伸び悩む経営に最適 アンゾフのマトリクスが示す4つの戦略
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自社の基幹事業が成熟化したり伸び悩んだりした場合は、新たな企業戦略の模索を迫られることになるだろう。企業の成長戦略を練る際に役立てられるのが、アンゾフの成長マトリクスと呼ばれるフレームワークである。

成長の可能性を見える化できるツールとして、古くから利用されているアンゾフの成長マトリクスについて、基礎知識や活用事例を解説する。

目次

  1. アンゾフの成長マトリクスの概要
  2. アンゾフの成長マトリクスが示す戦略4つ
    1. 1.市場浸透
    2. 2.市場開拓
    3. 3.新商品開発
    4. 4.多角化
  3. 多角化戦略の分類4つ
    1. 多角化を選択する理由
    2. 1.水平型多角化
    3. 2.垂直型多角化
    4. 3.集中型多角化
    5. 4.集成型多角化
  4. アンゾフの成長マトリクスを活用した戦略事例
    1. 1.市場浸透
    2. 2.市場開拓
    3. 3.新商品開発
    4. 4.多角化
  5. 自社経営の戦略分析にマトリクスを活用しよう

アンゾフの成長マトリクスの概要

アンゾフの成長マトリクスとは、近代経営戦略の父と称されるアメリカ人経営学者イゴール・アンゾフ(1918年-2002年)が提唱した、事業の成長・拡大を図るためのフレームワークである。

企業が市場で競争優位性を獲得するために、事業の成長について「市場」と「製品」の2軸を設定し、さらにそれぞれを「既存」と「新規」に分けることで、4つの戦略を分類している。

アンゾフの成長マトリクスは、既存事業の成熟・伸び悩み・縮小などにより、新たな企業戦略を練るフレームワークとして利用される。

4つの戦略の中でどれに注力すれば、自社にとって有益かつ低リスクなのかということを、事業ポートフォリオの範囲を視覚化しながら検討することが可能である。

アンゾフの成長マトリクスが示す戦略4つ

アンゾフは自身の成長マトリクスで、企業の成長戦略には以下に挙げる4つの可能性があることを示している。

1.市場浸透

既存の商品を既存の市場(顧客)に販売する戦略が市場浸透である。マーケティング戦略を実施し、製品購入の頻度や量を増やしたり同業他社の顧客にアプローチしたりして、マーケットシェアの拡大を図る経営戦略である。

4つの戦略の中で最もリスクの低い戦略ではあるものの、中長期的な効果を発揮できる戦略を導き出すことは困難であるといえるだろう。

売上高を伸ばすためには、顧客数・売上単価・購入数・購入頻度のうち、最低1つを伸ばす必要がある。ただし、既存市場で顧客数を伸ばすことや、既存製品の値上げを行うことは、簡単なことではない。

したがって、市場浸透の戦略を選択する場合は、購入数と購入頻度を上げる施策が重要となる。

2.市場開拓

既存商品の販売先を未参入の新しい市場へ拡大する戦略が市場開拓である。国内から海外、女性から男性、中小企業から大企業や個人など、市場領域の拡大を成長戦略として据える経営戦略である。

市場開拓を選択する場合は、ターゲットやエリアを新しくするため、既存商品の見直しも必要になることがある。事業拡大を見込める新規市場の特定にあたり、専門的な調査や分析を求められることから、市場浸透に比べリスクは高い。

多くの企業にとって、市場開拓は有効な成長戦略となり得るだろう。新規市場を開拓する際は、自社商品のユニークな価値をターゲットに植えつける「ポジショニング」の活用が有効である。

3.新商品開発

既存の市場(顧客)に新しい商品を提供する戦略が新商品開発である。既存顧客のニーズを的確に把握した上で、既存商品における新機能の追加やバージョンアップ、関連商品や付属商品などを販売する戦略がとられる。

既存顧客を意識した既存商品をベースに、新商品を開発することがポイントである。開発・研究・製造にかかる設備や人材への投資を必要とするため、市場浸透に比べリスクは高くなる。

自社の強みを生かした新商品を開発するためには、市場環境分析の「3C分析」や、事業環境分析の「SWOT分析」といったフレームワークの活用が効果的である。

4.多角化

新規商品を新規市場に展開し、全く新しい事業を立ち上げる戦略が多角化である。4つの戦略の中で最もハイリスクであり、従来事業とのシナジー効果も薄い。一般的に、成長戦略を模索する際は、比較的リスクが低い市場開拓や新商品開発から検討すべきである。

しかし、事業環境が常に変化する現代においては、自社の強みを生かした多角化こそ重要なテーマともいえる。将来的なリスクマネジメントの観点からも、多角化への可能性を含んだ企業経営が求められるだろう。

多角化戦略の分類4つ

多角化戦略は、方向性の違いにより、さらに4つの種類に分類される。多角化を選択する理由と併せて解説する。

多角化を選択する理由

市場浸透・市場開拓・新商品開発といった拡大化戦略に対し、多角化はよりリスキーな戦略である。ただし、企業に多角化を行う以下のような理由がある場合は、成長戦略として多角化が選ばれやすくなるだろう。

