BANKERS

全国金融M&A研究会が主催する「2020年M&Aバンクオブザイヤー」の受賞行を取り上げる企画の第10弾。

日本全国の地域金融機関でM&Aや事業承継を担当されている行員(BANKER)に各行の取り組みや銀行のカラー、地域の事業承継事情など他行への参考になる情報をインタビュー。着実にM&A実績を積み「特別賞」を初受賞した栃木銀行の法人営業部 ソリューションサポートチームの増渕泰久調査役にインタビューした。

ソリューショングループでは普段どのような業務をされていらっしゃるのでしょうか?

増渕: 現在は、主に事業承継・M&A業務に従事しお客様の案件に対応しながら、関連する様々な企画や行内研修にも携わる仕事もしております。今回、M&Aバンクオブザイヤーの特別賞を受賞することができ、大変光栄です。ありがとうございます。

栃木銀行は他行に比べても、本格的にM&Aに携わってきた歴史はかなり短いほうだと思います。 私自身も、平成26年の11月に日本M&Aセンター様に出向、そこからのスタートでした。

当時は、銀行員でありながら「M&A」という言葉すらピンときていなかったくらいです。
そんななか、予期せぬ時期の人事異動で出向することとなり、翌週には貴社に初めましてのご挨拶訪問。そこから1年間出向してたくさんのり勉強させていただいたことが、貴重な経験となっています。銀行へもどってから5年くらいになりますが、日々勉強をしながら事業承継・M&Aの業務に携わり、「この業務を銀行にとってのあたりまえの業務」にしたい! と思いながら仕事をしてきました。プロパーでのM&A案件にも取り組んでおりますが、案件の多くは日本M&Aセンターさんをはじめとした外部提携先の方々と一緒に仕事をさせていただいております。

栃木銀行としてもお客様の課題解決に取り組む姿勢を明確にしている中、お客様のニーズとして今後も事業承継型のM&Aは増加すると考えています。限られた人員の中でより多くのお客様の課題を解決するというミッションを達成しなければなりませんが、まずは地域密着で営業をしてきた我々銀行員がお客様と応対したほうが安心して相談をしてくれるケースも多いのではないかと思いますので、私たちがハブとなりお客様のご意向を伺ったうえで、最適なソリューションを提供するよう心掛けています。そして、選択肢の1つとして外部提携先をご紹介して、一緒に案件を進めています。

現在、M&Aを手掛けていらっしゃるソリューションサポートチームは何名体制で運営されていますか?

増渕: 私の出向以来、日本M&Aセンター様には毎年栃木銀行の行員を受けいれていただいております。現在は出向で知見と経験をつんだメンバー4名で事業承継・M&Aチームとして活動しております。

もちろん我々だけでは対応しきれませんので、支店長代理クラスの4名の若手に営業店のフロント業務を担ってもらうべく、育成をしている段階です。彼らもまだまだ勉強中ではありますが同行訪問などOJTで知見を積んでお客様により具体的なご提案ができるようになってくれています。
さらに支店長経験を持つ推進リーダー4名が知見と経験を生かして営業店から課題を持つお客様の情報を我々にトスアップしてくれています。
また、当行では「ソリューションサポーター(SS)」を全店に配置しており、彼らが営業店内の中長期的な課題を集約し、法人営業部と営業店を繋ぐ役割を果たしてくれています。半期で6回の研修と2回のグループディスカッション(戦略ミーティング)の開催を通じて、様々なソリューションメニューを習得していますが、その中でも『事業承継・M&A』は重点テーマとして進めています。その成果もあり、SSから法人営業部へ、推進リーダーから我々のグループへと、様々なルートで以前よりも多くの情報が集まるようになりました。

チームを立ち上げた当初は、我々が直接営業店の担当者とやり取りしてM&Aのご相談を伺っていたのですが、現在はより効果的に、かつより多くのお客様に、事業承継やM&Aの課題解決に向けたメニューを提供できるようになりました。“あたりまえの業務”に向けて一歩前進といったところでしょうか。

ですから、チーム自体は4名ですが、実際にたくさんの行員の方々に支えられていると感謝しています。外部提携先を含めたこれら連携が、M&A業務にはとても重要なのではないかと思っています。

チームの立ち上げを実質担われてきたわけですが、心がけていらっしゃることはありますか?

