拡大する相続市場で士業事務所に求められるものは何なのか?
いま注目の税理士・島根猛氏が相続のトップランナーたちと語り合う特別対談企画です。
資産税特化で拡大し、 現在では100名以上の職員を有する
税理士法人深代会計事務所の深代勝美氏、花島宣勝氏と、
高次元でクオリティを維持するための社内教育について話します。
法人・資産税部門を超えた協力体制がカギ
花島宣勝氏、以下:花島
2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で、
4月から2カ月弱はお客様の所へ訪問することができませんでした。
深代勝美氏、以下:深代
ラインツールも導入しましたが、 それでも限界があります。
ただ、 緊急事態宣言の解除後は、少しずつ訪問を再開できるようになってきました。
もちろん、感染対策を講じつつですが。
島根 猛氏、以下:島根
私のところも同じです。
やはり直接お会いしないと話せないことも多いですしね。
花島 相続では遺産分割協議などもあるので、
皆様に集まっていただかざるを得ないですから。
深代 相続に関しては、コロナ前からですが、
新規の金融機関や不動産業者との取引が増えてきていますね。
要するに相続というものを皆さんが真剣に考えるようになってきた。
専門的な知識を持っている会計事務所との仕事を
希望されている潮流のようなものは感じています。
花島 昔は個人のお客様が中心でしたが、
最近では法人のお客様からの相談も増えていますね。
島根 わかります。私のところも金融機関や不動産の仲介会社、
ハウスメーカーとの取引が中心です。
不動産の仲介会社であれば、支店に電話をして、
営業担当者と一緒にお客様のところへと足を運んで
ご挨拶をさせていただくというところから始まります。
深代 弊社は基本的に受け身のスタイルでやっていまして、営業部門もないんです。
「仕事は取りに行かない」というのが事務所の方針でして、
お客様からご紹介いただいて、間接的に広がっていくことが多いですね。
花島 受け身なので実際にお客様と話してみないとどんな仕事になるかは分かりません。
法人化や遺言書づくり、確定申告まで、
会計事務所ができることは何でもやるというスタンスです。
弊社は資産税部門と法人部門に分かれているのですが、
例えば法人部門の担当者が顧客の不動産管理会社に話を聞きに行ったら、
実は相続の相談だったということもある。
そうなると、資産税部門の出番になるわけです。
島根 なるほど、仕事を受けてから各部門に割り振るのですね。
花島 さらに今は法人部門が5部まであるので、
仕事をもらってきたときに全体の仕事量を見て割り振り、
偏りが出ないようにしています。
深代 完全には分かれていないというか、
資産税部門でも法人の確定申告を手伝ってもらったり、
逆に法人部門の担当者が付き合いのあるお客様の相続を担当したりもします。
お客様も馴染みの担当者が対応してくれる方が助かるはずですから。
チェック表と記録簿でクオリティを担保
島根 深代先生のところは、売上高の数字目標を設定しないとお聞きしました。
深代 そうですね、こなしてほしい件数などは指標として伝えていますが、
売上高については設定していません。
花島 おかげさまで業績も悪くないので、掲げる必要はないと思っています。
全体的に業務は多いのですが、部門をまたいで流動的に仕事を割り振れば対応できる。
同時に、仕事自体の質は300項目ほどあるチェックリストを使って担保するようにしています。
深代 相続業務も細かい要点も記載した
独自のチェックリストを活用することで高い品質を維持でき、
お客様に安心感を持ってもらえていると思います。
花島 社内にチェックリスト委員会がありまして、年に1回更新を行うんです。
過去のミスや税務調査で指摘されたことなどを盛り込んで、
バージョンアップさせています。
島根 規模が大きくなると、
高次元でクオリティを維持するための標準化の体制は重要になりますよね。
私のところは今、正社員と派遣社員を入れて3人で回しているので、
まだチェックリストは必要ありません。
相続の場合だとヒアリングのときにすべて書き出しますし、
これまでに500件以上の相続問題を担当してきたので、
レベルの低い仕事はしていないと思っているのですが。
深代 なるほど、島根先生の経験が質の担保になっているわけですね。
確かに相続案件は経験がものを言う場合もありますから。
経験を積むことはとても大切です。
島根 あと、細かい業務は社員がやりますが、
最終的にはすべて私がチェックしているのも、質の担保につながっていると思います。
花島 そうなんですね。弊社でも担当者のほかに、上司と審査部がチェックしています。
もちろん、実務的な動きに関しては、ある程度、担当者に一任しています。
島根 担当者がヒアリングからお客様に関わるということですよね。
とても素晴らしいですね。それを上司がフォローするイメージでしょうか?
