(本記事は、及川 幸久氏の著書『伝え方の魔術 集める・見抜く・表現する』=かんき出版、2021年2月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
知的正直さとは「わかったフリをしない」こと
ここまで情報収集術についてお話ししましたが、本章で解説する「知的正直さ」は「情報収集の第2段階」といえます。
知的正直さとは、インプットした情報に対して「自分は本当に理解したのか」と自問自答すること。
これによって理解が曖昧なままの部分が明確になり、アウトプットする(伝える)ときに迷いがなくなります。
自信のない、見ていてハラハラするようなプレゼンの多くは、準備や経験の不足が理由ということもあるのですが、実は「話す内容を自分自身がよくわかっていない」というケースもよくあります。だから言葉が説得力に欠けてしまい、「突っ込まれたらどうしよう」という不安が聞き手に伝わってしまうのです。
そこで大切になるのが「知的正直さ」です。
- 自分は何を知っていて、何がわからないのかをきちんと把握し、それを相手に伝える
- 断定(〜です)と推定(〜といわれています)をはっきり使い分ける
- わからないことは「わかりません」と正直に言う
こうすることで、相手は「この人の言うことは信じられそう」と思うことができ、話の続きを聞きたくなります。
決めつけずに選択肢を複数提示する
知的正直になるとは、わかったフリをしないことです。
しかし実際には、本当に最後まで理解できない、わからないことは多くあります。そして、安易にわかったフリをしないことが大事なので、「わからないままでいい」と思ってしまうこともあります。
しかし、「わからない」で終わらせてしまうと、前進しない物事もあります。
そこでおすすめなのが、選択肢を複数提示すること。提示する対象は、伝える相手であり、自分自身でもあります。
「選択肢を提示する」という視点で、美容師の現場を見てみましょう。
たとえば、お客さんが「髪を2センチくらい切りたい」とオーダーしてきたとき、お客さんがカット後の明確なイメージを言語化できていないことがあります。「顔周りの毛だけを切ってほしい」と思っていることもあれば、「襟足は残したい」と思っている場合もあります。
そこで美容師は、質問しながらお客さんのモヤッとしたイメージを引き出して、自分の頭の中にある「立体的なイメージ」を共有する必要があります。
ここでわかったフリをせずに、「このお客さんにとって一番いいスタイルは何か」を求め続け、モデル写真を見せたり、髪を触りながらカット後のイメージを伝えたりするなど、お客さんに選択肢を複数提示することが求められるのです。
これは、美容師だけでなく、家の設計を頼まれた建築士でも、家庭教師でも同じです。
顧客が仕上がりのイメージを明確には持っていない場合、「お客さまにはこれがベストです。これしかありません」と決めつけたり、わかったフリをしたりせずに、選択肢を提示するのです。
選ぶのは顧客もしくは自分ですが、大事なのは「何を選択するか」ではなく「モヤッとしていた仕上がりのイメージが、選択肢を出せるくらいはっきりすること」です。
複数プランを用意するときのコツ
複数の選択肢を提示する理由は、リスクヘッジをするためでもあります。
英語で「プランA」「プランB」という表現があります。プランAを採用するが、万一うまくいかなかった場合は、プランBにスイッチする。いわば保険のようなものです。
私はYouTubeの動画のテーマを決める際に、2つの選択肢を用意しています。
動画をほぼ毎日配信するためには、限られた時間内に動画を仕上げなければなりません。そのため、万一取り上げたテーマがその日の動画として相応しくないとわかったときには、すぐに別のテーマに変更する必要があります。それがプランBです。
最初のテーマが「ダメだ」とわかってから、新たなテーマを制限時間内で探し出すことはほぼ無理です。そこで、バックアップのプランBが重要になります。
プランBを用意するときのポイントは、素材を根本的に変えること。
たとえば、国際線の飛行機に乗ると、機内食には「和食または洋食」「肉料理または魚料理」といった選択肢があります。この場合、料理の素材が根本的に異なります。「ミディアムレアまたはウェルダン」とか「オニオンソースまたはグレービーソース」といった細かな違いではありません。
同じように、私はその日の動画のテーマを決めるとき、たとえばプランAを中東問題にしたら、プランBは中国問題にします。プランBも同じ中東問題にしてしまうと、こちらも動画にならないことがあり、それではバックアップとして機能しません。
このように、リスクヘッジをしたうえではじめから選択肢を複数提示することが、「知的正直さ」のひとつであると私は考えています。
1960年、神奈川県出身。上智大学文学部卒業、国際基督教大学大学院行政学研究科修了。その後、メリルリンチ社、インベスコ・アセット・マネジメントといった大手金融機関に勤務した後、幸福の科学に出家、宗教家となる。
現在は幸福の科学役員、幸福実現党外務局長を務めながら、国際政治コメンテーターとしてアメリカのラジオ・テレビ番組などにも出演。国内ではYouTuber、作家として言論活動中。
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