増渕: どんな些細なこともチーム全員に共有することですね。大まかな担当エリアは決めていますが、案件に応じてフレキシブに活動しているので、お互いの情報交換がとても大切です。

また、これは、チームメンバーにずっと言い続けていることでもあるのですが「M&Aにおいて私たちは主役ではない」というのは忘れないようにしています。

私たちが情報を得られているのは基本的には現場が一緒に動いてくれているおかげであって、私たちだけでは実は何もできません。

というのも、お客様と繋がっているのは営業店、M&Aのノウハウを知っているのは我々のチームです。我々に第三者承継をご相談されるお客様というのは元々栃木銀行と長いお付き合いのあった方々ばかり。営業店の担当も、あくまでお客様にとって最適なソリューションだと判断したからこそ、我々のチームに繋いでくれています。ですから、栃木銀行ではM&Aが始まっても営業店の担当者や支店長が我々と一緒に同席することもよくあります。特にディールの重要な節目の場面には、必ずと言っていいほど支店長や営業担当者が同席していると思います。一切営業店を関わらせていない金融機関もあると伺っていますので、その点は大きな違いかもしれません。もちろん、秘密保持の観点から、案件に関わる行員は極力限定して対応しています。

そういった考えがありますので、お客様の元へいきなりダイレクトにM&A営業を行うようなことはしておりません。お客様からすると「本部からM&Aの専門家が突然来た!」って身構えてしまいますからね。

そういうことをしてしまうと、次から営業店の人間との信頼関係もおかしくなり、円滑なコミュニケーションが取りにくくなります。M&Aを進めるときには、必ずお客様の立場に寄り添って考えてくれる営業店の協力は不可欠ですし、最終局面で支店長や担当者の方のフォローに助けられた案件は数え切れません。

先ほども申し上げましたが、あくまでお客様は営業店のお客様であり、担当者はずっと変わらない。というスタンスは守りたいと思っています。

我々は主役ではありませんから。

お客様にはどのように事業承継のご提案をされているのでしょうか?

増渕: おそらく経営者の多くは、商品を仕入れる場合も、車を買う場合も、機械を買う場合も、資料や見積もりをテーブルにいっぱい並べて、色々な選択肢を検討したうえで判断を下しているはずです。
にもかかわらず一番大事な事業承継のお話をするとき、経営者のテーブルの上は案外綺麗なことが多いです。

例えば、自宅の階段は何段あって、2階の先には何かあるか知っていますよね。でも事業承継・M&Aの階段(ステップ)の先には何があるかわからない方が多い。だから、なかなか階段を上ることができない。

どちらも、情報がない、だから判断できない という点がポイントなんだと思っています。

だからこそ、我々がお客様に材料を提供してテーブルに広げてあげる。階段を一緒に上ってあげて、その先にある景色を少しだけ見せてあげる。その先には長い廊下があるかもしれませんが、長さがどのくらいか分かれば安心しませんか。そういう役割を我々の若手メンバーや営業店担当者ができるようになるのが理想だと思っています。 お客様にとっては、もし事業承継の検討を中止するときにはテーブルの上を一旦かたずけてしまうか、階段を下りていけばいいのですから。 

そうやって選択肢を提示し、長いお付き合いの中からお客様と一緒に結論を導き出す。

そこまで地銀ができるようになると、我々地方銀行の価値ってもっとあがっていくと思うんです。銀行が何をしてくれるのか、どこまでサポートしてくれるのか、どういうことができるのかをこちらからお客様に伝えていかないといけないし、それができると今後すごく良くなると思います。

栃木銀行様の文化やルール、行風などございましたら教えていただけますか?

