24日、中国は教育制度に関する新たな方針を発表、少子化対策の一環として、過度な学歴偏重の是正を目指す。新たな規制は小中学生の宿題の量的制限から学習塾の運営方法まで多岐にわたる。とりわけ、後者については新規開業の禁止、既存学習塾の非営利法人化、株主上場の禁止といった徹底ぶりだ。
狙いは家計における教育負担の軽減、背景には「過酷な受験競争を勝ち抜くための教育費の高騰が “2人目” をためらう主因となっている」との認識がある。
中国の出生数は1979年に始まった「一人っ子政策」を契機に低下、2014年には生産年齢人口が減少に転じる。2015年、当局はこれを廃止するが昨年時点の合計特殊出生率は日本を下回る1.3人、反転の兆しは見えない。同時に高齢化も進展、2050年には総人口の1/3、4億5千万人が高齢者となる予測がされる。こうした中、5月には「1夫婦につき第3子まで」と、もう一段の緩和策を打ち出すなど人口増に向けての取り組みを強化、今回の施策もこの延長線上にある。
一方、労働人口の急速な減少に対応すべく、高校と大学それぞれのレベルに相当する職業訓練校の法律も改正する。具体的には職業訓練校卒を高卒、大卒と同等の学位であると認定し、就職や待遇、都市戸籍の取得などにおける差別を禁じる。エリート志向の学歴至上主義を是正し、労働力不足が深刻化しつつある製造部門へ人材を誘導する。また、民間企業の出資や運営参画も奨励、産官学一体の体制で国内製造業の基盤維持をはかる。
政策の強引さはいかにも中国的であるが、少子化対策としての効果は未知数であるし、一歩間違えば社会のダイナミズムを低下させかねない。中国経済の成長は幼少期からの強烈な上昇志向が原動力となってきたという側面があり、また、製造現場の待遇改善は当然ながらコストアップ要因となる。つまり、今回の改革は既存の競争要件からの転換を意図するとも言え、国内循環を主体としつつ国際競争力を維持する「双循環」戦略の補完施策と解釈することも出来よう。であれば、中国版 “ゆとり教育” の成否は内需を基盤とした生産性の向上、国内の格差是正の実現と一体的に考えられるべきであり、言い換えれば、少子化という一軸からの視点では本質を見失うということである。
今週の“ひらめき”視点 7.18 – 7.29
代表取締役社長 水越 孝