異色経営者が挑む!スシロー革命の全貌 あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一
(画像=© テレビ東京)

新宿の地下にも出店 定番のネタがおいしい理由

東京・足立区のスシロー環七青井店。緊急事態宣言によって時短営業を強いられる外食業界にあって、スシローは直近半年間(2020年10月~21年3月)の業績が過去最高を記録した。その秘密の一つが、店から運び出した銀色の荷物にあった。

荷物をトラックへ積み込み走ること15分、運ばれた先は葛飾区のJRの亀有駅だ。駅構内の改札の真横に「スシローToGo」があった。今拡大中のお持ち帰り専門店だ。

荷物の正体は作りたての寿司。電車の乗降客だけでなく、わざわざこれを買いに来る人もいて、大行列を作っていた。もちろん安さは変わらない。大人気の「海鮮ちらし」はネタがびっしり詰まって580円だ。

拡大するテークアウトの需要を掴むため、スシローは駅構内の小型店を急ピッチで増やし続けている。

「テークアウト利用が普段の2倍以上ある。よりスシローを身近に感じていただける業態だと思っています。年内に10店舗以上、出店したいと思います」(出店責任者・田中俊作)

そして新宿にはスシロー新宿三丁目店が出店した。今、スシローが出店攻勢をかけるのは都市型店舗。これまで郊外のロードサイドが中心だったが、繁華街も狙い始めたというわけだ。回転寿司といえば1皿110円だが、家賃の高い都市型店では132円が中心となる。

客をがっちりつかむ裏には、独自戦略があった。

スシロー新戦略①「定番重視」

今や回転寿司業界はなんでもありの状態だ。パスタやハンバーグなど、ここ数年、各社がメニューのバラエティー化を競い合ってきた。

 だが、スシローが一番重視するのはマグロやハマチ、サーモンなど110円の定番ネタの味だという。例えばマグロの赤身は、キハダマグロを廃止し、味が濃厚な40キロ以上のメバチマグロだけに限定した。

「濃厚でマグロの味が強くおいしいので、価格的には高くなりますが、スシローとしては大きくて安定した方をお客様に届けたい」(商品部・山上雅則)

そして、通常は尻尾だけ行う身質のチェックも、中心部まで確認。合格したものだけを仕入れる厳しいチェック体制をしいた。

「本当に身の中まで大丈夫なのかを厳しく。定番を強化するために加えた選別方法です」(山上)

スシローは定番を徹底的に強化し、客をつかむ戦略なのだ。

早すぎる!独自開発レーン&店内は徹底した非接触

スシロー新戦略②「レーンのスピードアップ」

スシローの客によれば、パネルで注文すると、驚くほどの早さで寿司が流れてくるという。その秘密が独自に開発した引き込みレーンにあった。注文した寿司が流れる専用レーンから、それぞれのテーブルに枝分かれして寿司が届く仕組み。これにより、専用レーンが混み合うことなく、次々に寿司を流すことが可能になったのだ。

さらに、厨房から流された皿が急に進路変更。テーブルに最短ルートで届けられるよう、複雑にショートカットしていくようにもなっている。

スシロー新戦略③「徹底した非接触」

スシローの店では、入店して機械に予約番号を入れると、席を伝えるアナウンスが流れる。客が店員と接触することなく、席につける仕組みだ。店内の自動化を進めることでコロナ禍の客をつかんでいるのだ。

支払いもセルフレジ。さらに、厨房の裏にある冷蔵ボックスはテークアウト注文用。店員が入れた寿司を客が取り出すのは反対側から。テークアウトも店員と接触しなくて済む。

そんなさまざまな取り組みでコロナ禍でも攻め続けるスシロー。去年10月からの半年で24店舗も増やしている。

大阪市のとある場所に、スシローの独自レーンを作り出す部隊の開発拠点がある。引き込みレーンやショートカットレーンは、情報システム部の杉原正人ら開発部隊がこの場所で作り上げたものだ。