BANKERS

増渕: 地域のお客様のおかげで我々がある、そのお客様のために我々はなにができるのかを考え続ける、ということが我々のミッションなんだと思います。『豊かな地域社会に貢献する』という経営理念そのものが我々のモチベーションでもあり、当行には積極的にお客様に寄り添っていこうと考えている行員が多いと思います。

栃木銀行内の雰囲気も、どちらかというと「金融がやりたくて集まってきたエリート」というよりは、私も含めて(金融のことはあまりわからないけど)地域で働きたい! 地元に貢献したい!という行員が比較的多いと感じています。 となると、なおさら事業承継の問題には、取り組んでいかないといけないと思うんです。お客様が減少したら、私たちの働く場所もなくなってしまいかねませんから。

第三者承継についても、M&Aで会社自体は存続できたものの、栃木県・埼玉県からその会社がなくなってしまう、雇用や取引がなくなってしまう、のであれば地元に貢献したことにはなりません。

そういった意味でも事業承継については、会社や事業が地域に根差したまま次に繋がっていくというストーリーが必要だと感じていますし、そこまで入り込むことでこそお客様との一体感が得られるのだと思います。

お客様を日本M&Aセンターさんにお任せする場合でも、M&Aチームと営業店の担当者が常に状況を共有させていただいているというのも、我々の行風からなんだと思います。

「M&Aセンター様にお任せしたら我々の役目は終わり」では、その先がないじゃないですか。事業承継をされた後もお客様のサポートを行う、というのは行員一同肝に銘じているところです。

そのためにも、お客様のありとあらゆる課題に対応できるように、我々の引き出しを増やすこと。それが当たり前のこととして動くことのできるチームを目指していきたいですね。

コロナ禍の影響は経営者様にどのような影響がございましたか?

増渕: 銀行全体のお話をいたしますと、第1フェーズとしてはとにかく資金の支援をワンストップで取り組み続けてきました。現在も第3波が続いておりますが、同じように資金支援など私たちが地域にできることを継続的に対応しながらも、コロナ禍のお客様の本業支援により注力しようということで、「成長支援」と「再生支援」の2つのキーワードをテーマに様々な取り組みをおこなっています。

昨年には㈱とちぎんキャピタル&コンサルティングを立ち上げ、コンサルティング機能の強化を進めており、『とちぎんグループ』が一体となってお客様の課題解決・コロナ禍支援に向けて様々な観点から取り組んでおります。

我々のチームの話になりますと、コロナ禍によって「いずれは事業承継の検討を・・・」とおっしゃってきたお客様が、実際にM&A検討されたり株式移転を実行したりというケースがかなり増えております。M&A案件数についても過去最高を更新している状況です。

コロナ禍が直接的な原因というよりも、コロナ禍をきっかけにご自身と会社の将来について具体的に考え始めた。アフターコロナを迎えたときに、売上も、資金繰りも、従業員対応も、取引先との関係もすべて解決した後のことを考えたときに、「でも、事業承継はどうしよう?」「コロナ禍が続いたらどうしよう?」と思われた方が多かったのではないかと思います。この流れは、今後も続いていくのではないでしょうか。

まさに私たちがお客様のお役に立たなければならない場面が目の前にたくさんあるということであり、お客様の「成長支援」にも「再生支援」にも直接繋がっていきますので、積極的に取り組んでいこうと考えています。

最後に、日本M&Aセンターに期待することがあれば教えてください

BANKERS

増渕: 最新の情報やノウハウを共有して貰えるので、すごく有り難いと思います。日本M&AセンターさんはM&A業界でも常に先頭を走り続けていますし、そういう方達でないと得られない経験もあると思います。そういったものをぜひ、我々にもご共有いただけたら有り難いのかなと。

あとは、やはり、各業界ではトップ・パイオニアが輝いてこそ、全体の質の底上げにもなると思うんです。そういう意味でも、我々自身のレベルアップももちろん必要ですが、日本M&Aセンターさんにも先頭を走り続けていただきたい、我々は地域のハブの役割を担いながらしっかりと連携していければと考えています。

是非とも、今後ともよろしくおねがいします。

最後に、日本M&Aセンターの社員の皆さんは日々お忙しい業務を担われていると思いますが、コロナ禍が落ち着いたら栃木県に遊びに、旅行に来てくれればうれしいです。首都圏からも近いですし、ぜひ足を延ばして頂きたいな、と。 昨年は魅力度ランキング最下位! ということで少しネガティブなニュースで話題となってしまいましたが、様々な魅力を隠し持っていますので、ぜひ見つけに来てください。

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