今回は「キャッシュフロー」について考えてみたいと思います。
キャッシュフローについては非常に重要なテーマですので、2回にわけてお伝えしていきます。
今回は「会社のキャッシュフローをどういう視点で見ていけばよいか」をベンチャーサポートの月次レポート「キャッシュフロー計算書」の読み方を通してご説明させてもらいます。
中小企業にとっては利益と同じかそれ以上に重要なのが「キャッシュがあるかどうか」です。
なぜなら、中小企業は赤字であってもすぐに会社は潰れませんが、キャッシュがなくなってしまうと即座に倒産だからです。
また社長にとって「儲かっている」「儲かっていない」という感覚はキャッシュの推移のほうが近いものです。
そこで確認していかなければいけないのが「キャッシュフロー計算書」です。
「キャッシュフロー計算書」と聞くと難しそうな感じがしますね。
簡単に言いますと
「月初から月末にかけての預金の残高はどういった要因で増減したか」
「毎月末の預金残高はどのように推移しているか」
を見る資料と考えて下さい。
まずは毎月の月末のキャッシュの残高の推移を見て下さい。
ここ数ヶ月でキャッシュの残高がどのように推移してきているか、なぜ減ったのか、を確認する作業です。
過去数ヶ月の推移を見て、社長自身の感覚とすり合わせをします。
これを毎月することで現場の忙しさや受注状況と、実際のキャッシュの関連を身につけて下さい。
過去の流れが見れたら、次は将来の資金繰りです。
経営者は「キャッシュが将来どれだけ残るか、足りなくなってしまわないか」が一番気になりますよね。
支払いなどは結構頭に入っているものですが、税金や社会保険、賞与などは意外に抜けていることが多いです。
ですので、ベンチャーサポートの会計報告では、毎月に社長に未来のキャッシュについて確認する時間を作っていただきます。
資金繰りが問題ないか、又は融資が必要かどうかなどの対策を考えるということを大事にするのが重要です。
もしキャッシュの予想がしにくいときは、「資金繰り表」を作成することをお勧めします。
資金繰り表というのは、1~2ヶ月将来でキャッシュが廻るかどうかを予見するためのツールです。
「いつにどういった支出が確定していて、どういった収入が見えているのか」を日々知ることができます。
さてキャッシュの毎月末の残高の推移と、これからの予想以外に、もう一点重要なのが、「キャッシュの増加や減少はどういった要因によるのか」です。
キャッシュが増えていても銀行からの融資で増えていては健全な経営とはいえません。
ですが預金残高しか見ていないと、融資で増えたのか、役員からの借入で増えたのか、本業で増えたのかがわからなくなってしまいます。
そこで見ていただきたいのが、キャッシュフロー計算書の「営業収支」という項目です。
この「営業収支」というのは「本業でどれだけキャッシュが増減したか」を示すものです。
営業収支は非常に重要なものです。
営業収支は単月ではお金が出て行くこともあるでしょう。
しかし、累計で見てマイナスになっているのは問題です。
本業でキャッシュが増加していることは、経営上必須の要件なのです。
回収サイトが知らず知らずのうちに延びていないか、在庫を仕入れ過ぎていないか等、営業収支についてはしっかり確認するようにしましょう。
また銀行の融資でも「営業収支」は着目されます。
「キャッシュフローは嘘をつかない」という言葉がありますが、利益は、減価償却や未払費用の調整などですぐに額が変わります。
しかし、キャッシュフローは操作できません。
特にこの営業キャッシュフローが赤字になっていては融資の土台に乗るのが困難になります。
営業収支についてはしっかり確認して、少しでもキャッシュフローが改善されるようにしてください。
次に「キャッシュはどうなれば増えるのか」「キャッシュはいくらくらいあれば健全なのか」について一緒に考えたいと思います。
「キャッシュが楽になる経営」とはどのような経営でしょうか?
売上をあげた場合、キャッシュは本当に楽になるでしょうか?
