「最低賃金時給1,500円」へ引き上げ? 日本は韓国の末路を辿るのか
(画像=moonrise/stock.adobe.com)

最低賃金をめぐり、労働組合側と企業側の対立が深まりつつある。全国労働組合総連合は全国一律で「時給1,500円」を求めるが、日本商工会議所側は現在の水準を維持するべきという姿勢だ。仮に時給1,500円が達成されたら、日本経済にはどのような影響があるのか。

「全国一律1,500円」を求める全労連

労働組合の全国組織である「全国労働組合総連合」(全労連)は5月31日、記者会見を開き、全国一律で時給を1,500円まで引き上げることが必要だと、厚生労働省の中央最低賃金審議会に対して訴えた。このタイミングで記者会見を開いたのは、5月26日から中央最低賃金審議会が始まり、地方でも最低賃金の改定について議論が行われるからだ。

全労連は公式サイトに掲載している「オピニオン」で、「コロナ禍のもとでいっそう広がる貧困と格差の是正、地域経済の再生のために、最低賃金を1500円に引き上げ、全国一律最低賃金制度の実現に向けた格差の是正を行うよう決断を求める」としている。

また、低賃金・不安定雇用の非正規雇用労働者について、スーパーなどで働く人の約22%が「最低賃金×1.15未満」の低賃金で働いていることに触れ、「これらの人々と日本経済を守るためには最低賃金を引き上げることが必要」と強調した。

さらに、コロナ禍収束後の経済の回復には時間がかかることから、「すべての労働者・国民の生活が持続可能となる手立てが求められる」とし、最低賃金の改善による賃金格差の是正などが必要だとしている。

欧米における引き上げ状況と日本の最低賃金

また全労連は、欧米ではアフターコロナの景気回復を見据えた最低賃金の引き上げが目立っていることも強調している。具体的には、アメリカやフランス、ドイツなどの例を挙げて説明している。

<欧米各国の最低賃金の引き上げの動き>

「最低賃金時給1,500円」へ引き上げ? 日本は韓国の末路を辿るのか
※1ドル=109円換算/1ユーロ=132円換算/1ポンド=153円換算
※アメリカは連邦政府と契約する企業が対象
※イギリスは25歳以上が対象

ちなみに、2020年度の日本の最低賃金は以下の通りとなっている。全国平均(加重平均)は902円だ。

<各都道府県の最低賃金>

「最低賃金時給1,500円」へ引き上げ? 日本は韓国の末路を辿るのか
※出典:厚生労働省

日本商工会議所側は「現在の水準を維持するべき」

このような全労連の主張に対し、日本商工会議所(日商)側は現時点では最低賃金の引き上げには反対の姿勢だ。

日商の三村会頭は6月2日報道陣に対して、「(引き上げが)できる状況ならやるべき」としながらも、中小企業がコロナ禍からの業績の回復が予想以上に遅れていることを指摘し、当面は現在の水準を維持すべきだと強調した。

ちなみに、日商と全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会は4月15日、3団体連盟で「今年度は、足下の景況感や地域経済の状況、雇用動向を踏まえ、『現行水準を維持』すること」を求めている。

韓国では雇用に悪影響、日本も同様に?

現在はこのように、今年度の最低賃金の改定について労使の意見がかみ合っていない。最終的にどのような決定がなされるかは分からないが、しかしもし最低賃金一律1,500円になったら日本経済にはどのような影響が出るのか。

その将来を隣国・韓国の例から考えてみよう。韓国では2018年に約16%、2019年に約11%、2020年に約3%の最低賃金の引き上げを行った。その結果、どうなったのか。

結果として、企業で働いている労働者の給与は増えたが、中小企業などの財務基盤が悪化した。その結果、新規雇用が減少し、雇い止めも増えた。そして、若者を中心に失業率が高止まりするという問題も起きている。

日本でも最低賃金を一気に1,500円まで引き上げた場合、このような雇用の減少とそれに伴う失業率の悪化が起きる可能性は十分にある。もちろん、労働者の一定程度の生活水準は守らなければならないが、過度な引き上げは逆効果になることもあるわけだ。

中央最低賃金審議会が2021年度の地域別最低賃金額改定の目安について、答申をまとめるのは7月下旬になる見込みだ。どのような内容となるのか、注目が集まる。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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