マーケティング施策の策定に際しては、STP分析と呼ばれるフレームワークが非常に重宝されている。STP分析の中でも顧客から自社商品を選んでもらえる可能性を高めるうえで重要となるのがポジショニングだ。今回の記事では、ポジショニングの意味や重要性、具体的な方法などを分かりやすく解説する。マーケティング担当者や経営者、これから起業したいと考えている人は必見である。
目次
ポジショニングとは
はじめにポジショニングについて最低限知っておくべき項目を解説する。ポジショニングがどのような手法であるか知らない人は、まずはここを丁寧に読み進めてほしい。
ポジショニングの意味
ポジショニングとは「顧客のニーズに合ったビジネスを行うと同時に競合他社との差別化を図ることで顧客に対して自社製品に特有の魅力を認知してもらうこと」を意味する。つまり簡単にいうと顧客ニーズの解決と差別化による認知度向上を同時に実現するための活動というわけだ。
STP分析における位置付け
そもそもポジショニングは、マーケティング施策の策定で用いられるSTP分析におけるプロセスの一つである。STP分析とは、以下の3つの流れで自社製品・サービスを「誰に・どのような方法で販売していくか」を決定していく。
- セグメンテーション(Segmentation):年齢や年収などの切り口により市場を細分化する
- ターゲティング(Targeting):細分化した市場の中から自社製品・サービスのターゲットを選定する
- ポジショニング(Positioning):ターゲットとなる市場の中で競合他社とは異なり、かつ顧客に自社製品の魅力を認識してもらえる立ち位置を決定する
つまりポジショニングは、STP分析において最後のプロセスであり分析の精度を左右するわけだ。たとえターゲティングまでのプロセスが完璧でもポジショニングが見当外れなものだと結果につながらないマーケティング施策となる恐れがある。
ポジショニングの重要性
ポジショニングが重要視されている理由は、他社製品・サービスとの違いが明確でないと顧客から自社商品・サービスを選ぶ理由がなくなってしまうからだ。わざわざ特定企業の商品を選ぶ理由がない場合、顧客はより安い価格で販売するブランドや知名度の高いブランドを選ぶようになる。その結果、価格競争や知名度の低さにより十分な数の顧客を獲得できなくなってしまう。
実際のところ日本の家電業界は商品の差別化が図られていなかったために低価格で同種の商品を販売する中国企業との競争に負けたといわれている。日本における家電業界のような過ちを回避するうえでポジショニングによって「他社との競争を避ける」ことが重要というわけだ。
ポジショニングの方法4STEP
ポジショニングの意味や重要性を理解していても具体的なやり方を知っていないと実務では役立たない。そこでこの章では、4つの手順に分けてポジショニングを一から行う方法を紹介する。
STEP1.セグメンテーションとターゲティングを終わらせる
前述した通りポジショニングはSTP分析における最後のプロセスであるため、まずはセグメンテーションとターゲティングを終わらせることが必要だ。セグメンテーションでは、ある特定の市場を「類似するニーズを持っている消費者のグループ」に細分化。グループ分け(細分化)の際には、主に以下の基準が用いられている。
- 地理的基準:地域や人口密度、気候、経済発展度など
- 人口統計的基準:年齢や所得、性別、職業など
- 心理的基準:ライフスタイルや価値観、趣味など
- 行動変数基準:商品の使用率や商品に対して求めることなど
ターゲティングでは、細分化された複数のグループから自社製品・サービスを実際に販売する市場を選定。ターゲティングを行う際には、「6R」という有名なフレームワークが役に立つ。6Rでは、以下の6つの要件を満たしている市場ほどターゲットとして適切だと判断できる。
- 目標利益を達成できるだけの市場規模がある
- 市場の成長性が高い
- 強力な競合が少ない、競合の数が少ない
- 顧客に対する影響力が大きい
- マーケティング施策に対する反応を測定しやすい
- 顧客に対してアプローチしやすい
STEP2.購買決定要因(KBF)を基準に、ポジショニングマップの軸を考える
ターゲティングまで終えたらいよいよポジショニングを実施する。なおポジショニングの実施にあたっては「ポジショニングマップ」と呼ばれるツールを用いるのが一般的だ。ポジショニングマップとは、縦軸と横軸(2つの要素)から構成される図表である。ポジショニングマップに競合他社をマッピングすることで顧客への価値提供と差別化を両立できる自社の立ち位置を一目で見出だせるようになる。
