コンセンサスゲームは、グループでの合意形成をゴールとするゲームだ。この記事では、コンセンサスゲームの種類やルール、活用場面やゲームを進める流れ・手順をわかりやすく解説する。コンセンサスゲームを採用活動や研修で取り入れたい人は、ぜひ参考にしてほしい。
目次
コンセンサスゲームとは?
コンセンサスゲームとは、グループでの合意形成(コンセンサス)を目的とするゲームのことだ。指定された物語をグループメンバーで読み、その後、話し合いで意見を出し合う。話し合いでは、メンバー全員で1つの合意に至ることを目指す。
しかし、多数決や譲り合いの精神で決めてはならない。対等にディスカッションし、合意を得るプロセスを重視するゲームである。
3つのコンセンサスゲーム
コンセンサスゲームにはさまざまな種類がある。コンセンサスゲームを3つピックアップして紹介する。
1.回答があるから面白い「NASAゲーム」
「NASAゲーム」は、「脱出系コンセンサスゲーム」の1つで、大まかなストーリーは次の通りだ。
あなたたちは宇宙飛行士で、宇宙船に乗っている。月面には母船が待っているが、宇宙船が故障し、母船より200マイル(約320km)離れた場所に不時着してしまった。不時着の衝撃で、宇宙船は壊れ、使用できない状況だ。死を免れるためには、何としてでも母船にたどり着かなければならない。宇宙船には、破損を免れた15のアイテムがあった。
母船にたどり着くための重要度に応じて、15のアイテムに1~15までの優先順位をつける(最も優先順位が高いのが1、最も優先順位が低いのが15)。15のアイテムは次の通りだ。
- マッチの入ったマッチ箱
- 固形の宇宙食
- 約15mのナイロン製ロープ
- パラシュート
- ソーラー発電の携帯用ヒーター
- ピストル2挺
- 粉ミルク1ケース
- 酸素ボンベ2本
- 月面用の星座図
- 自動的にふくらむ救命ボート
- 方位磁石
- 水19リットル
- 信号用照明弾
- 注射器の入った救急箱
- ソーラー発電式FM送受信機
「NASAゲーム」の面白いところは、NASAによる回答が用意されていることだ。そのため、コンセンサスゲームをプレイしたあと、答え合わせをすることができる。
「脱出系コンセンサスゲーム」には、他に「砂漠からの脱出」「雪山での遭難」といったシナリオもある。
2.お互いの価値観がわかる「小さな泥棒」
「小さな泥棒」は「価値観系コンセンサスゲーム」の1つで、大まかなストーリーは次の通りだ。
とあるコンビニで、小学生ぐらいの男の子が、おにぎりをつかんでお金を払わないまま店の外に走り去った。次の日も、その次の日も、男の子はおにぎりを持って走り去った。
レジには、バイトのA君がいた。防犯カメラを見た店長は、A 君に男の子を捕まえて警察に連絡するよう伝えた。しかし、A 君は男の子を捕まえなかった。店長はA 君を問いただしたが、A 君は何も答えない。店長はA 君をクビにした。
盗んだ男の子、バイトのA 君、店長の3人について、一番間違っている行動をしていると感じる人物は誰か? 1~3までの優先順位をつける(最も間違っていると感じるのが1、最も間違っていないと感じるのが3)。
このコンセンサスゲームに、絶対的な正解はない。それぞれのものの見方・考え方が反映される結果となる。そのため、合意にいたるのは簡単ではないが、それぞれの価値観の違いを認め合いながら合意に向けて話し合う。
「小さな泥棒」では、ちょっとしたエピローグも用意されている。エピローグ動画は無料で公開されているので、実際にコンセンサスゲームを実施する時は、ゲームの最後にエピローグ動画を流すのもいいだろう。
「価値観系コンセンサスゲーム」には、他に「無人島での出来事」「聖夜のケーキ店」「生存者たち」といったシナリオもある。
ただし、「価値観系コンセンサスゲーム」は、答えがないだけに時として白熱してしまいがちだ。また、シナリオによっては、ジェンダーや労務に関する問題をはらんでいたり、参加者の恐怖心をあおってしまったりするケースがある。そのため、「価値観系コンセンサスゲーム」を行う時は十分注意したい。
3.思考スピードが鍛えられる「船長の決断」
「船長の決断」は制限時間のある「決断系コンセンサスゲーム」の1つで、大まかなストーリーは次の通りだ。
あなたは旅客船「サンシャイン号」の船長だ。
港を出発し、穏やかに航海していたが、霧が濃くなり視界が悪化してきた。レーダーに他の船の影が映り、あわててよけようとしたが、よけられずに衝突してしまった。船長として、ただちに適切な判断を下さなければならない。
判断を下す順序について、1~10までの優先順位をつける(最も優先順位が高いのが1、最も優先順位が低いのが10)。
- 音楽:興奮を鎮めるため船内に音楽を流す。
- 救命艇:乗務員に救命艇の降下を命令する。
- 発電機:非常用発電機の運転をチェックさせる。
- 釣道具:各救命艇に釣道具を分配させる。
- 医薬品:船医に医療品を持ち出させる。
- 状況把握:衝突箇所に行くよう乗務員に指示し、事故状況を確認させる。
- 非常通知:船内に非常事態だと通知する。
- 水密戸(水の侵入を防ぐ戸):船体破損区画の水密戸を閉鎖させる。
- 相手救助:相手船の乗務員の救助のため救命艇を下ろさせる
- SOS発信:近くを航行中の船にSOSを発信し救助を求める。
「船長の決断」は、危機的な状況を想定したコンセンサスゲームだ。そのため、グループ討議は制限時間を設けることが一般的だ。
「船長の決断」では、時間が限られた中で合意形成する難しさを実感できる。「船長の決断」も模範回答が用意されている。そのため、コンセンサスゲームをプレイしたあと、答え合わせをするのもいいだろう。
「決断系コンセンサスゲーム」には、他に「見えない侵略者」というシナリオもある。
コンセンサスゲームの2つの活用場面
企業がコンセンサスゲームを活用できる主な場面は、採用と人材育成だ。続いて、それぞれの場面での活用アイデアを簡単に紹介する。
1.採用
グループワークでコンセンサスゲームを実施し、話し合い場面に面接者が同席すれば、採用の可否を決めるための判断材料を得られる。たとえば、次のような視点が考えられる。
- 話し合いに積極的に参加しているか?
