ガソリンスタンドは「消えゆく運命」? 100年に一度の大変革を生き残れるのか
(画像=CarolynFranks/stock.adobe.com)

ガソリンスタンドは、徐々に消えゆく運命なのか。ガソリン車からEV(電気自動車)への転換が進むと、大規模設備が不要なEVの充電スタンドがコンビニなどにも設置されるようになり、ガソリンスタンドの存在価値が徐々に低くなっていく。生き残り策はあるのか。

ガソリンから電気へ、自動車業界における変革

自動車業界では近年、各メーカーがEVの開発に力を入れており、国も環境への配慮という視点からEVを推進する施策を打ち出し始めている。

2021年1月に開会した通常国会の施政方針演説では菅義偉首相が、2035年までに新車販売の全てを電動車にすると表明した。これまで日本政府は新車を全てEVにする時期について「2030年代半ば」としていたが、2035年と時期をはっきりさせた。

このような背景には、国が2050年に「カーボンニュートラル」の実現を目指していることがある。カーボンニュートラルとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの実質排出量をゼロにすることを指し、この実現に欠かせない要素が自動車の電動化だ。

自動車の電動化は、自動車業界に大きな影響をもたらす。これまでガソリン車のエンジン向けパーツを製造していたサプライヤーなどは、大きな事業転換を迫られる。そして、影響を受けるのはこれらのサプライヤーだけではない。全国のガソリンスタンドも岐路に立たされる。

EVシフトがガソリンスタンドに与える影響とは?

自動車が電動化され、EVが普及するようになると、人々はEVスタンドで自動車を充電することになる。それならば、ガソリンスタンドでもEVスタンドを設置すれば良いのではないか、と感じるかもしれないが、経営的視点でみるとそれだけでは事業の縮小は免れない。

ガソリンを扱う給油所は、ガソリンの貯蔵タンクを含めて大規模な設備が必要となるが、EV向けの充電スタンドの場合は大規模な設備は不要だ。大型スーパーやコンビニの駐車場の一角にも設置がしやすくなる。

そのため、人々はさまざまな場所で気軽にEVを充電できるようになり、ガソリンスタンドにとってはライバルがかなり増える。EVの充電装置を設置する家庭が増えれば、ガソリンスタンドが設置した充電スタンドを利用する人はさらに減るだろう。

つまり、ガソリンスタンドがEVスタンドを設置したからと言って、ガソリンスタンドの存続問題は解決しないわけだ。では、どうすればガソリンスタンドは生き残っていけるのだろうか。

生き残りのための施策4つ ガソリンスタンドに求められることとは?

ガソリンスタンドの経営者が事業を安定的に継続していくためには、現在ガソリンスタンドで展開しているカーケアなどのサービスを強化したり、事業を多角化したりする視点が求められる。

1.カーケア事業を強化

例えば、カーケアについて考える。ガソリンスタンドでは洗車やコーティング、タイヤ交換などのサービスを展開しているが、このようなサービスは自動車が電動化してもニーズはなくならない。このようなサービスを強化することで、存在意義を維持するというのが1つ目の視点だ。

2.中古車両の販売事業を展開

事業の多角化においては、中古車両の販売事業に乗り出すというのがアイデアの1つとして考えられる。幸いなことに、ガソリンスタンドでは車両を展示するスペースを一定程度確保しやすい。

3.カーシェアやレンタカーの拠点化

すでに事業を多角化しているガソリンスタンドの中には、カーシェアやレンタカーの貸し出し拠点となっているケースもある。これも上記のケースと同様、ガソリンスタンドに広いスペースがあるからこそ展開できる事業だと言える。

4.コンビニやコインランドリーも展開

「自動車」という固定概念に囚われず、コンビニやカフェ、コインランドリーを併設し、一定程度の売上を得ているガソリンスタンドもある。特に地方や過疎地の場合は、競合するコンビニが近くに少ないケースもあり、将来的に収入の柱になり得る可能性が高い。

「100年に一度の大変革」に生き残るために

自動車業界ではいま、「100年に一度の大変革」(トヨタの豊田章男社長)が起きているとされており、コネクテッドカーや自動運転車、EVなどが今後どんどん世の中に普及していくと考えられる。このような中で、ガソリンスタンドが生き残っていくためには、時代の変化に合わせて業態を柔軟に変えていくことが必要不可欠だ。

最近は、コロナ禍によって人々の移動需要が減り、ガソリンスタンドの倒産が相次いでいる。しかし、コロナ禍が収束したとしても、ガソリンスタンドを悩ますEVシフトという傾向は強まるだろう。将来を見据え、先手で事業の多角化やカーケア事業の強化をしていかなければ、そのガソリンスタンドは「消えゆく運命」を受け入れるしか道はないのかもしれない。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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