花島 そうですね。
例えば、お客様にマストで聞くことなどもチェックリストの項目に入っていて、
それを上司が毎回、確認していきます。
また、お客様との打ち合わせ後は、どんな話をしたのかを複写の記録簿に付けてもらって、
1枚は上司に、もう1枚はお客様に渡します。
お客様にとってはそれが議事録代わりになりますし、上司にとっては報告書になる。
それを確認することで、次回にプラスαで聞くことなどを指示できるというわけです。
深代 お客様にも「今回はこういうご説明をしました」ということが記録に残るので、
やりとりも遡ることができて好評なんです。
島根 お客様と事務所の双方で記録簿を保管することで、
過去のやりとりの記録を遡ることができますね。
細やかなチェックリストと 記録簿があれば、
経験が浅くても安心して業務を遂行できる体制になっているんですね。
知識が身につく研修で未経験でも実務に対応
深代 弊社は新卒も採用しますしもともと会計事務所にいたけれど、
資産税を手掛けたことがないという人にも来てもらっています。
花島 まず、入社1年目に行う研修では、簡単な仕訳や消費税、
不動産収入の明細の見方など、すべてを教えるんです。
それも長いスパンではなく、 2〜3週間で学び、あとは実務で経験を積んでもらう。
1〜2年経つと、仕訳が完璧に理解出来るようになるので、
そこからは資産税研修を別で行います。
新卒でだいたい3年目から、
資産税が未経験の中途社員は、入ったときから受けてもらいます。
深代 この研修に関しては、外部講師ではなく、近くの先輩が教えるようにしています。
教わる立場の人に近い人が指導するのがいちばんだと思うんですよ。
島根 確かに年次の近い先輩が、
自分自身がつまずいた要点を踏まえたうえで指導するのはとても効果的ですよね。
研修は教育テキストがあるのでしょうか?
花島 あります。相続税の基礎知識、土地の評価、非上場株式、
法人シミュレーション、遺言書の5つが基礎として、
これを実務と行して学んでもらいます。
同時に月に数回ですが会議の前に勉強会なども行っていて、
法改正があったときなどは、私や深代が講師になって教えたりもしますね。
深代 全部を外部に任せることもできますが、
やはり内部で行うことで意思統一もできるし、全体の能力も把握できる。
個人のレベルアップにもつながっていくことなので、そこは力を入れていますね。
島根 社員のレベルは顧客の満足度に直結しますからね。
結局、どれだけお客様のニーズに応えられるのかが重要なのだと思います。
私も経験しましたが、こちらの仕事に満足していただければ、
何年も前に担当したお客様から連絡が来ることもありますから。
深代 おっしゃる通りです。これからの会計事務所に求められているのは、
小さな相談でも対応できる柔軟性だと思っています。
「ここに相談すれば安心だ」と思ってもらえることが、
生き残るうえで大切なのではないでしょうか。
島根 そうですね。相続は次の世代へのバトンのようなもの。
お客様の記憶に残る仕事ですから、
満足していただけるよう柔軟な姿勢が大切です。
花島先生、深代先生、 ありがとうございました。
ー 対談を終えて ー
100名を超える職員全員の知識の底上げや、
業務の標準化が確実に行われていることに大変驚きました。
また、職員の方の事務所や業務に対する満足度が高いことが、
結果として、お客様へ質の高いサービスを提供することに繋がるということを、
今回お話をお聞きして改めて実感しました。
社員研修や社内体制など、私がこれから組織をつくっていく上で、
参考になる事がとても多く、
組織運営方法について大変勉強させていただきました。(島根氏)
※月刊プロパートナー2021年1月号より抜粋
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- プロフィール
- 島根 猛
島根税理士事務所 代表
保険会社の営業職を経験したのち、税理士法人勤務にて数多くの資産税案件に携わる。2020年開業後は、顧客のニーズに沿ったオー ダーメイドの相続対策の提案を強みとし、相続申告から問題解決業務までワンストップで対応。
深代 勝美
税理士法人深代会計事務所 理事長
外資系会計事務所での勤務時代を経て、1985年に深代会計事務所を開業。2002年に法人化し、法人部門も請負いつつ、資産税業務を強みとする総合型の事務所を築き上げる。
花島 宣勝
税理士法人深代会計事務所 所長
1996年入所、常にクライアントの立場にたった親身なサポートを信条とし、数多くの税務にまつわる問題解決を行う。2016年に深代氏から事業承継し、現職。