- 自分の意見を強引に押し通そうとしていないか?
- 自分の意見を押し殺し、過度に人に合わせる傾向はないか?
- 自分の意見の根拠を合理的、客観的に説明できているか?
- 話し合いの雰囲気をよくするための気遣い、配慮はみられるか?
2.人材育成
社内の人材育成でもコンセンサスゲームは活用できる。研修でコンセンサスゲームを実施し、社員同士で意見交換をすれば、コミュニケーションが活性化して仕事においても連携を取りやすくなる。
日頃かかわる機会の少ない他部署同士でチームを作ったり、さまざまな役職・年次の社員でチームを作ったりするといいだろう。また、経営者や上司が話し合いの場を見て回ることで、社員の意外な一面を発見できるかもしれない。
コンセンサスゲームの流れ
続いて、コンセンサスゲームの流れをわかりやすく解説する。大まかな流れがあるものの、コンセンサスゲームの進め方は厳密に決められているわけではない。流れを参考にしつつ、自社に合った形で取り入れてほしい。
チームを分ける
まず、3~6人のメンバーでチームを作る。チーム作りを各人に任せると、親しい相手を選ぶ、部署でかたまるなどかたよりが生まれるため、くじびきなどランダムな方法を採用することが望ましい。採用活動でコンセンサスゲームを実施する場合や、新入社員がいる場合、日頃顔を合わせないメンバーがいる場合、最初に簡単な自己紹介タイムを設けるのもいいだろう。
動画を見る/あらすじを読む
チームメンバー全員で、コンセンサスゲームのシナリオ動画を見る。シナリオの文章をプリントアウトし、全員で読むのでもかまわない。全員が必ず全文を読み終えるようにする。
各人で意見をまとめる
続いて10~15分時間をとり、話し合う前にまずは個々人で優先順位を決める。話し合いの場で意見を変える人が出ないよう、紙を用意して優先順位を記載するよう指示するといいだろう。
チームで話し合う
それぞれが考えた意見をもとに、チームで話し合う。制限時間は15~30分ほどだ。話し合いでは、お互いに優先順位を記載した紙をオープンにしてディスカッションすると意見のすり合わせがしやすい。
コンセンサスゲームでは、多数決で決めたり、遠慮して人の意見に合わせたりするのはルール違反だ。小数派の意見にもしっかり耳を傾け、納得いくまで議論を重ねつつ、全員の合意形成を目指すことがポイントである。
チームの回答を発表する
チームの意見がまとまったら、最後にチームごとに合意にいたった回答を発表する。回答発表では、これまでのディスカッションの内容を踏まえ、どうしてその優先順位にしたかという理由も紹介するといいだろう。
講評や感想発表をする
チームの回答発表が終わったら、最後に経営者や上司から講評を行う。コンセンサスゲームでは、講評が非常に重要だ。たとえば次のような内容を講評で伝えるといいだろう。
- コンセンサスゲームはあくまで合意形成のプロセスを体験することが趣旨であり、正解したからいい、不正解だったから悪い、というわけではないこと。
- 話し合いで得られたことを大切にしてほしいこと。
- 話し合いを通じて、どんなことを感じたのか。その感想を、業務や日常生活に活かしてほしいこと。
また、講評の前に、グループから1人ずつ感想発表をしてもらうのも面白い。感想発表があれば、それを踏まえて講評することもできる。
コンセンサスゲームを採用や人材育成に活かそう
コンセンサスゲームを通じてコミュニケーションをとることで、合意形成の難しさを学ぶとともに、自分とは違う判断基準や価値観に触れることができる。仕事仲間の意外な一面を知る機会にもなるだろう。採用や研修でコンセンサスゲームを活用し、人材育成に活かしてほしい。
文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)