東芝危機を救った社長が「事実上のクビ」に 社内からの不信感が原因か?
(画像=AlexeyNovikov/stock.adobe.com)

東芝は、2021年1月に東証2部から1部に復帰した。社内が一枚岩となってさらなる業績向上に邁進しなければいけないタイミングで、世間に波紋を広げる出来事が起きた。東芝外部から社長に就任し、同社を経営危機から救った車谷暢昭氏が、実質的な「クビ」となったのだ。

東芝の車谷暢昭氏が「事実上のクビ」に

東芝が取締役会で車谷暢昭氏の辞任を了承したのは、4月14日だ。この日の取締役会は臨時で行われ、車谷氏は全ての役職から辞任する格好となった。東芝の報道発表では、車谷氏側から「辞任したい旨の申し出」があったとしているが、これまでに社内外で車谷氏に対する不信感が高まっており、「事実上のクビ」と表現する東芝関係者は少なくない。

しかし、東芝を経営危機から救い、なおかつ東証2部から東証1部への復帰も成し遂げた車谷氏に対して、なぜ社内外で不信感が高まっていたのか。車谷氏の経歴と東芝で取り組んだことを紹介しつつ、その理由を紐解いていこう。

車谷氏の経歴、東芝での功績は?

車谷氏は、三井住友銀行で副頭取を務めたことがある人物で、東芝に迎え入れられる前は英投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」の日本法人で会長を務めていた。東京電力の救済で実績があることでも知られた人物だった。

車谷氏が東芝に迎え入れられる前、東芝は2015年に発覚した不正会計と2016年の原子力事業における巨額損失によって経営危機に瀕していた。東芝は、このような経営危機からの再建を車谷氏に託したわけだ。

車谷氏は、2018年4月にまず代表執行役会長CEOに就任し、その後、取締役代表執行役会長CEO、代表執行役社長CEOを歴任し、東芝の経営再建に奔走した。そしてその取り組みは、実際に実を結ぶこととなる。

家電事業、パソコン事業、LNG(液化天然ガス)事業などの売却のほか、東芝の経営危機の大きな要因ともなった海外原子力建設事業からの撤退も進め、借入金の急速な返済によって実質的な無借金状態にまで東芝の業績を回復させた。

そして2021年1月、東芝は東証1部復帰を果たす。東芝は債務超過などが原因で2017年8月に2部に降格していた。

なぜ再建の立役者が東芝を去ることになったのか

車谷氏のこれらの実績を並べてみると、なぜ車谷氏が「事実上のクビ」とも揶揄される状況に至ったのか、不思議に思う人も多いはずだ。結論から言えば、「『物言う株主』たちとの対立」と「社内における不信感」が、今回の辞任劇を招いたと言える。

大株主である「物言う株主」たちとの対立

東芝には、車谷氏が社長に就任する前から「物言う株主」がいる。かつて東芝は、上場廃止の危機を乗り切るために海外ファンドから増資を受けたが、このときに抱え込んだ海外ファンドが物言う株主となって、その後の東芝の経営を揺さぶってきた。

この物言う株主から車谷氏はあまり良い印象を持たれていなかった。車谷氏が社長就任後にガバナンスの不備などが発覚したからだ。そのようなこともあり、2020年の夏の株主総会では、車谷氏の再任に関する賛成は57%にとどまっている。

ちなみに、車谷氏の辞任後、車谷氏の前に社長を務めていた綱川智氏が復帰することになり、綱川氏はオンライン会見において「さまざまなステークホルダー(利害関係者)との信頼構築に努める」と述べた。

厳しい目標、古巣からの買収提案…社内で高まった不信感

社内における車谷氏への不信感も高まっていた。車谷氏の経営再建の実績は、東芝の従業員の努力無しには成し遂げられなかったものだが、厳しく目標達成を求める姿勢が従業員との関係をギクシャクさせた。

また、車谷氏の古巣であるCVCキャピタル・パートナーズが、東芝に買収提案したことも大きい。CVCキャピタル・パートナーズによる買収提案は、東芝の上場廃止を想定したものとなっていたからだ。

東芝はその後、CVCキャピタル・パートナーズから受けた買収の初期提案にどう応じるかについて報道発表を行い、提案の検討に必要不可欠な情報が提供されていないとして、「本初期提案を評価することは不可能」とした。事実上の提案拒否だ。

東芝の株価は中長期的な下落トレンドに入ってしまうのか

東芝の1部上場復帰が報じられたのは、2021年1月22日の金曜日だ。週明けの1月25日の月曜日、東芝の株価は大きく上昇した。その後、株価は右肩上がりの状況が続いていたが、車谷氏の辞任劇を境に株価が大きく下落している。

東芝の迷走が今後もしばらく続けば、同社の株価は中長期的な下落トレンドに入る可能性も否めない。そのため、多くの個人投資家にとって東芝の今後のトピックスは注目ニュースとして受け止められるだろう。

綱川体制の下で、東芝はどの方向に向かって舵を切るのだろうか。東芝は5月14日に2020年度の通期決算発表を行う。その際の綱川氏の発言などに注目したいところだ。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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