「北海道新幹線」の悲惨な現状 利用者減少、駅周辺は空き地だらけ
(画像=tkyszk/stock.adobe.com)

北海道新幹線が一部開業してから、早や5年が経過した。しかし、利用者数が停滞気味である上、北海道新幹線の発着駅である新函館北斗駅周辺ではまだ空き地が目立っており、期待されたほどの盛り上がりはない。札幌延伸もあと10年かかる中、このままの状態が続いて大丈夫なのか。

北海道新幹線の計画の全貌と計画進捗

まず、北海道新幹線の計画の全貌と現在の進捗について説明しよう。

全面開業の目標は「2031年3月末まで」

北海道新幹線は「新函館北斗駅」まで開業しており、今後、新函館北斗から札幌までの約212キロが開業することで全面開通に至る。全面開業の目標として掲げられているのが「2031年3月末まで」、つまり今から10年後には全面開業している見通しだ。

用地取得率は「45%」、土木工事着手率は「80%」

新函館北斗から札幌までの区間は、「トンネル」が80%、「高架橋」が13%、「路盤」が5%、「橋りょう」が2%で構成され、現在、用地取得や土木工事が進められている。2021年4月1日現在の用地取得率は45%、土木工事着手率は80%だ。

札幌駅での新幹線受け入れに向けた工事がスタート

北海道新幹線が停車する駅としては、新函館北斗駅以降、「新八雲(仮称)」「長万部」「倶知安」「新小樽(仮称)」「札幌」となっており、札幌駅でもすでに北海道新幹線の受け入れに向けた工事が始まっている。

札幌延伸で「札幌・東京間」が5時間1分で結ばれる

北海道新幹線が全面開通すると、「札幌・東京間」が5時間1分、「札幌・盛岡間」が2時間49分で結ばれる。北海道新幹線が新函館北斗駅まで一部開通する前は、それぞれ9時間7分、6時間55分かかっていたことを考えると、かなりの時間短縮となる。

新函館北斗駅周辺で目立つ空き地、その理由とは?

北海道新幹線が開業すれば、時間的に東京と札幌が今より近くなり、日本人だけでなく東京観光に訪れた訪日観光客も今より気軽に北海道へ行くことができるようになる。

開業効果を見込み、例えば新函館北斗駅がある北斗市では、駅前の土地約5.3ヘクタールを商業地として整備した。しかし、整備した商業地のうち約3割はまだ企業などとの契約が済んでいない。思った以上に企業誘致がうまくいっていないのだ。その理由は大きく分けて2点ある。

1点目が、北海道新幹線の全面開通までまだかなりの時間を要するということだ。企業側から見れば、全面開通によって乗降客が増えるまでは、店舗を展開しても採算が合いにくい。そのため、この駅前エリアへの展開意欲があまり湧かないのだ。

2点目が、新函館北斗駅の立地が函館駅のある函館中心部とはかなり離れている点である。この両駅間は20キロ近く離れているため、函館観光をしたい人の中には新函館北斗駅を乗り継ぎ駅として利用するだけで、駅から出ない人も少なくないようだ。

実際のところ、現在は新函館北斗駅周辺の店舗は閑散としており、地元関係者などは危機感を募らせている。

右肩下がりの北海道新幹線の利用者、コロナも影響

北海道新幹線に関してはもう1つ、気がかりな点がある。開業後、利用者が減り続けている点だ。札幌延伸までは、ある程度利用者が低調な状況が続くのは致し方ないが、あまりにも減少傾向が顕著だと、運営会社であるJR北海道の業績に少なからずダメージを与える。

北海道新幹線の1日の平均乗車人数は、開業初年の2016年度は6,200人だったが、2019年度は4,500人、2020年度(2月まで)は約1,500人へと大きく落ち込んでいる。2020年度の急激な落ち込みは、新型コロナウイルスの影響が大きい。

JR北海道は現在、業績が非常に厳しい。国から支援を受けながら経営再建に取り組んでいる状況の中、北海道新幹線の全面開業による収益力の回復で、なんとしても企業として健全な経営を取り戻さなければならない。

そのためには、北海道新幹線という巨大プロジェクトでつまずくことは決して許されないが、全面開業前の利用者数の落ち込みは不安感をあおる。

北海道・札幌側の期待感は決して小さくない北海道新幹線

このように、いま一つ盛り上がりにかけ、心配な点も少なくない北海道新幹線だが、開業によって北海道にもたらされる経済効果は非常に大きいものと予想されている。特に、終着駅である札幌周辺の企業の期待感は小さくはない。

さらに、札幌市が2030年に冬季五輪の招致を目指している点にも注目だ。仮に、2030年の冬季五輪の札幌開催が決まれば、JR北海道側は北海道新幹線の全面開通を1年前倒しにすることを目指すとしており、「冬季五輪×全面開通」のダブル効果で北海道経済は大いに潤うかもしれない。

このように、北海道新幹線は不安と期待が入り交じっている。開業までおよそ10年、今後どのように報じられるのか、注目していきたいところだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

無料会員登録はこちら