過去3回にわたりお届けしている今回の連載企画。
前回は、マーケットリサーチの具体例として、相続マーケットについて分析を行いました。今回は、会社設立・経理代行という2つのマーケットについてみていきましょう。
会社設立マーケット、実は中小企業の設立数は増えている
まずは、会社設立マーケットについてです。
日本の中小企業の年間設立数は増加傾向にあり、現在は年間約10万社が設立されている状況です。世界銀行が行った国際比較によると、開業に要する手続きや時間、コストなどの総評価において、日本は100位前後と先進国では下位だといえます。
一方アメリカでは、起業数が年間650万社ほどといわれており、現状では大きな差があります。そのため日本政府は、今後さらなる会社数の増加を目標としています。そうした状況をふまえたうえで、会社設立マーケットについて前回と同じく3C分析に沿って解説していきます。
会社設立マーケット/一つ目のC:カスタマー(Customer)について
データとして、先述の通り日本全国の会社設立数は増加傾向にありますが、都道府県別の設立数は別途調べる必要があります。多くの場合、「新設法人 リスト購入」などのワードでネットを検索することで、月または年に何件ほど新設法人のリストが追加されているかを調べることができます。
最寄りの政策金融公庫に相談するのもよいでしょう。特に、政策金融公庫に相談すれば、設立に関してのその地域の最新情報を得られるだけでなく、公庫がどの事務所とセミナーをやっているのかも調べることができます。会社設立の場合、起業セミナーなどに参加する経営者も多いため、その地域で「起業家の集い」のような勉強会があるかどうかも確認しておくとニーズの把握がしやすいでしょう。
また、コロナ禍の影響により、オンラインでのセミナーも増えていますので、ネットで関連するワードを検索し、セミナーの開催情報をキャッチアップすることも大切です。
会社設立マーケット/二つ目のC:競合(Competitor)について
オフラインとオンラインの両方で集客経路を調べます。オフラインの集客経路での競合は、以下の業者や機関から調べられます。
・不動産会社
・コピー機の会社
・公庫や銀行
・インキュベーションオフィスやレンタルオフィス
・起業家向けまたは設立予定者向けの勉強会の主催者
新規開設法人に対し、競合事務所がすでに営業DM(ダイレクトメール)を送っている場合があります。なかには、DMの内容を知るために、会社設立をした知り合いにDMをもらう、自分で実際に会社をつくって情報収集されるなどの方法を取る方もいます。
オンラインでの情報収集に関しては、「会社設立」や「開業」、「融資」のキーワードで検索するとよいでしょう。もちろん、自然検索の順位だけではなく、リスティング広告の内容も調べ、BtoC、BtoBとチャネル別にまとめることで、おおよその競合把握ができるようになります。自社リソースと比較するために、どのようなポイントをアピールしているか、価格はいくらなのかも記録しておきます。特に新設法人に関しては、価格訴求が必須になっていることが多く、これはホームページに顕著に表れます。
注意点として、オフラインの営業は競合を想定しやすいものの、Webを活用した営業は、全国対応の税理士法人が大々的に広告を出していることも多いです。また、来社訪問を行わず、クラウドでのやりとりと資料送付でサポートを行い、かなり割安な価格設定をしている事務所もあります。そのため、Webからの参入は非常に厳しい競争になっています。
会社設立マーケット/3つ目のC:自社リソースについて
リソースは商品力とチャネル開拓・維持力で考えます。都心であれば、年50件以上、郊外でも、年20件は案件獲得をしている事務所があるはずです。そのうえで、リソースが十分かどうかの判断として、都心で年25件、郊外で年10件の獲得がうまく稼働しているかの基準になります。
うまく案件を獲得している事務所は、多くの場合、安定したチャネルを持っていることが多いです。商品の価値を上げる要素は、価格以外の強みをつくれるかがポイントになります。集客チャネルに関しては、Webだけでは安定しないうえに広告費もがかさむため、オフラインのルートも構築していきましょう。
近年、大手の税理士法人の拡大と支店展開、全国対応で、このオフライン開拓及びWebマーケティングが非常にやりにくくなっています。明確な競合がいるため、そのための差別化戦略と、クライアント・集客チャネルを維持・拡大する戦略が必要になるでしょう。
しかし、そうした状況でもある程度コストをかければ、参入できるのがメリットです。大手よりも先に参入してノウハウをいかにつくれるかがポイントになるかと想定されます。
前回の相続マーケットの記事と同様に、会社設立の支援数があまりアピールできない場合、総相談件数や相談会の開催数、相談できる担当者数などを掲げることによって、事務所のサービスクオリティを対外的に保証・ブランディングする必要があります。しかし、数字で語れる実績がない場合、明確な強みを打ち出すことは難しいため、最初は価格競争で最低金額を出すこともあります。注意点として、「定期訪問で親身に相談します」または「無料相談」といったアピールだけで勝つのは難しいという点が挙げられます。