「正直、途中で逃げ出そうと思いました。思ったところに皿が届かないが3カ月以上続いた。本当にギブアップしようかと思いました」(杉原)

最近手掛けているのが、皿の枚数を店員が数えなくてすむ自動会計用のカメラだ。

「AIを使った画像による会計システムの目となるカメラです。画像を解析するエンジンが入っていて、撮影した皿の色を検知できるようになっています」(杉原)

客と店員の接触を完全にゼロにする切り札。いかにコロナに打ち勝つか。彼らが開発を諦めなかった裏には、トップからのこんな言葉があったという。

「コロナ禍だからこそ『今はピンチだけどチャンスに変えろ』と。『コロナはいつか収まる。今止めたらダメだ』と、常々言われています」(杉原)

スシローを率いる「FOOD&LIFE COMPANIES」社長・水留浩一は、トップに就任して6年で、スシローを回転寿司業界の“絶対王者”に導いてきた。並み居る強豪を引き離し、コロナ禍でも売上高2049億円という最高業績を叩き出した、スゴ腕の経営者だ。

あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一,カンブリア宮殿
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コロナ禍に最高業績~スゴ腕の異端児経営者

あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一,カンブリア宮殿
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スシローが自信を持って提供するメバチマグロを使った赤身。これを2貫110円で出せる秘密が、「コク旨まぐろ醤油ラーメン」(363円)にあった。魚介のだしをとっているのは、寿司には使えないメバチマグロの頭の部分だ。さらに、ラーメンに入っているカツは、メバチマグロの筋の多い部分を活用した。

スシローでは、仕入れたマグロを無駄にせず、隅々まで調理することで、高い仕入れ価格を吸収しているのだ。

「おいしい部分だけを2貫110円でお届けしたいので、全身で買って店舗で使うことで、何とかバランスが取れるように必死でやっています」(前出・山上)

鮮度にこだわるため、魚は店の厨房でさばいている。だがその横では、超高速でシャリ玉が作られ、細巻きも自動で海苔が巻かれていた。皿を全自動で洗浄し、色ごとに分けてくれるマシンもある。さらに寿司飯作りも機械化。効率化できるところは徹底的に行っている。

この日、新商品の試食会が行われた。対馬産アナゴの天ぷらだ。150円で提供したいと提案する社員に対し、水留は「めちゃめちゃうまい。これが100円だったらすごくいいけど……」。水留は誰よりも安さとうまさにこだわっているのだ。

水留は外食業界では異端児とも呼べる経歴の持ち主だ。東京大学理学部を卒業後、電通に入社。その後、コンサルティング業界へ転身し、2005年,36歳にして外資系のローランド・ベルガー日本法人のトップにまで上り詰める。

40代になると、今度はまったく違う分野へ。2009年、破綻した企業を再建する企業再生支援機構の常務に就任した。

「僕はどちらかというと面白いことをやり続けようという発想が強い。社会で役に立つ仕事とはどういうものなのかと」(水留)

自らの経営手腕を役立てたいと入った水留は、国を揺るがした案件を担当することになる。2兆円の負債を背負い破綻したJALの再建だ。

「報道で、前原国土交通大臣(当時)がタスクフォースうんぬんと言うのを見ていたので、そこに飛び込んでいくのは大変だなと」(水留)

再建チームのトップに就任したのは、経営の神様と呼ばれた京セラ創業者の稲盛和夫だった。輝かしい経歴から副社長に就いた水留だったが、稲盛に何度となく怒られる。

「『水留くんはビジネスのことが全く分かってない』と。基本的に『ごまかそう、だまそう、隠そう』ということに対しては非常に厳しい。中長期的に維持できるように決めていくというスタンスをお持ちだったと思います」(水留)

