ジョブディスクリプションとは?作成事例や日本でのメリットやデメリット
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ジョブディスクリプションは、業務の範囲や責任などを明確にするもので、欧米のような職務限定型雇用が主流の国で一般的に使用されている。今回は、ジョブディスクリプションについて、その作成方法やメリット・デメリット、ジョブディスクリプション作成のポイントについて説明する。

目次

  1. ジョブディスクリプションとは
  2. ジョブディスクリプション作成のメリット4つ
    1. (1)ジョブディスクリプションを人事評価に活用できる
    2. (2)スペシャリストの育成に活用できる
    3. (3)自律的な働き方が可能になる
    4. (4)ジョブディスクリプションを採用活動に活用できる
  3. ジョブディスクリプションのデメリット2つ
    1. (1)ゼネラリストの育成が困難
    2. (2)ジョブディスクリプションの記載業務しかしない可能性がある
  4. ジョブディスクリプションに記載すべきこと5つ
    1. (1)職務の名称
    2. (2)職場情報
    3. (3)職務の目的
    4. (4)職務の内容と責任の範囲
    5. (5)職務に必要なスキルや資格など
    6. ジョブディスクリプションは各社で記載項目を決める
  5. ジョブディスクリプションを作成する際のポイント3つ
    1. 1)職務に関連する情報を集める
    2. 2)ジョブディスクリプションは最新情報に更新する
    3. 3)簡潔で分かりやすくまとめる
  6. ジョブディスクリプションをどのように活用するか
  7. ジョブディスクリプションによって働き方を見える化し、採用や人材育成にも活用

ジョブディスクリプションとは

ジョブディスクリプションは、日本では「職務記述書」「業務指示書」などと呼ばれており、社員が会社において従事する業務の内容や責任などを明確化するために使用されている。欧米では、ジョブディスクリプションによって職務が限定されていることが一般的であり、勤務地や労働時間も限定されている「ジョブ型雇用」が主流である。

日本では、ジョブディスクリプションによる職務限定での雇用契約は一般的ではなく、就労した企業のメンバーとしての総合的な業務履行を求められる。残業や転勤などもある代わりに、解雇への制約もある「メンバーシップ型雇用」が伝統的な雇用契約だ。

しかし、日本ではジョブディスクリプションが一般的ではないため、職務内容が曖昧になり、結果的に人事評価が曖昧になりやすいという問題がある。また、残業や休日出勤などによる長時間労働が常態化し、これがブラック企業問題の一因とも考えられている。

ジョブディスクリプション作成のメリット4つ

ジョブディスクリプションは、社員の職務範囲を明確にするという目的がある。ここでは、企業でジョブディクリプションを作成するメリットについて説明する。企業側のメリットには、以下の4つがある。

(1)ジョブディスクリプションを人事評価に活用できる

ジョブディスクリプションでは、職務内容や責任の範囲を記載するため、人事評価を行う際の基準を明確にしやすい。また、管理監督者にとっても、従業員に必要な能力や経験、磨くべきスキルを把握しやすいというメリットがあることから、社員の成長を促すための改善点を示したり、アドバイスをしたりすることが容易になる。

(2)スペシャリストの育成に活用できる

ジョブディスクリプションによって、事業に必要な業務が明確になるため、該当業務に関するスペシャリストを育てるのに有効である。また、ジョブディスクリプションには該当業務で習得すべきスキルや知識なども記載されているため、研修などの育成プランも組みやすいというメリットがある。

(3)自律的な働き方が可能になる

ジョブディスクリプションによって、社員の業務内容や責任の範囲が明確になるため、自身のキャリア形成の方向性や伸ばすべき強みについても明確になり、主体的に業務に取り組むことができる。自律的に働く社員の個性を発揮することもでき、結果的に労働生産性や組織力の向上が期待できる

(4)ジョブディスクリプションを採用活動に活用できる

ジョブディスクリプションによって、職務内容をはっきりさせて組織を整理することで、自社の事業に必要な社員の選定にも役立てられる。また、作成したジョブディスクリプションには、業務に必要なスキル・経験や、場合によっては労働時間や待遇なども記載できるため、採用活動に使用する求人票にも転用可能である。

ジョブディスクリプションのデメリット2つ

それでは、ジョブディスクリプションのデメリットとしては、どのようなことが挙げられるだろうか。

(1)ゼネラリストの育成が困難

ジョブディスクリプションのメリットとして、スペシャリストの育成に役立つという点があったが、その反面、社員のスキル成長の範囲が限定されることとなり、結果的に幅広い知見と業務遂行能力を持った「ゼネラリスト」が育ちにくいというデメリットもある。