ここまではマーケットリサーチの具体例として、会社設立マーケットについてお伝えしました。マーケット自体は拡大をしており、魅力があります。しかし、弊社調べによると、日本で最も会社設立をサポートしている事務所では年1000件以上のサポートをしている状況です。マーケットはレッドオーシャンと思われるものの、戦略によっては開業1年目で50~60件の新設法人を獲得している税理士先生もいらっしゃいます。どう差別化するか?をしっかりとリサーチできれば、十分なチャンスはまだあるのです。
経理代行マーケットはデメリットにも留意して
最後に、経理代行マーケットについてお伝えします。
経理代行マーケットには、
・経理代行のアウトソーシングはニーズが高く成長の余地がある
・欠乏充足型のビジネスモデルなので、課題が明確で営業がしやすい
・経験のない従業員でも育成して対応が可能
といったメリットがありますが、もちろん、デメリットもありますので対策が必要です。こういったメリット・デメリットを具体的にしていくために、これについても3C分析に沿ってお伝えします。
経理代行マーケット/1つ目のC:カスタマー(Customer)について
業種など、事務所の強みに合わせてマーケットを選びます。選定が完了したら、ターゲットの平均的な事業規模、会社数(できれば都道府県別)、社長の給与水準などを調べます。
経理代行マーケット/2つ目のC:競合(Competitor)について
こちらも、他と同様にオフラインとオンラインの集客経路で調べます。経理代行のマーケット調査に関してポイントがあるとすると、一般企業の参入や他士業のマーケット参入も発生しているため、今日の運営母体が何なのかも知る必要があります。
競合が異業種だった場合、差別化するポイントとして、
・会計事務所だからクオリティが高い
・一気通貫でサポートできる
という強みを出すこともできます。オフラインの集客経路はDM(ダイレクトメール)も効果があります。オンラインに関しては、最初は「記帳代行 地域」というキーワードで調べることはもちろん、「経理代行 地域」で調べることも必要でしょう。というのも、経理代行業務の中には記帳代行が含まれますが、経理代行という言葉のほうが、経営者が問い合わせをするきっかけになることが多いと考えられるためです。参考までにGoogle検索で調べた際、「記帳代行」は約2,570,00 件「経理代行」は約8,600,000件 のヒットでした。(2021.2時点)
それだけ、経理代行という単語で検索がされているということです。記帳代行は業界の専門用語であって、一般には経理代行の方がイメージしやすいのかもしれません。上記のワードで検索し、自然検索の順位に加えてリスティング広告の内容も調査し、BtoC、BtoBとチャネル別にまとめることで、おおまかな競合把握ができるようになります。そしてこれまでと同様に自社リソースと比較しアピールポイントを確認、価格も記録します。
経理代行マーケット/3つ目のC:自社リソース(Company)について
続いて、商品力とチャネル開拓・維持力で自社リソースを考えます。チャネル開拓・維持力に関して、BtoCでは、ターゲットを指定してのDM(ダイレクトメール)発送が効果的です。これはある程度ニーズが分かりやすいため、定期的に反応が出ます。BtoCでは、自計化しか対応をしない会計事務所としてパートナーをうまく開拓することで紹介件数を増やしている事務所や、入退社の情報をいち早く知ることができる社会保険労務士事務所との連携で案件を受注している事務所もあります。給与計算と労務顧問を社会保険労務士の先生にお任せして協業することも出来そうです。
ポイントとしては、「扱う商品が税務顧問ではないため、競合がいても、うちは代行業の単体でのサポートが可能です」という形で提案ができることです。もちろん、それをきっかけに、税務顧問のトータルサポート、月次監査、経営計画の立案と予実管理といった付加価値業務の提案もできます。販路に関してはある程度成果が出やすいのですが、一番の参入障壁になるのが、商品づくりです。多くの先生方が実質的に参入をあきらめている理由として、
・そもそも何の仕事をすればいいかがわからない
・ゼロからマニュアル化するのが大変
・適切な金額設定がされていないため、生産性が悪いと感じてしまう
・担当者割り振りが適切にできておらず、より付加価値の高い(税務サポートの経験が豊富な)職員が代行業をしてしまうことで生産性が落ちてしまうのではないか
といった不安や問題があるようです。
こういった課題は、適切な物差し(業務の評価・進行マニュアル・料金表)があれば解決できるのですが、自社リソースだけで行おうとするのは難しいかもしれません。自社リソースに集客経路をつくれる人脈があるかを、まずご判断ください。ただし、経理代行の場合、競合に一般企業が入るので注意が必要です。
本日は少々ボリュームが多かったのですが、マーケットリサーチの具体例として、会社設立・経理代行それぞれのマーケットについてお話させていただきました。
最後までお読みいただきありがとうございました!