給与計算,方法
(写真=Jo Panuwat D/Shutterstock.com)

従業員に支給する給与は、定められた計算式によって算出される。支給される項目はいくつもあり、そこから様々な控除額を差し引いて従業員に支給される。給与の支払い方法には「日給」「月給」「年棒」などがあるが、今回は多くの企業で採用されている月給制の給与計算方法をお伝えする。

給与計算の基本的な流れを解説

給与計算の流れをお伝えする前に、給与(賃金)を支払う際の原則についてお伝えする。労働基準法では、賃金の支払いに関する5つの原則を以下のように定めている。これを「賃金支払の五原則」という。

賃金支払の五原則!従業員に給料を払うときに守らなければならない5つのこと

・労働基準法
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(後略)

○2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金については、この限りでない。

つまり賃金は「1.通貨で」「2.直接労働者に」「3.その全額を」、賞与などを除いては「4.毎月1回以上」「5.一定の期日を定めて」支払わなければならないのだ。

1.通貨払の原則
賃金は現金または金融機関への振込による通貨払が原則であり、小切手・商品券・貴金属・商品などの現物(実物)支給は禁じられている。なお通勤手当は賃金に該当するが、労使双方の同意があれば定期券を現物支給することもできる。

2. 直接払の原則
中間に本人以外の者が入ることによる搾取を排除して直接本人に賃金を帰属させるために、本人以外の者に賃金を支払うことを禁じている。ただし本人が病気・災害などで賃金を受け取れない場合は、家族等が「使者」として受け取れるケースもあるが、社会通念上本人に支払うのと同一の効果を生ずるような者であるか否かによって判断することとなる。

3. 全額払の原則
賃金の一部を支払わないことによる従業員の退職の足止めを防ぐほか、直接払の原則とともに労働の対価の全額を本人に帰属させるために、一部支払いや分割払いを禁じている。ただし、所得税の源泉徴収や厚生年金保険・健康保険・介護保険・雇用保険などの社会保険料などは例外となっている。

4. 毎月払の原則
賃金の支払期日の間隔が開き過ぎることによる労働者の生活上の不安を除くことを目的としている。毎月1日から月末までの間に1回以上の支払日を設けなければならず、「2ヵ月に1回」や「1ヵ月半に1回」といった支払い方法は禁じられている。

5. 一定期日払の原則
支払日が不安定で間隔が一定しないことによる、労働者の計画的な生活設計や資金繰りなどが困難になることを防ぐ目的としている。支払日は、「毎月10日」「毎月25日」「毎月末日」などが一般的だ。

この賃金支払の五原則に基づいて、毎月従業員に給与が支払われる。次に、給与計算の基本的な流れをお伝えする。

給与計算の基本的な流れ

給与計算の流れは以下の4ステップになっている。

1.労働時間の集計
タイムカードなどを確認し、従業員の1ヵ月の労働時間を集計する。

2.総支給額の計算
基本給のほか、残業代や各種手当の合計額を計算する。

3.控除額の計算
社会保険料や税金の合計額を計算する。

4.控除額を差し引く
総支給額から控除額を差し引いて従業員の「手取額」が確定する。

次に、「支給するもの」と「控除するもの」にはどのようなものがあるか、それぞれも内容についてお伝えする。

支給する給与や手当の種類は?「固定」で支払うものと「変動」のもの2種類

まずは、タイムカードなどで1ヵ月の所定労働時間内の勤務のほか、残業・深夜勤務・休日出勤や、早退・遅刻・欠勤などの時間を確認し、労働時間・時間外勤務時間・欠勤控除の計算と集計を行う。その上で、給与や手当などの支給額を計算する。支給額には、毎月決まった額が支払われる固定的なものと、月によって支払額が変わる変動的なものがある。以下でこれらの詳細をお伝えする。

固定的に支給するもの

従業員に固定的に支払わなければならない給与や手当は以下の6つだ。

1.基本給
基本給とは、残業手当・通勤手当・役職手当・歩合給・業績給などを除いた基本賃金のことだ。その月の営業成績・勤務状況などに関わらず支払われる。基本給は、年齢・学歴・技能・職種・勤続年数などを考慮して決められることが多い。

2.役職手当
管理・監督職やそれに準ずる職務に就いている人に対して支給する手当である。管理職手当・役付手当などの名称で呼ばれることもある。管理・監督職については、企業によっては後述する時間外手当を支給しないとする企業もあり、その補てんの意味を持つこともある。

3.資格手当
業務に必要な資格・免許などを持っている場合に支給する手当。

4.住宅手当
企業が福利厚生の一環で、生活の援助を目的として住宅費の補助として支給する手当。

5.家族手当
配偶者や子どもなどの扶養家族がいる場合に支給する手当で、扶養手当とも呼ばれる。家族・扶養の定義は企業によって異なり、配偶者の収入や子どもの年齢などが基準となることが多い。

