自己資本は、貸借対照表における「純資産」に該当し、会社経営の安全性を左右する重要なものである。自社の資本金の増資や減資、剰余金を原資とする配当などを行う際には、それぞれの会計処理の流れについて把握しておかなければならない。今回は、自己資本に関わる純資産の部の会計処理方法について解説する。
増資の会計処理
増資は、資本金を増やすために行われるものである。資本金は、会社経営の基礎となる財産が拠出されたことを示すものであり、「有償増資」と「無償増資」の2つの方法がある。
「有償増資」
「有償増資」とは、株主による現金の払い込みや、現金以外の財産といった現物出資による増資のことである。現物出資については、会社法上の手続きや財産評価が極めて煩雑であるため、現金の払い込みによる出資が多い。
現金の払い込みによる出資を前提にするならば、現金入金時に新株式申込証拠金として計上し、払込期日に資本金として計上する。金銭による出資1,000万円の申込を受けた場合の仕訳は下記のようになる。なお、払込の半額を準備金として計上する場合を想定する。
・新株申込時
借方 | 貸方 |
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現金預金:1,000万円 | 新株式申込証拠金:1,000万円 |
・払込期日のとき
借方 | 貸方 |
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新株式申込証拠金:1,000万円 | 資本金:1,000万円 |
資本準備金:1,000万円 |
資本準備金とは、会社法上で定められる法定準備金の一つであり、株式会社における資本金の2分の1を超えない額を積み立てることができる。なお、株主からの払込金額の中で、資本金に組み入れられなかった分が積み立てられる。資本準備金は登記事項になっていないなど、資本金と比べて簡易な手続での他科目への振替等が認められている。
「無償増資」
「無償増資」とは、剰余金や法定準備金の資本への組み入れ(純資産の部の株主資本の中での振替)のことである。
無償増資では、金銭や金銭以外の財産の払込はなく、剰余金などを資本金にすることで配当に充当できる利益の社外流出を防ぐなどができる。その他資本剰余金100万円を資本金とした場合の仕訳を以下に示す。
借方 | 貸方 |
---|---|
その他資本剰余金:100万円 | 資本金:100万円 |
配当の会計処理
配当とは、過去に蓄積した剰余金を原資にして、株主に配当を行うことである。現金だけでなく、金銭以外の資産を配当する「現物分配」も含むが、組織再編に配当をスキームの一環として使用する場合を除き、通常現金で配当するのが一般的である。
剰余金には、「繰越利益剰余金」と「その他資本剰余金」の2種類があり、どちらが原資かによって配当の会計処理も異なってくる。配当の会計処理については基本的に単純であり、支払った金額分を剰余金から減らしていくことになる。
配当の会計処理の流れ
ここでは、100万円の剰余金の配当で、20万円を源泉所得税として控除することを前提に仕訳を検討していく。
・繰越利益剰余金からの配当の場合
借方 | 貸方 |
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繰越利益剰余金:100万円 | 現金預金:80万円 |
預り金:20万円 |
・その他資本剰余金からの配当の場合
借方 | 貸方 |
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その他資本剰余金:100万円 | 現金預金:80万円 |
預り金:20万円 |
通常の仕訳は上記の通りとなる。しかし、会社法上は利益準備金の積み立ての義務があるので、その要否について検討する必要がある。
『会社法445条4項』において、剰余金の配当の際には、配当の10%を資本準備金又は利益準備金として積み立てなければならず、「資本準備金と利益準備金合計額」が資本金の4分の1に達するまで強制的に積み立てされる。
なお、4分の1を超えて積み立てるのは任意であり、禁止はされていない。利益準備金を計上する場合の仕訳は下記の通りである。
借方 | 貸方 |
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繰越利益剰余金:110万円 | 現金預金:80万円 |
預り金:20万円 | |
利益準備金:10万円 |
配当については、会計上の仕訳と税務の仕訳が異なるので注意が必要である。繰越利益剰余金からの配当の場合は会計上の仕訳と大きく相違ないが、その他資本剰余金からの配当の場合は、会計上と税務上でズレが生じる。税務上の仕訳は下記の通りとなる。
・繰越利益剰余金からの配当の場合
借方 | 貸方 |
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利益積立金:100万円 | 現金預金:80万円 |
預り金:20万円 |
・その他資本剰余金からの配当の場合
借方 | 貸方 |
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利益積立金:20万円 | 現金預金:96万円 |
資本金等:80万円 | 預り金:4万円 |
その他資本剰余金からの配当の場合は、会計上は資本のみからの配当となるが、税務上は資本金等と利益積立金との按分が必要になる。利益積立金部分については、みなし配当として、税務上は利益積立金からの配当として別表調整しなければならない。
減資の会計処理