残念ながらNOの可能性があります。
なぜなら、売上が上がるということはそれに対応する仕入も増えるので、支払うキャッシュも増えるのです。
さらに在庫の品揃えも増やさないと売上は上がらないものです。
不良債権になりそうな滞納も出てくるかもしれません。
ということは、売上があがっても結局キャッシュの状況はあまり変わらないこともよくあるのです。
では、どうすればキャッシュの状況が楽になるかといいますと、
①粗利率を上げる
②在庫の回転期間を短くする(=在庫を減らす)
③売掛金・買掛金のサイトを変更する
の3つに集約されます。
粗利率が極端な話100%であれば、固定費を越える部分は全て利益としてキャッシュが残ります。
ということはそれだけキャッシュは残るというのがイメージできると思います。
実際は100%でなくても、粗利率を少しでも上げるという意識を持って経営しなければキャッシュの状況は楽にはならないでしょう。
また在庫の回転期間を短くすればキャッシュは残ります。
在庫とはお金が形を変えたものです。
つまり在庫になっている時間が長ければ長いほど、お金が「在庫」という形に姿を変えている時間が長いということです。
また在庫の回転数が早いと、回収したキャッシュを次の仕入れなどへ再投資するスピードも上がります。
結果的には「お金」→「在庫」→「お金」→「在庫」の良い流れを短時間でグルグル廻すことができるようになります。
しかし、早く売れるように工夫することには限界がありますので、「早く売れる商品」に力を入れて販売していくことがキャッシュフローを考えると重要です。
逆に死に筋商品は損を出してもキャッシュに換えて、儲かる商品を仕入れるようにすることも考えなければいけません。
できる経営者の方は
「スグにキャッシュを生むための回転率重視の商品」と
「売れるまでは時間がかかるが、売れると大きな利益を生む利益率重視の商品」
のバランスが非常に上手いです。
在庫については社長のチェックが甘くなりがちですが、無駄にお金を眠らせているという意識を強く持ってもらってください。
「在庫」が「罪庫」ではなく「財庫」になるようにしましょう。
最後はわかりやすいですが、「すこしでも早くお金を貰い、遅く支払う」ようにすればキャッシュは当然楽になります。
受注時に有利な入金サイトの条件で契約する意識が高いか、逆に不当に短い支払いサイトの仕入先がないかの確認をしたり、未回収案件を一覧表にして管理したりします。
ただし強引に支払いサイトを変更する方法は得意先に迷惑がかかることもありますので、最終手段といえるかもしれません。
では会社にとって通帳に残しておくべきキャッシュはいくらくらいなのでしょうか?
いろいろな考え方がありますが、
「1ヶ月間の固定費の額は少なくとも残しておく」
「できれば1ヶ月間の売上に相当するキャッシュを残しておく」
「仕事の1サイクルにかかる時間に相当するキャッシュを残しておく」
といった考え方をされる経営者の方が多いようです。
この3つは上から下に進むに連れて、残しておくお金の額は高くなります。
事業内容などにもよりますが、個人的には「1ヶ月の売上に相当するキャッシュを残しておく」というのが良い考え方と思っています。
「1ヶ月の売上に相当するキャッシュが残ってない」という状態は、言い替えれば「来月の売上がなければキャッシュが廻せない」という自転車操業の状態に入っていることになります。
つまり、もし来月の売上がなんらかの理由で入ってこなければ、給料などの支払いができない状態では心もとないということです。
創業当初はほとんどの方が「1ヶ月分の売上に相当するキャッシュなんて全然ないよ」ということになると思います。
これは当然です。
ですので、この目標は、2年~3年ほどしてからのものと思った方がよいかと思います。
ちなみに「キャッシュの残高」というのは、単に会社の法人通帳の残高を言っているのではありません。
社長自身は節税のために役員報酬を高めに取っているのであれば、社長の個人通帳に「事業用資金」が溜まっているはずです。
このお金も含めて、「キャッシュの残高」と考えて下さい。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)