顧客満足度
(画像=NDABCREATIVITY/adobe.com)

顧客満足という言葉はビジネスでよく使われるキーワードだが、あなたはその本質をどこまで理解されているだろうか?顧客満足は、当たり前のように営業や広告宣伝を行っていれば自然と上がっていくものではない。

またビジネスのやり方を一つ間違えば、一瞬にして顧客の信頼と満足は失われ、取り返すのは容易なことではない。本記事では顧客満足度の計測方法や、その向上施策について解説していく。この機会に、今まで当たり前のキーワードだと思っていた顧客満足についてもう一度考えてみてはいかがだろうか。

顧客満足とは

顧客満足はCS(customer satisfaction)とも表現されるが、企業に属する人でこのどちらかの言葉を知らない人は少ないだろう。もともとは1970年代以前の大量生産・大量消費の時代が終わりを告げ、マーケティングの主眼が企業側から顧客側に移ったタイミングで使われ始めた言葉だ。それまでの企業側(生産者側)の都合で決められていたビジネスの方向性に、顧客の要望や嗜好が大きく影響する時代となったのだ。

それ以前の企業側の姿勢を顕著に表す、ヘンリー・フォード(フォード・モーター社創業者)の有名な言葉がある。

「People can have the Model T in any color - so long as it's black.」
(T型フォードを買う人々は、どの色でも好きに選べる − それが黒である限りはね)

フォード・モーター社が生産してアメリカで大ヒットとなったT型フォードは、発売当初(1909年)3色のバリエーションを販売していたが、後年一番乾きやすい塗装であった黒に色を統一した。顧客の色の好みなど関係なく、生産性を一番に考えた結果である。この時代は、まさに企業側主導のマーケティングが主流の時代だったのだ。

1970年代に入るとオイルショックによるインフレが経済を直撃し、企業目線では商品が売れない時代となっていく。顧客満足は、顧客の期待を満たすことで達成される。現代では顧客の期待を裏切った商品やサービスは、市場から消えていくしかない。

顧客満足度とは

顧客満足度とは、その名の通り顧客の満足度合いを測る指標のことだ。人間の感性は非常に曖昧で、満足した(1)もしくは満足しない(0)で単純に表現できるものではない。顧客満足度を測る方法はいくつかあるので、ここで紹介しておこう。

CSI

CSIはCustomer Satisfaction Indexの略で、アメリカを中心に約30か国が採用している顧客満足度調査の指標だ。日本では、このCSIを日本の商習慣に適応するよう改訂したJCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)が運用されている。

JCSI では、「顧客期待値」、「知覚品質」、「知覚価値」、「顧客満足度」、「推奨意向」、「ロイヤルティ」の項目ごとに3〜4つの質問を行い、それぞれ10 段階で顧客に評価してもらう。その合計を100点満点で指数化し、総合的に顧客の満足度を測る。「顧客期待値」や「知覚品質」、「知覚価値」からは、商品への満足・不満足の理由を知ることができ、「推奨意向」、「ロイヤルティ」からは商品購入後の顧客行動が推測できるなど、多面的な分析が可能な調査方法だ。

NPS

NPSとはNet Promoter Scoreの略だ。この計測方法は、その商品やサービスに対する顧客の「推奨意向」を測っていく。まず顧客に対してその商品を他人に薦めたいか質問し、その度合いを0(薦めない)〜10(強く薦める)で回答してもらう。その回答を10〜9の(推奨者)と8〜7の(中立者)、6〜0の(批判者)に分類し、(推奨者)-(批判者)を計算すればそれが推奨意向の指標、つまり商品やサービスへの満足度となる。NPSは非常にシンプルで理解もしやすいので、多くの企業で導入されている満足度の計測方法だ。※NPS及びNet Promoterは、ベイン・アンド・カンパニーの登録商標

DWB

DWBはDefinitely Would Buyの略で、顧客の「購買意向」を測る指標だ。自社の商品やサービスを、「絶対に買いたい」から「まったく買いたくない」まで5段階に分けて回答してもらい結果を分類する。この中で「絶対に買いたい」と回答した人を優良顧客としてカウントし、その増減を顧客満足度の変化として計測していくのだ。

ここで紹介した3つの顧客満足度計測の方法はすべてアンケート方式であり、結果は数値化されるが実質は定性的なものと理解した方がよい。大切なことは調査を一回で終わらせるのではなく、ある時点を起点として定点観測的に使い、過去の数値と比較して使うことが望ましい。

顧客満足度向上による効果4つ

顧客満足度が上がれば売上に結びつき収益も上がる、と漠然とはわかっていても具体的な効果にはどのようなものがあるのだろうか?以下で確認しておこう。

顧客のロイヤルティ化(ブランド・ロイヤルティ)

ブランド・ロイヤルティとは、顧客が同じような他社の商品やサービスがあっても、ある特定のブランドを指名買いすることをいう。顧客のロイヤルティ化とは、顧客にあの商品(もしくはあの企業)なら間違いないと認識させることを指し、2つの言葉はしばしば同意義に扱われる。

ロイヤルティの元の意味は「忠誠心」だが、顧客ロイヤルティ(Customer Loyalty)とは、顧客が特定のブランドや商品、またはサービスに対して感じる「信頼」や「愛着」を意味する。顧客から自社の商品やサービスへのロイヤルティを得ることができれば、他社製品との無駄な競争を避けることができる。

