きやすいだろう。
給与所得からは、収入金額に応じた給与所得控除を差し引くことが認められている。したがって、課税対象となる給与所得の金額は、以下の式によって計算できる。
給与所得の金額=収入金額-給与所得控除
給与所得控除は時期によって金額が異なり、令和3年度の税制改正では一律10万円引き下げられた。計算する際には常に最新情報をチェックしておこう。
種類3.譲渡所得
譲渡所得とは、主に不動産や固定資産などの譲渡によって生じた所得のことだ。たとえば、土地や建物、株式などの譲渡によって発生した所得が該当する。山林や棚卸資産、販売目的の商品などの譲渡は含まれない。
譲渡所得は以下のように、譲渡する対象物によって、課税方式が分けられている。
【1】ゴルフ会員権、金地金、機械を譲渡した場合…総合課税
【2】土地、建物、借地権、株式を譲渡した場合…分離課税
課税対象となる譲渡所得の金額は、以下の式によって計算できる
譲渡所得の金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
譲渡所得からは、取得費や譲渡にかかった費用、特別控除額を差し引くことが認められている。また、譲渡する対象物の所有期間によって税率が変わってくる。ほかの所得に比べると計算がやや複雑といえよう。
種類4.不動産所得
不動産所得は、土地や建物といった不動産の貸付によって発生した所得である。船舶や航空機を貸し付けた際の所得も含まれるが、事業所得や譲渡所得に該当する金額は除かれるため注意が必要だ。
税法上では、不動産所得からも必要経費を差し引くことが認められている。たとえば、貸付資産に関する金額のうち、固定資産税や損害保険料、減価償却費、修繕費などだ。所得金額は以下の式によって計算される。
不動産所得の金額=収入金額-必要経費
なお不動産所得は、どのような収入形態であっても総合課税によって税額が計算される。
種類5.退職所得
事業主やサラリーマンなどが受け取る退職金のほか、一時恩給や老齢給付金のように退職をきっかけに支給される金額は、退職所得に分類される。
退職所得は内訳に関わらず分離課税が採用されており、所得金額は以下の式によって計算される。
退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除)×1/2
「退職所得控除」については、勤続年数によって計算方法が異なるので注意しておきたい。また、障害者になったことが原因で退職をした場合、退職所得控除の金額が100万円上乗せされる。
種類6.利子所得
利子所得とは、預貯金や公社債の利子によって生じた所得をさす。国内で発生した利子所得は源泉分離課税(源泉徴収によって納税)だが、国外で発生した所得は総合課税になる。
なお、利子所得には基本的に経費等が発生しないため、所得金額は下記の通りになる。
利子所得の金額=収入金額
種類7.配当所得
株式や出資による配当金・分配金は、配当所得に分類される。配当所得は大きく3つに分けられており、それぞれ課税方式が異なっている。
【1】法人からの配当金、公募株式等証券投資信託の分配金など…総合課税
【2】上場株式の配当金、公募株式等証券投資信託の分配金(申告した場合)など…分離課税
【3】特定目的信託における社債的受益権の分配金など…源泉分離課税
配当所得は負債利子が発生した場合にのみ、その金額を所得から差し引くことが認められている。したがって、配当所得の金額は以下の式によって計算できる。
配当所得の金額=収入金額-負債利子
ちなみに、一部の配当所得については「確定申告不要制度」が適用されるため、申告の手間を省きたい方は概要を確認しておこう。
種類8.山林所得
山林所得とは、山林を伐採して譲渡したことで発生する所得だ。山林の所有年数や譲渡方法によっては別の所得に分類される。
山林所得は、収入形態に関わらず分離課税が採用されており、以下の式によって所得金額が計算される。
山林所得の金額=収入金額-必要経費-特別控除額
15年前から所有していた山林を譲渡した場合は「必要経費の特例」が適用される。
種類9.一時所得
ここまで紹介したいずれの所得にも該当せず、かつ事業や資産譲渡との関係性がない所得は一時所得として扱われる。具体的な金額としては保険の一時金や懸賞の賞金などがあり、収入形態によって以下のように課税方式が分けられている。
【1】生命保険の一時金、懸賞の当選金や賞金など…総合課税
【2】期間が5年以下の一時払養老保険や一時払損害保険など…源泉分離課税
一時所得の金額は下記の式で算出する。
一時所得の金額=収入金額-必要経費-特別控除額
一時所得からは収入を得るために支払った必要経費のほか、特別控除額を差し引くことが認められている。
種類10.雑所得
年金による収入や原稿料など一時所得にも該当しない所得は、雑所得に分類される。雑所得は収入形態によって、課税方式と計算式の両方が変わる。
【1】年金、原稿料、講演料など…総合課税
【2】事業所得に該当しない、株式等を譲渡した際の所得や先物取引に係る所得…分離課税
【3】公社債の償還金のうち、一定の割引債の償還差益…源泉分離課税
なお、雑所得に該当する所得が年間で20万円以上ある場合、サラリーマンなどの給与所得者であっても確定申告が必要になる。
損をしないように所得控除を再確認!
所得税は身近な税金だが、その仕組みをすべて理解することは難しい。収入が発生したケースによって所得の種類や計算方法が異なるため、確定申告の前には収入の内訳を確認し、該当する所得をおさらいしておきたい。特に所得控除や税額控除は、適用のチャンスを逃すと損をしてしまう。関係する控除の仕組みを必ず理解しておこう。