刻み込まれたのは、「ごまかさず真っ直ぐに長期的視野で判断する」こと。それは2015年、スシローのトップとして迎えられた水留の指針となってきた考え方だ。

就任当初、水留は店舗の視察の際に、切り身になったハマチを仕入れている様子を目撃した。そのことを指摘した水留に対し、スタッフは「以前、ハマチは店内でさばいていたんですが、スタッフの数を減らすため、やめてしまったんです」と説明。効率化の名のもとに大事な味まで落としてしまっていたのだ。水留は、「おいしい寿司を提供する」という原点に立ち返り、改革を始めた。

三重県尾鷲市の「尾鷲物産」は、スシローが扱うハマチを育て、加工している。20年来の付き合いのこの会社に、水留は今年、資本参加。より鮮度のいい魚の流通を目指し、つながりを強めた。仕入れ先と一体となることで、長期的にお互いがウィンウィンの関係になれると考えたのだ。

「鮮度に対する考え方が飛び抜けている。『良いものを届けていきたい』と。厳しい水産業界の中でしっかり生き残れているのは、いろいろな仕事をさせていただいて現在の状態を作れたからだと思います」(「尾鷲物産」小野博行社長)

安くてうまい寿司の向こうには、異色の経営者のさまざまな経験があった。

あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一,カンブリア宮殿
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タイの若者も大興奮~新業態「おにぎり」の寿司?

あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

今年5月13日、水留は事業戦略発表会の席で、持ち株会社の社名を、スシローグローバルホールディングスから「FOOD&LIFE COMPANIES」という横文字に変更することを発表した。これにより一気に海外戦略を加速するという。

「当社はずっと『スシロー』の看板を社名にも背負ってきましたが、フード全体を見通してビジネスを展開しようという思いで、変更しました」(水留)

タイの首都バンコク。3月31日、スシローのタイ1号店がオープンした。就任6年、積極的に海外を攻める水留、すでに5つの国や地域に進出したが、これからその数を増やしていくという。一気に世界展開のアクセルを踏んだのだ。

攻めの姿勢は国内でも。大阪・吹田市の「FOOD&LIFE COMPANIES」本社でこの日、新商品の試食会が開かれていた。水留が試食していたのは、持ち帰り寿司チェーンを展開する「京樽」のちらし寿司だった。実は、水留はこの4月に京樽の買収も行っていた。

「いい刺激を受けています。今まで我々の中で埋没していた問題点が浮き彫りになってきたので、改善のスピードを上げて取り組んでいる最中です」(「京樽」石井憲社長)

寿司ブランドをいくつもそろえることで、相乗効果を図るという。

「グループでいい食材をしっかり調達して、それをアレンジして特色を生かして提供するのは各ブランドが考えること。そこは期待しているし、やらなければいけないことだと思っています」(水留)

一方、大阪市の南海なんば駅の駅構内にも新たな店を出した。一見、おにぎりにも見える寿司の新業態「むすび寿司」。さまざまな場所でもっと気軽に寿司を楽しめるようにと考え出した、新しい提案だ。

攻め続ける、スシローの進化は止まらない。

※価格は放送時の金額です。

あきんどスシロー代表取締役社長・水留浩一,カンブリア宮殿
(画像=© テレビ東京)

~村上龍の編集後記~

確かに、スシローではなく「FOOD&LIFE COMPANIES」の経営者と話しているのだと思った。ただし、水留さんは寿司に詳しかった。ハマチの皮引きに板前さんが少し失敗したのを、見逃さなかった。寿司の世界に入って6年、たぶん勉強したのだろう。プロの経営者とは、という質問には「プロでない経営者などいない」と、ごく当然のことだという風に答えた。すべてが論理的で、でも優しさも感じた。その優しさが寿司に生きている、そう思った。

<出演者略歴>
水留浩一(みずとめ・こういち)1968年、神奈川県生まれ。1991年、東京大学理学部卒業後、電通入社。2009年、企業再生支援機構常務取締役就任。2010年、日本航空取締役副社長就任。2015年、あきんどスシロー代表取締役社長就任。

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