リピーターの増加

顧客満足度の向上はリピーターの増加につながる。「80:20の法則」という言葉を聞いたことはあるだろうか?これはパレートの法則とも言われるが、イタリアの経済学者が発見した法則で、企業の売上に当てはめれば「売上の8割は全顧客のうち2割の優良顧客(リピーター)が生み出している」ということになる。

つまり日常の営業において、顧客全員を対象とした営業を展開するよりも、2割のリピーターに絞って営業を行う方がより効率的な売上増大につながる可能性が高くなる。リピーターの増加は、売上だけでなく営業の効率化にも寄与するのだ。

経費節減

2割の優良顧客向けに営業のリソース(営業パーソンや店舗、営業所なども含む)を割り振れば、無駄な店舗や営業所などを廃止でき大幅な経費節減効果が期待できる。また広告宣伝費などについては、競合製品に対して優位性が確保できており、顧客への周知が済んでいるなら節減することも可能だ。

価格競争防止・利益率向上

顧客満足度が向上して指名買いが増えれば、利益の消耗戦となる他社製品との価格競争をしなくて済むようになる。また販売店などの値引き要求にも応える必要がなくなるため、商品やサービスの利益率が向上する。そしてもう一つ、競合製品より優位に立ち市場での取扱量が増えれば、生産現場の稼働率も向上し原料の値引き交渉なども有利になるため企業全体の利益創出にも貢献する。

顧客満足度を上げる方法3つ

では具体的に、顧客満足度を向上させるためにはどのような方法があるのだろうか?冒頭でも申し上げたが、顧客満足は顧客の期待を満たすことで達成される。顧客満足度の向上施策は顧客の期待を把握することが最初のステップだ。まずは先述した顧客満足度の調査を行って情報を収集する、もしくは営業パーソンからの情報を集計し「顧客の期待」を把握して欲しい。

商品やサービスの改善

営業パーソンの訪問や広告宣伝などでいくら商品の利点を説明しても、その内容が顧客の期待に合致していなければ購入のリピートはあり得ない。まずはその商品やサービス自体の改善をすることが重要だ。

次に重要なのは商品やサービスの品質だ。この品質とは、デザインや機能などにとどまらず、保証やサポートまでを含む。特にサポートは応対が悪いと商品ばかりでなく自社の評判まで下げてしまうことになる。対応マニュアルの整備や、サポート人員への教育など細部まで気を使う必要がある。

営業と広告宣伝

商品やサービスの利点を顧客に伝えるには、営業パーソンによる訪問や広告宣伝は欠かせない。ただし、近年その適切さが問題となっている。現代は情報過多の状況になっており、顧客の多くは押しつけがましく、しつこい営業や広告は逆効果になってしまう可能性がある。顧客訪問や広告宣伝、メルマガ配信などを行うのであれば、頻度を考慮し、顧客に嫌気されないことを念頭において行おう。

ロイヤルティプログラムの導入

これは主にB2BではなくB2C向けの施策となるが、ポイントカードを作るなど、商品やサービスの利用状況に応じて顧客に利益を還元するプログラムを導入することにより顧客満足度を上げていく方法だ。ポイントサービスの導入により、顧客ロイヤルティの向上につなげた成功例は多い。ただし直接利益を削ることにもなるので、導入には綿密な利益計算が必要だ。

顧客満足度向上の成功事例2つ

ここからは、さまざまな施策を実施して顧客満足度の向上に成功した企業の事例を紹介していこう。

スターバックス・コーヒー

コーヒーチェーンとして人気のスターバックス・コーヒーには、チェーン店にありがちな接客マニュアルがない。代わりに「グリーンエプロンブック」という冊子がスタッフに共有され、中には「歓迎する」、「心を込めて」、「豊富な知識を蓄える」、「思いやりを持つ」、「参加する」というポイントのみが記載されている。

スターバックス・コーヒーは、スタッフの行動をマニュアルで決めつけるのではなく、ホスピタリティのマインドを共有することで自主的な行動を促している。スタッフは自分で考えることにより、突発的な出来事にも臨機応変な対応ができるようになる。コーヒーや店内の調度品だけでなく、スタッフの心の持ちようにまで配慮するスターバックス・コーヒーの哲学が、顧客の人気を呼んでいるのだ。

スーパーホテル

J.D. パワーが実施している「ホテル宿泊客満足度調査」のビジネスホテル部門で、6年連続(2014〜2019年)1位を獲得したホテルがスーパーホテルだ。スーパーホテルはビジネスパーソンがホテルに期待する要素を徹底的に分析し、快眠のためのベッドや枕を用意し、こだわりの朝食を無料で提供。他にも天然温泉や高濃度炭酸泉を導入(一部店舗)するなど、出張中のビジネスパーソンの期待により添ったサービスで顧客満足を獲得し、70%以上のリピート率を誇っている。

すべてのマーケティング活動は顧客満足度を上げるためにある

顧客満足度は、一朝一夕に上がるものではない。商品やサービスの改善やサポートの充実、営業や広告の見直しなど、地道な施策の積み重ねが顧客満足につながる。企業におけるすべてのマーケティング活動は、顧客満足度を上げるために行っていると言っても過言ではない。一足飛びに顧客満足度を上げようなどとは思わず、小さなところから少しずつ改善を行っていこう。

文・野口 和義(野口コンサルタント事務所代表 中小企業診断士)

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