・リスク分散
既存事業以外に複数の事業を軸として設定することで、ある事業が失敗しても企業全体のダメージを最小限に抑えられる。

・新事業への挑戦
自社の強みを生かせる未開拓の分野を発見した場合などに、新たな可能性を期待して新事業に挑戦する。

・未使用資源の活用
設備・人材・情報・資金など、現在使用されていない企業資源の有効活用を図るために新事業を立ち上げる。

・シナジー効果への期待
複数事業の運営により経営資源の共有を図り、販売・生産・投資・マネジメントへのシナジー効果を期待する。

1.水平型多角化

同じ分野で事業を拡大する多角化戦略である。既存のマーケティング戦略やサプライチェーンを活用できることが多く、既存事業とのシナジー効果も得やすいというメリットがある。

たとえば、スーパーやドラッグストアがコンビニエンス事業を開始したり、清涼飲料水メーカーがアルコール飲料の製造に乗り出したりするケースが当てはまる。市場への浸透や新商品の開発といった戦略に近い部類においての多角化といえるだろう。

2.垂直型多角化

バリューチェーンの上流・下流へ事業を拡大するタイプの多角化戦略である。部品の製造や調達といった生産段階や、流通や販売などの流通段階に対し、垂直型に新規事業を展開する。

居酒屋チェーンが農業や食品廃棄物処理に乗り出したり、自動車メーカーが原材料調達・部品製造・販売に関わったりする事業展開が該当する。

3.集中型多角化

企業の中核となる技術や、主要ターゲット顧客関連の分野に乗り出す多角化戦略である。自社独自のコア技術やマーケティング手法を生かし、異業種に事業を展開する。

既存事業とは直接関係のない分野への進出になることが多いものの、既存事業の技術や顧客のいずれか、または両方に関連させながら事業展開する特徴をもつ。生産面・販売面でのシナジー効果を得られるだろう。

かつて富士フイルムがスキンケアブランドを立ち上げたケースは、集中型多角化に該当する。写真フィルムの原料に使われているコラーゲンへの知見や、写真撮影に関する光の解析・コントロール技術を、化粧品開発に応用している。

4.集成型多角化

既存事業とは関係のない全く新しい商品を、新分野へと展開する多角化戦略である。コングロマリット型多角化と呼ばれることもある。市場も既存事業にほとんど関連性がなく、シナジー効果が得にくいため、単一事業のリスクは高い。

ただし、経営全体で見た場合のリスク分散効果は最も高くなるため、ポートフォリオ効果を得やすいというメリットがある。

集成型多角化で選択する商品や市場は、ターゲットとなる分野の魅力度・将来性のみを考慮して決定されることがほとんどである。

アンゾフの成長マトリクスを活用した戦略事例

1.市場浸透

日本ケンタッキー・フライド・チキンは、2015年に自社として初めてとなる、ハンバーグを使用したサンドの販売を開始した。既存商品の関連商品を販売する新商品開発戦略である。

しかし、売上を伸ばせず業績不振に陥ったため、市場浸透戦略に方向転換する。リピート性の高いチキンの強みを生かし、マーケティング戦略を季節型販売から日常型販売へシフトすることにより、購入頻度を高め売上の向上を図っている。

2.市場開拓

既述の富士フイルムは、4象限マトリクスの全てにおいて事業展開に成功した企業である。市場開拓戦略では、既存のフィルム製造や光学レンズといったコア技術を生かし、液晶用フィルムや携帯電話用プラスチックレンズを新市場に提供している。

また、「有機クコの実」の先進的企業である株式会社八仙は、中身を変えず見た目のみ変更する「ダブルラベル戦略」により、オーガニック市場とは別に健康志向の高い女性をターゲットに据え、手軽に食べられるスーパーフードを新市場に送り出している。

3.新商品開発

豊富な種類の飲料ブランドを展開し成功を収めているコカ・コーラは、圧倒的なブランド力や蓄積ノウハウを生かした新商品開発戦略を進めている企業である。

栄養成分や内容量など、商品全体のバランスを考慮しながら、同じブランドでも特徴の異なる商品を既存市場に提供し続けている。

また、サントリーのペットボトルコーヒー「クラフトボス」は、これまで缶タイプのコーヒーを買っていなかった女性層やデスクワーカーから人気を集めている。

中身を見せることで購買意欲を高めることや、ペットボトルがデスクワークに向くことが市場調査で判明したことから、コンビニ市場の中でも女性層やデスクワーカーにターゲットを据えた新商品開発戦略を打ち出して功を奏している。

4.多角化

電機メーカー大手のソニーは、映画・ゲーム・音楽・金融などの分野において、非関連多角化戦略を展開している。M&Aによる企業の吸収合併で成功を収めていることが特徴である。音楽や映画など複数の事業間で、シナジー効果も生み出している。

元々は楽器メーカーであったヤマハも、非関連多角化戦略を積極的に進めた企業である。英語教室・リゾート開発・AV機器開発など、多方面で事業を展開した経緯を持つ。

一時期の業績悪化の経験を踏まえ、不採算事業の整理や構造改革にも取り組みながら、現在は音楽事業へ原点回帰しつつ、海外進出にも力を入れている。

自社経営の戦略分析にマトリクスを活用しよう

企業の成長戦略を模索するにあたり、アンゾフの成長マトリクスを活用することは、より確度の高い意思決定につながるだろう。できるだけリスクを低減させるためには、成功企業の事例を知ることも重要である。

多角化に関しては、企業がより成長する可能性を秘めているだけでなく、経営資源の有効利用・リスク分散・シナジー効果の発生などのメリットも期待できる。国内需要や働き手が減りつつある日本において、より重要な経営戦略となるだろう。

文・野口 和義(野口コンサルタント事務所代表 中小企業診断士)

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