ポジショニングマップを作成する際には、まず縦軸と横軸を決定しなくてはならない。軸には、購買決定要因(顧客が商品・サービスを選ぶうえで重視する要素)を基準に定めることが重要である。競合との差別化を実現しやすい要因を軸にすると顧客のニーズを満たせなくなるリスクがあるので注意しよう。例えばおしゃれに敏感な若者がターゲットならば「値段の安さ」「見た目のおしゃれさ」が2軸の候補となる。
ターゲットに合わせて軸を変えるのがポジショニングマップを作成するうえでは重要なポイントだ。
STEP3. ポジショニングマップに他社を照らし合わせる
ポジショニングマップの軸を作成したらマップ上に競合他社を配置していく。なるべく偏りがないように競合他社を配置していくと自社にとって穴場となるポジションを見つけやすくなる。競合他社の数や特徴が不明確な場合には、まずは競合調査を入念に行っておくのがおすすめだ。
STEP4. 自社のポジションを決定する
一通り他社を配置したらポジショニングマップの中から自社のポジション(実際に商品・サービスが顧客に提供する価値)を決定。基本的には、ポジショニングマップの空白部分に自社のポジションを置くのがベストである。なぜなら空白部分は、競合他社が手をつけていない部分(差別化できる部分)となり顧客に対して自社独自の価値を認識してもらいやすいからだ。
以上でポジショニングのプロセスは完了である。あとは設定したポジションに合わせて商品・サービスの改良・開発や価格設定、販売促進などのマーケティングミックスを遂行していく流れとなる。
ポジショニングを成功させるコツ4つ
ただ何も考えずにポジショニングを実施しても成果には結びつきにくい。ポジショニングを成功させるにあたっては、最低でも以下の4つのコツを押さえておく必要がある。
1.十分な市場規模があるポジションを選択する
ポジションを選択する際「差別化できるかどうか」という基準だけで選ぶと失敗するリスクがある。なぜなら顧客からの需要がないポジションを選んでしまう可能性があるからだ。例えばおしゃれに敏感な若者がターゲットの場合、安いだけで見た目がまったくおしゃれじゃない商品は、ほとんど需要がない恐れがある。
需要がほとんどないポジションでは、たとえ差別化できてもほとんど利益を得られない可能性が高い。そのため差別化と同時に需要の大きさも調査したうえでポジションを決定するのがベストである。
2.顧客のニーズを正確に把握する
1つ目のコツと重なるが顧客のニーズを正確に把握することもポジショニングを成功させるうえでは不可欠だ。例えばポジショニングマップを活用する場合、顧客のニーズを理解せずに2つの軸を設定すると顧客が商品・サービスを決定するうえでまったく重視しない要素となる恐れがある。その結果、差別化が完璧でも商品やサービスがまったく売れない可能性が高い。
ポジショニングは、単純に差別化するための作業ではなく「顧客に対して魅力的な価値を伝えるためのプロセス」である。そのため顧客が商品・サービスの購入で重視する要素を正確に把握したうえで需要あるポジションを設定しなくてはならない。
3.理念や戦略との整合性を意識する
ポジショニングを実施する際には「経営理念や戦略との整合性が取れているか」も意識することが必要だ。例えば「顧客に安くて品質の良い商品を提供する」という理念を掲げているにもかかわらず高価格帯のポジションを設定すると理念とポジションの間に一貫性がなくなる。その結果、長期的な目標達成に支障をきたしたり顧客からの印象が低下したりするリスクがある。
差別化や顧客のニーズを満たすのも大事だがそれと同様に理念や戦略との整合性も重視しないと想定外な状況(顧客離れや目標の未達成など)が生じかねないため注意してほしい。
4.ポジショニングマップでは相関性の高い軸を設定しない
ポジショニングマップを活用する際には、相関性の高い2つの軸を設定しないことも重要だ。相関性が高いとは、簡単にいうと2つの要素間の関係性が高いことを意味する。例えば「料金」と「サポートの豊富さ」は、お互いに相関性が高い傾向があるため、ポジショニングマップの軸にはあまり適していない。なぜなら大抵のサービスでは高い料金を払うほど豊富なサービスを受けられるからである。
相関性が高い2つの軸を設定すると競合他社と明確に差別化できるポジションを見つけにくくなってしまう。そのため相関性が低い2つの軸を設定することを意識しなくてはならない。
ポジショニング・アプローチは主要な経営戦略論の1つ
差別化しつつ顧客のニーズを満たすうえでポジショニングは非常に有効な手法の一つだ。ただし顧客のニーズを軽視したり理念や戦略との整合性が取れていなかったりするとポジショニングによる効果を実感しにくくなるので注意しなくてはならない。今回の記事で紹介した方法やコツを参考にぜひポジショニングを駆使してマーケティングで成果を出していただければ幸いである。
文・鈴木 裕太(中小企業診断士)