税理士が作った経営者の教科書,生命保険,小規模企業共済
(写真=Atstock Productions/Shutterstock.com)

生命保険

今回は法人契約の生命保険についてお伝えします。

縁起でもないことですが・・・

もし、万が一、社長が突然死亡したとしたら、会社はどうなるでしょうか?

まず、売上が落ちるのは必至です。

銀行からの借入金があれば、後継者の方が支払っていかなければいけないでしょう。

買掛金や支払手形も、当然支払わなくてはいけません。

会社を辞めてしまう従業員もいるでしょうから、退職金も支払わなければいけません。

他にも、社用車のローン、事務所の家賃、コピー機のリース代・・・

例を挙げていけばキリがありません。

また、個人では相続税が発生するかもしれません。

残された家族の生活のこともあります。

とにかく、お金が必要になるのです。

そんなときに助けてくれるのは何か?

それは、生命保険しかありません。

そういう意味では、法人で加入する生命保険は、経営リスクを下げる補償としてかなり優先度の高いものと考えるべきです。

では法人で加入する際に何を検討して選ぶべきでしょうか?

選定する際のポイントは、次の3点です。

 (1)保障の内容
 (2)掛け金が経費になるか資産になるか?
 (3)解約をしたときに解約返戻金がどれくらいあるか?

まず、(1)の「保障の内容」についてです。

死亡保険の必要性は言うまでもないですが、見落としがちなのが「医療保険」や「収入(生活)保障保険」です。

医療保険とは、ガンなどで入院をした際に病院代を補填する目的で加入するものです。

最近は保険適用外のガンの先進医療を受けた際に出る医療保険などもあります。

収入(生活)保障保険とは、死亡ではなく高度な障害が残ってしまって、仕事ができないようなときに出る保険です。

考え方によっては、死亡よりも生活費がかかる分、困ることになるかもしれません。

こういった内容を検討して、何に対する補償が必要かを考えることが基本です。

次に(2)の「掛け金が経費になるか資産になるか」についてです。

保険料を支払っているので、経費になるのは当たり前のように思えますが、実は保険の種類や保険金の受取人の設定によっては、経費にできないこともあるのです。

貯蓄型の保険や養老保険などは経費にならず資産になるもので注意が必要です。

また死亡保険についても、100歳を満期とするような長期平準保険は、期間に応じて経費になる率が決まっています。

最後は(3)の「解約をしたときに解約返戻金がどれくらいあるか」についてです。

生命保険の中には解約してもお金が戻らない掛け捨てタイプと、解約時に返戻金が戻ってくるタイプのものがあります。

返戻金が戻ることは嬉しいことですが、戻った際には収益として課税の対象となることを忘れてはいけません。

そのため、業績が悪い時に解約をして、損失と相殺をするような使い方もできます。

また何事もなく長年経営をして、いよいよ会社を畳むというときには、会社の清算費用がかかります。

テナントの原状復帰費用、従業員の退職金、清算登記費用その他にも会社を閉めるための費用は意外とたくさん発生します。

生命保険も解約となりますので、上記のような費用の原資として用い、残ったものは退職金にすることもできます。

参考に退職金の所得税はこのような金額になります。

  • 20年役員の任期があって1000万の退職金・・・所得税約5万円、住民税約10万円
  • 10年役員の任期があって1000万の退職金・・・所得税約20万、住民税約30万円

どうでしょう、税金が安いと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

将来の生活を保護する目的の退職金ということもあり、税制上も優遇があります。


ここまで3つの視点から法人契約の生命保険のお話をさせていただきました。

最後に生命保険の税制に関する改正の話をしたいと思います。

2019年に法人契約の生命保険の税制改正が行われました。

あまりに節税としての側面を押す販売が横行したためです。

もしかしたら、生命保険の営業の人などから「節税になる上に、返戻金も、すぐにたくさん返ってくる新商品が出来たので加入しませんか?」という話を聞くことがあるかもしれません。

でも、これは非常に危険です。

その「新商品」の生命保険に税制改正のメスが入り、経費として認められなくなったとしても、生命保険会社は責任を取ってはくれません。

なぜなら、生命保険の契約書のどこかに、小さな文字で「税制改正により取り扱いが変わる場合があります」と書いてあるからです。

昨今は節税のために生命保険に加入をするという考え方そのものが、監督省庁から厳しく見られることになりました。

生命保険が経費になるのはありがたいことですが、経費算入の側面だけでなく、保障の側面から考えて、その重要性を理解して加入を考えることが重要です。

総合的に考えて、生命保険の加入を検討していきましょう。

小規模企業共済

ここからは小規模企業共済を使った節税についてご紹介します。

以前に役員報酬の額を最適化することが節税の王道であることをお伝えしました。

会社に利益が出そうなときは、役員報酬を上げることが節税の基本です。

しかし、役員報酬を上げてしまうと、個人の税金も増えてしまいます。

あちらを立てればこちらが立たず・・・。

そこでオススメなのが、「小規模企業共済」です。

「小規模企業共済」というのは、簡単に説明すると「社長自身の退職金の積み立て」です。

まず、毎月一定の掛け金を、国が運営する「中小企業基盤整備機構」に支払います。

この支払った掛け金は、個人の税金を計算するときに所得から控除することができます。

それも、年間84万円までなら全額控除です。

(毎月の掛け金は、月額1,000円~70,000円の範囲で選ぶことができます。ですので、最大で月額7万円×12ヶ月=84万円ということです。)

一般の生命保険が、いくら支払っても5万円しか控除できないのと比べると、節税に非常に有利です。

そして、将来、自分が社長を辞任するとき(退職時)には、「支払った金額+α」が解約返戻金として返ってきます。

この返って来た金額は、「退職金」として課税されるので税金が安くなるのです。

どれだけの節税になるか、具体的な例でご説明します。

例えば、月額100万円(年間1,200万円)の役員報酬を受け取っている社長が、月額7万円(年間84万円)の小規模企業共済を20年間支払ってきたとします。

月額7万円(年間84万円)の小規模企業共済に加入した場合、個人にかかる税金は、毎年約20万円安くなります。

これが20年間続くと、20万円×20年=400万円の節税。

毎月7万円を20年間支払い、社長を辞任したときの小規模企業共済の解約返戻金は約1,850万円なのですが、この1,850万円に対する税金は、退職金としての課税なので、約60万円で済みます。

つまり、結果として、400万円-60万円=340万円 もの節税ができるのです。

節税になる上に老後の生活資金にもなるという、一石二鳥の優れた節税です。

ちなみに掛金の減額も簡単にできます。

また掛けたお金の範囲内であれば貸付を受けることもできます。

非常に使い勝手の良い節税ですので、ぜひ一度検討してみてください。(提供:ベンチャーサポート税理士法人