6.通勤手当
自宅から勤務先までの通勤にかかる費用を支給する手当。電車代やガソリン代などを従業員が受け取るが、定められた限度額までは非課税となり、所得税・住民税の課税対象にならない。ただし、厚生年金・健康保険などの社会保険料は、通勤手当を含めて計算される。通勤手当の1ヵ月あたりの非課税限度額は、以下のとおりだ。

A:交通機関または有料道路を利用している人に支給する通勤手当
1ヵ月当たりの合理的な運賃などの額(最高限度15万円)

B:自動車や自転車などの交通用具を使用している人に支給する通勤手当
通勤距離によって異なる。たとえば片道2キロメートル未満の場合は全額非課税で、片道55キロメートル以上の場合の非課税限度額は3万1,600円だ。

C:交通機関を利用している人に支給する通勤用定期乗車券
1ヵ月当たりの合理的な運賃などの額(最高限度15万円)

D:交通機関または有料道路を利用するほか、交通用具も使用している人に支給する通勤手当や通勤用定期乗車券
1ヵ月当たりの合理的な運賃などの額とBの金額との合計額(最高限度15万円)

変動的に支給するもの

固定的に支払うものに比べて、変動的に支払いをするのは以下の4つだ。

1.歩合給
営業成績や出来高などに応じて、基本給とは別にインセンティブとして支給する手当。

2.時間外手当
いわゆる残業代と呼ばれるもので、労働基準法で定められている所定労働時間(原則1日8時間・週40時間)を超える労働時間に対する手当だ。中小企業の時間外手当は、以下のように計算される。

・時間外労働時間 × 1時間あたりの賃金 × 割増率(25%以上)

なお、「1時間あたりの賃金」は以下のように計算される。

・月給÷1年間における1ヵ月平均所定労働時間

この「月給」には、住宅手当・家族手当・通勤手当は含めない。また、1年間における1ヵ月平均所定労働時間は、以下のように計算される。

・(365-年間所定休日日数)×1日の所定労働時間÷12

3.超過勤務手当
時間外手当のうち、深夜(22時から翌日5時まで)に残業した場合(深夜手当)や休日出勤をした場合(休日手当)に支給する手当。深夜手当は25%以上、休日手当は35%以上と、それぞれ割増率が定められている。

たとえば、勤務日に深夜まで残業した場合は「時間外手当25%以上に深夜手当25%以上を加えたもの」が、休日に深夜まで残業した場合は「時間外手当25%以上に休日手当35%以上を加えたもの」が支給されることになる。

4.欠勤控除
これは支給される手当ではないが、欠勤・遅刻・早退をした場合に、勤務していない時間分の賃金が控除されるものである。控除額についての規定などはないため、企業側が自由に設定することができるが、控除をしないという選択もできる。

「固定的に支給するもの」と「変動的に支給するもの」の合計が「総支給額」となる。

給与から差し引く控除は2種類!「法定控除」と「その他の控除」

次に、総支給額から差し引かれる様々な控除についてお伝えする。控除には「法定控除」と「その他の控除」があり、それぞれの内容を順に説明する。

法定控除

法定控除とは、労働保険徴収法や健康保険法、厚生年金保険法、所得税法などの法律によって、給与から差し引かなければならない控除のことだ。法定控除には、以下のようなものがある。

1.雇用保険料
雇用保険は、労働者(従業員)が失業した場合や、企業が従業員の雇用継続が困難となる事由が生じた場合、従業員が職業教育訓練を受けた場合などに、従業員に対して給付金などが支給される制度だ。

給付の種類には、失業時に受け取れる基本手当(失業保険)、出産後の育児休業中に受け取れる育児休業給付、家族の介護のために休業した時に受け取れる介護休業給付、資格取得などの際に受け取れる教育訓練給付、60歳以降に受け取れる高年齢雇用継続給付などがある。

雇用保険料は企業と従業員がともに保険料を負担し、毎月の保険料は以下の計算式で決まる。

雇用保険料=その月の総支給額×保険料率(%)

保険料は業種などによって異なり、2019年度は以下のとおりだ。保険料の納付先は、都道府県労働局または所轄の労働基準監督署となる。

2019年度の保険料率
事業の種類 1労働者負担
(失業等給付の保険料のみ)
2事業主負担 雇用保険料率
1+2
失業等給付の 保険料率 雇用保険二事業の保険料率 合計
一般の事業 3/1,000 3/1,000 3/1,000 6/1,000 9/1,000
農林水産・ 清酒製造の事業 4/1,000 4/1,000 3/1,000 7/1,000 11/1,000
建設の事業 4/1,000 4/1,000 4/1,000 8/1,000 12/1,000

2.健康保険料
健康保険は、加入者の生活の安定を図ることを目的とした社会保険制度で、病気やけが、それによる休業、出産、亡くなった時などに医療給付や手当金が支給される。

