エアバス1,400億円赤字、世界の航空業界の損失39兆円 コロナの壊滅的打撃に終わりは来るのか?
(画像=TobiasArhelger/stock.adobe.com)

世界各国でワクチン接種が始まり、新型コロナ収束への期待感が高まってはいるものの、未だ多くの国では海外はおろか、国内旅行ですらままならない状況だ。そのような状況で、航空業界の損失は凄まじい勢いで膨張し続けている。航空産業にとって、2021年は復活に向けた移行期間となりそうだ。

エアバス2年連続の大赤字 

欧州航空機大手エアバスが、2021年2月に発表した2020年12月期決算は、総売上高が前年から30%減の499億ユーロ(約6兆4,789億円)、純損失が11億3300万ユーロ(約1,448億円)の赤字となった。コロナで注文数・出荷数が65%も急落した上に、A320をはじめとする航空機の製造スピードも低下し、民間機の納入数などが予想を大幅に下回ったことなどが要因だ。

同社にとっては贈賄工作疑惑の罰金、総額40億ドル(約5,192億 9,392万円)が痛手となった、2019年に続く赤字である。同社は「13年間にわたり、中国やロシア、マレーシアなどで航空機販売を巡る工作活動を行っていた」として、フランス金融検察局(PNF)から追及を受け、罰金の支払い合意で決着をつけた。

最も打撃を受けたアジア太平洋地域の損失は約10兆円超え

エアバスの業績悪化は、航空産業全体のコロナショックを反映しているといっても過言ではない。国際民間航空機関(ICAO)の発表によると、2020年の座席数は前年から約50%減、乗客数は60%減と著しく低迷した。世界の航空産業に約3,700億ドル(約39兆2,788億円)という、驚異的な経済的損失をもたらした。

最も打撃を受けた地域はアジア太平洋地域で、損失は前年から1,200億ドル(約12兆 7,381億円)減、欧州は1,000億ドル(約10兆 6,151億円)減、北米は880億ドル(約9兆 3,434億円)の損失を記録した。その他の地域の損失は、140億~260億ドル(約1兆 4,864億~2兆7,602億円)に留まった。

2020年夏季は、多数の国で行動規制が緩和され、航空産業を含む経済活動が一時的に回復したものの、第2波の流行では変異型コロナウィルスへの懸念から、行動規制がさらに強化されている。今夏(7~8月)分の予約は、2019年同期と比較すると78%減と著しく低下しており、航空産業の苦境が今すぐに改善される期待感は薄い。

IATA 雇用喪失の連鎖に警鐘

新型コロナウィルス感染拡大以来、各国政府は航空産業を救済すべく、巨額の資金を注入してきた。国際航空運送協会(IATA)アレクサンドル・デ・ジュニアック事務局長が英BBCに明かしたところによると、その総額は2021年1月の時点で1,700億ドル(約18兆 407億円)に達した。

しかし、旅行需要は依然として低迷したままで、ワクチン接種も一部の国を除いては接種・供給延滞が目立つ。この状況で政府の支援が打ち切りになれば、たちまち資金が再枯渇するのは目に見えている。同事務局長の推定では、航空産業が上半期を持ちこたえるためには、さらに700~800億ドル(約7兆4,241億~8兆4,847億円)の追加注入が必要だ。

たとえば、米連邦政府はすでに2回にわたる給与補助策を実施しているが、3月以降延長されるかどうかは未定である。ユナイテッド航空およびアメリカン航空は、米連邦政府による150億ドル(約1兆 5,908億円)の追加支援策を条件に、数千人の一時解雇者を受け入れたものの、さらなる追加支援が講じられない場合は、焼け石に水となる可能性が高い。

またIATAは、雇用喪失の連鎖にも警鐘を鳴らしている。各国政府の追加支援が打ち切られた場合、世界の航空産業で約130万件の雇用が失われるのみならず、さらに航空部門350万件、そしてそこから利益を創出している広範囲な産業で、4,600万件の雇用が喪失するという。

相次ぐ破たん、リストラ、運行規模縮小…

長期化するコロナショックに、航空産業が生き残り策として講じているのが、大規模なリストラと運行規模の縮小だ。前述の通り、政府の救済資金により多数の雇用が維持されているとはいえ、今後の運命はさらなる追加資金の注入か、劇的な業績の改善かのどちらかにかかっている状況だ。直近では、2020年に5,000人の大量リストラを実施したKLMが 、新たに1,000人の追加リストラ計画を発表している。

日本の航空産業も例外ではない。ANA、JALは政府による観光支援策「GoToトラベル」で一時は国内線に復調の兆しが見られたが、2021年1月の緊急事態宣言を受け、国内線の運航規模を縮小した。国際線の運航は2020年3月以降、大幅に減便している。

すでに救済策が尽き、生き残れなかった航空会社もある。旅行データ会社のCiriumのデータによると、2020年10月の時点で、マイアミ航空、エールイタリ、Flybe (フライビー)、エアアジア・ジャパンを含む43社の商用航空会社が破たんしていた。

回復の兆しは第2四半期以降?

航空産業の回復の行方については、多数の国でワクチン接種が軌道に乗ると期待されている、第2四半期以降になるとの見方が多い。ICAOの「最も楽観的なシナリオ」では、2021年6月までに、乗客数が2019年の水準の71%(国際線53%、国内線84%)に回復する。「より悲観的なシナリオ」では、回復は2019年の水準の49%(国際線26%、国内線66%)に留まる。

一方、エアバスのギヨーム・フォーリーCEOは、2021年の見通しに慎重ながらもポジティブな見解を示してはいるが、民間航空機市場がコロナ以前の水準に回復するのは2025年以降になると予想している。

航空産業回復の特効薬が、感染の抑制と人の移動の再開であることは言うまでもない。現在、旅行やイベント、スポーツ施設等の再開促進策として、一部の国で導入の可能性が検討されているのはワクチン接種証明だ。ワクチン接種で世界をリードするイスラエルでは、ワクチンを接種済みであること証明する「グリーン・パス」の発行を開始したほか、2月25日現在、EU(欧州連合)なども「コロナワクチンパスポート」の導入について議論中だ。

コロナの終焉とエアバスの復活はまだ遠い

しかし、「ワクチンがコロナ終焉の絶対的な切り札になる」と考えるのは時期尚早である。ワクチンを接種したからと油断して、大量の人々が世界中のあちらこちらで一気に移動すれば、どのような結果を招くかは容易に想像がつく。いずれにせよ、復活への移行期間は当面続くものと予想される。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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