(本記事は、及川 幸久氏の著書『伝え方の魔術 集める・見抜く・表現する』=かんき出版、2021年2月18日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
伝えるうえで必要なのは「技術」と「ネタ」
まず、皆さんに今すぐ捨ててほしい思い込みがあります。
次のように思っている人、多いのではないでしょうか。
「伝え方が上手になるには、【技術】を身につける必要がある」
「【伝える技術】があれば、仕事、人間関係、情報発信がうまくいく」
書店に行くと、たくさんの「伝え方」本が並んでおり、その大半は「技術」にフォーカスして構成されています。そこに書かれたことを実践して、何かしらの効果を得られた方もいるでしょう。
でも、勘違いしないでください。
本当の意味で相手に伝えるためには、「技術」だけでは不十分です。
肝心の「内容」が充実していなければなりません。
口はうまいけど、話が薄っぺらで、なんか信用できない……こういう人、皆さんも一度は出会ったことがあるのではないでしょうか。もしくは、SNSやYouTubeで見かけたことはないでしょうか。
伝える技術はもちろん、大事です。伝え方ひとつで結果が大きく変わることもあります。それは否定しません。
しかし、「技術」だけでは足りないのです。伝える「内容」が濃く、ワクワクするものでないと、話を聞いてもらうことができても、その先へは進めません。
「話はうまいけど、中身がない人」になってしまう恐れがあります。
本書では「伝える技術」について解説しています。主に第4〜6章です。
しかし、技術を使いこなすためには「伝える内容を用意する」必要があります。そのため、第1〜3章までは「情報収集」、言い換えれば「ネタ探し」についての方法論を紹介しています。
「情報収集力」と「伝える技術」。
この2つがそろって初めて、本当の意味で「相手に伝わる」ようになります。
そしてその効果は、技術だけのときとは段違い。
まるで〝魔術〟のように、相手の心に届くのです。
ウォール街で学んだ「ネタ探し」の重要性
私がこうした考えを持つようになったきっかけは、ニューヨーク・ウォール街で金融マンとして働いた経験が大きいです。
当時、いつも思っていたのは「この仕事は、築地市場で早朝に良いネタを探している寿司職人と同じだ」ということ。
東京の寿司屋の主人は、早朝、豊洲市場でネタの買い付けをします。寿司は「新鮮なネタが命」です。ネタを見抜く目が、競争の激しい東京の寿司業界での勝敗を左右します。
ウォール街の金融マンも同じで、早朝、まだ世界の誰も気づいていない情報を誰よりも早く集めます。金利のわずかな動きを見抜いて、インフレ、株価の上昇(下落)などを予想するためです。金融業界は「情報のネタが命」なのです。
この経験が、さきほど話した「伝え方」に通じています。
寿司屋の主人がどんなに高い調理スキルを持っていても、その日のネタが悪ければ、お客さんを満足させることはできません。
同じように、金融マンがどんなに高い市場分析スキルを持っていても、その朝のネタが悪ければ、顧客を納得させることはできません。
伝え方には「技術」が必要だが、その前に行う情報収集という「ネタ探し」も重要である。
これが、私がウォール街で学んだことです。
情報収集を行うことのメリット
寿司職人やウォール街の金融マンなど、ビジネス上で情報収集を行うメリットとは、仕事の武器を得られること。それも、できるだけ威力の高い武器を見つけられることです。
競合他社が知らない情報を得たり、社内の人間が知らない情報を見つけたりできれば、そのままビジネスチャンスにつなげられるでしょう。
もちろん何かを伝えるうえでも、情報は強力な武器になります。
そして情報収集は、「視野を広くできる」というメリットもあります。別の言い方をすると、「それまで気づかなかった事実(ファクト)を知ることができる」ということ。
これは、伝えることとは関係なく、人生のさまざまなシーンで役立ちます。物事を多角的に判断できるようになりますし、フェイクニュースに騙されるリスクも減ります。相手だけではなく、自分に何かを言い聞かせるときの説得材料にもなります。
情報収集は、伝える技術と同じくらい、あるいはそれ以上に役立つスキルなのです。
1960年、神奈川県出身。上智大学文学部卒業、国際基督教大学大学院行政学研究科修了。その後、メリルリンチ社、インベスコ・アセット・マネジメントといった大手金融機関に勤務した後、幸福の科学に出家、宗教家となる。
現在は幸福の科学役員、幸福実現党外務局長を務めながら、国際政治コメンテーターとしてアメリカのラジオ・テレビ番組などにも出演。国内ではYouTuber、作家として言論活動中。
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