健康保険の運営主体は「全国健康保険協会(協会けんぽ)」と「健康保険組合」があり、中小企業の多くは協会けんぽに加入している。協会けんぽの保険料率は、都道府県によって異なる。保険料は「標準報酬月額」を基に計算され、企業と従業員が半分ずつ負担する。保険料の納付先は年金事務所だ。計算式は以下のとおりだ。

・健康保険料(労使とも)=標準報酬月額×健康保険料率 ÷ 2

3.介護保険料
介護保険は、40歳以上の健康保険加入者全員が加入するものだ。介護サービスが必要な「要支援」「要介護」の認定を受けた場合には、被保険者はその介護の度合いに応じた介護サービスを受けることができる。介護保険は65歳以上の「第1号被保険者」、40歳から64歳の「第2号被保険者」に区分されており、区分によって介護サービスを受けられる要件が異なる。

協会けんぽの介護保険料率は以下のとおりで、保険料は企業と従業員が半分ずつ負担する。保険料の納付先は年金事務所だ。

・一般被保険者:2019年3月分から:1.73%
・任意継続被保険者、日雇特例被保険者:2019年4月分から:1.73%

4.厚生年金保険料
厚生年金は国の年金制度で、高齢になった時に受け取れる「老齢年金」、所定の障害を負った場合に受け取れる「障害年金」、亡くなった時に遺族が受け取れる「遺族年金」がある。こちらも企業と従業員が保険料を半分ずつ負担し、年金事務所に納付する。2017年9月分以降の保険料は、以下のとおりだ。

・厚生年金保険料(労使とも)=標準報酬月額×18.300%÷2

健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料は標準報酬月額を基に計算され、標準報酬月額は給与などの平均額を等級表に当てはめることで決まる。毎年4月から6月の賃金を基に決定された額がその年の9月から適用され、原則的に1年間は同じ標準報酬月額で保険料が計算される。

標準報酬月額の計算には基本給をはじめ、残業手当・役職手当・家族手当・住宅手当・通勤手当なども含まれる。また、賞与についても各種保険料が控除される。

前述のとおり健康保険料率は都道府県ごとに異なるが、一例として東京都の健康保険料率は9.90%で、これを労使折半で負担することとなっている。

5.所得税
所得税(源泉所得税)については、企業が従業員の給与の額に応じて天引きをし、税務署に納付する「源泉徴収」方式がとられている。源泉徴収の額は「源泉徴収税額表」によって決められた見込額であるため、1年間(1月1日から12月31日まで)の所得が確定した段階で再度所得税額を計算し、すでに支払った源泉所得税額との差額を調整する。これが「年末調整」と呼ばれているものだ。

所得税の課税対象は、総支給額から非課税分の通勤手当、健康保険・介護保険・雇用保険の保険料を引いた額だ。なお「扶養親族等の数」によって税率が異なるため、従業員に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらい、計算することになる。

所得税に加えて徴収されるものに「復興特別所得税」がある。これは東日本大震災の復興財源の確保を目的に2013年に制定されたもので、源泉徴収の際に併せて徴収される。復興特別所得税は、給与と賞与に課税される。税額は所得税額の2.1%で、2037年分まで徴収される予定だ。

6.住民税
住民税も所得税と同様に、基本的には企業が従業員の給与から天引きをする「特別徴収」方式がとられている。納付先は、従業員が居住する各自治体(市区町村)だ。所得税のように税額を計算する必要はく、従業員が1月1日時点で居住している自治体に前年の給与額を通知し、その額を基に住民税額が計算され、前年分として6月から翌年5月まで控除される。

その他の控除は?

法定控除以外の控除は企業によって内容が異なるが、財形貯蓄や給与天引きで支払う生命保険料、社員旅行の積立費用、寮・社宅の利用料などがある。いずれの場合も、給与から控除する場合は控除に関する協定を従業員と結ぶほか、所得税の算出に関連する控除かどうかを確認する必要がある。

給与計算は会社の重要な業務!支給額の計算はミスのないように

ここまでお伝えしてきたように、給与計算は基本給をはじめとする様々な手当を合計して総支給額を算出した後、雇用保険・健康保険・介護保険・厚生年金の保険料や所得税・住民税などの法定控除とその他控除を計算し、総支給額から控除額を差し引き「支給額(手取り額)」が決まる。文章にすると長くて複雑だが、計算式は以下のとおりで、給与計算ソフトなどを使えば簡単に計算できる。

・支給額(手取り額)=総支給額-(法定控除+その他控除)

もし、自分での計算が不安な場合は給与計算ソフトの導入など検討するのもよいだろう。いずれにせよ、従業員との信頼にも関わる給与計算については、ミスのないよう慎重に行おう。

文・THE OWNER編集部