減資とは、資本金を減少させる手続であり、「有償減資」と「無償減資」がある。有償減資とは、実際に資本の払い戻し手続きをする減資であり、無償減資とは、資本の払い戻しを行い、科目の振替によって資本金を減少させる手続きである。
会社法における減資
会社法では、減資は「無償減資のみ」と位置づけられており、旧商法のような直接的な資本金の払戻しによる有償減資はない。資本金の減資とは、具体的には減少する資本金を「その他資本剰余金」または「資本準備金」へ振り替えることを意味する。
したがって、減資前と減資後の「純資産の部」の内部の変動だけで、純資産の部そのものの額には、何ら変動はない。なお、有償減資は、無償減資に剰余金の配当を加えることで可能となり、この場合は、「剰余金の分配」は利益剰余金の配当ではなく、その他資本剰余金の配当となる。
・減資のメリット2つ
会社が減資を行うメリットは、主に節税効果と欠損填補が挙げられる。
法人税や住民税においては、税務上の資本金等の額によって、税率や税務上の特例措置の適用の可否などが判断される。
事業規模の縮小などによって、中小企業の会社規模にも関わらず過去の資本金額が採用されることで、中小企業向けの優遇税制を活用できないといった事態を回避するために、減資は有効な手段である。
また、赤字続きで利益剰余金がマイナスになっている場合などに、無償減資によってマイナスを解消し、貸借対照表の数値を見栄え良くすることができる。
減資の会計処理の流れ
減資の会計処理については、以下のようになる。
・有償減資の場合
100万円の減資を行い、全額配当を行った場合。
借方 | 貸方 |
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資本金:100万円 | 現金預金:100万円 |
・無償減資の場合
100万円の減資を行った場合。
借方 | 貸方 |
---|---|
資本金:100万円 | その他資金剰余金:100万円 |
なお、無償減資は税務上の処理が生じないため、会計上は資本金等の金額が減少しているにも関わらず税務上は減少していないため、ズレが生じる。有償減資は配当を伴い、その他資本剰余金からの配当と同じ税務仕訳が生じるため、会計上の資本金の減少額と税務上の資本金等の減少額で差異が生じる。
自己株式の会計処理
自己株式の会計処理に関しては、非上場企業を前提に解説する。
会計上では資本取引として処理
自己株式は、会計上は資本取引として処理し、利益剰余金には反映させない。取得した自己株式は、純資産の部の控除項目として直接控除する。自己株式を100万円取得した場合の会計処理は以下の通りである。
借方 | 貸方 |
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自己株式:100万円 | 現金預金:100万円 |
自己株式については、その後再び売却する場合と、消却する(株式を消してしまう)場合がある。
売却した場合は、処分差額(売買差損益)が生じることになるが、自己株式の取引は資本取引であるため、損益計算書には反映しない。そこで、その他資本剰余金に直接反映させる処理を行う。上記の自己株式を120万円で売却した場合の処理は以下の通りである。
借方 | 貸方 |
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現金預金:120万円 | 自己株式:100万円 |
その他資本剰余金:20万円 |
自己株式を消却した場合は、その金額を直接その他資本剰余金から減額する。上記の自己株式を消却した場合の処理は、以下の通りである。
借方 | 貸方 |
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その他資本剰余金:100万円 | 自己株式:100万円 |
税務上の処理は、会計上の処理と異なる。自己株式の取得を資本取引としてしまうと、有償減資や、配当に係る配当所得の租税回避に使用される可能性があるため、自己株式の取得を有償減資と同様に処理し、自己株式の処分を増資と同様に処理することになる。
そのため、取得と売却を同額で行ったとしても、資本金等の金額と利益積立金の金額については、異動が発生することになる。そして、税務上は、自己株式という勘定科目が存在せず、直接資本金等・利益積立金に反映させる仕訳を行っていることから、自己株式を消却した場合については、仕訳処理は発生しないことになる。
・自己株式を取得した場合(うち、資本金等相当分が80万円)
借方 | 貸方 |
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利益積立金:20万円 | 現金預金:96万円 |
資本金等:80万円 | 預り金:4万円 |
・自己株式を売却した場合
借方 | 貸方 |
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現金預金:120万円 | 資本金等:100万円 |
・自己株式を消却した場合
仕訳なし
自己資本を把握は必須
経営者が会計の勉強をする際には、資産や負債、費用や収益をまず勉強する。自己資本、つまり純資産の部の会計処理については、基本的にあまり動くことがなく、疎かになりがちだろう。
しかし、会社の根幹にかかわる重要な処理を純資産の部にて行うことが多いため、会社を経営する上では、概略だけでも把握しておいた方が良いだろう。
また、純資産の部の会計処理は、会計上の「純資産及び法人税申告書の別表5」に直接関わるものであり、誤りがあれば影響が長期に渡るため、注意すべきポイントについてはよく理解して欲しい。
文・内山瑛(公認会計士)