(2)ジョブディスクリプションの記載業務しかしない可能性がある

ジョブディスクリプションに記載されていない職務に関しては、評価対象ではないと判断する社員も一定数存在すると考えられるため、評価に直結しない他の職務への協力などに対しては、意識が薄くなる可能性が否定できない。

ジョブディスクリプションに記載すべきこと5つ

ジョブディスクリプションには明確な取り決めがなく、フォーマットもさまざまだが、最低でも以下の5項目については記載すべきだ。

(1)職務の名称

ジョブディスクリプションにまとめる職務の正式名称を記載する。

(2)職場情報

職務を行う場所や、勤務地についての記載を行う。

(3)職務の目的

ジョブディスクリプションに記載する職務がどのような性質のもので、社内においてどのような役割を持ち、どう機能するかなど、その目的について記載する。

(4)職務の内容と責任の範囲

職務の具体的な内容や、その業務が果たす責任について記載する。また、記載された業務が社内において関連する部署や、仕事上の従属関係などもまとめる。職務内容の作成に当たっては、重要度および責任度の高い業務から低い業務へと順序だてて記載することが好ましい。

(5)職務に必要なスキルや資格など

その職務を実行するために最低限必要なスキルや経験、資格・知識はもちろん、学歴なども必要に応じて記載する。

例えば「薬剤師」ならば、大学の薬学部を卒業した上で、薬剤師の国家資格取得が必要となる。また、薬局で働く薬剤師ならば、患者の話に耳を傾ける傾聴力や、処方する薬の内容を分かりやすく説明する力など、顧客サービスのスキルについても、ジョブディスクリプションに記載しなければならないだろう。

ジョブディスクリプションは各社で記載項目を決める

ジョブディスクリプションには、最低限記載すべき5項目以外にも、該当業務の待遇や勤務時間などを記載することもある。しかし、ジョブディスクリプションへの記載内容については、各社で使用目的や実情も異なるため、項目や記載内容についてはその目的に応じて精査することが必要だ。

自社のジョブディスクリプションが、社員評価を目的としているのか、職務を明確にして労働生産生を向上させることが目的なのかによって、必要となる記載項目も変わってくるであろう。まずは、自社のジョブディスクリプションの活用目的を明らかにしてから進めてもらいたい。

ジョブディスクリプションを作成する際のポイント3つ

ジョブディスクリプションを作成する際には、業務の網羅性を高めて曖昧さを無くすのはもちろん、社員が誤解しないような内容であることも重要だ。ここでは、ジョブディスクリプション作成時のポイントについて説明する。

1)職務に関連する情報を集める

これまでジョブディスクリプションを作成したことがない会社では、自社の業務をゼロから明文化するという作業に困難が生じる場合がある。行うべき業務内容はもちろん、その責任の範囲や必要とされるスキルや経験などについては、言語化するのに時間がかかる。

ジョブディスクリプションをゼロから作成する場合には、厚生労働省が業務に関する一般的な職務内容や必要とされる能力などについてまとめている「判定目安表(評価ガイドライン)」や、「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」を参考にするとよいだろう。

「判定目安表(評価ガイドライン)」では、職種に必要な能力に対する評価基準が設定されており、職務遂行に必要なスキルについての初期スクリーニングを行うことができる。「職業情報提供サイト(日本版O-NET)」では、その職種で行う仕事内容や労働条件はもちろん、類似する職業や業務に必要なスキルや知識、「他者との関わり」「対面での議論」などの仕事の性質までが網羅されている。

いずれも全ての職業・職種を網羅しているわけではないので、自社の業務に類似した職業を参考にしてジョブディスクリプション作成に活用して欲しい。

2)ジョブディスクリプションは最新情報に更新する

業務内容はできれば固定化したいものだが、自社の事業拡大や縮小はもちろん、外的要因の変化によっても職務内容に変化が生じることもある。そのため、ジョブディスクリプションは定期的に内容を見直し、変更点がある場合には、最新情報に更新した上で従業員に共有することを忘れてはならない。

3)簡潔で分かりやすくまとめる

ジョブディスクリプションは、雇用する全ての従業員が内容を理解できるように作成する必要があるため、長文で書くのではなく、箇条書きを用いるなどできるだけ簡潔な文章で作成することを心がける必要がある。また、推測が必要となるような言葉は使わず、時代によって変化するような固有名詞は極力使わないようにしよう。

ジョブディスクリプションをどのように活用するか

日本では、生産年齢人口が減少し続け、2019年からの「働き方改革」の施行や新型コロナウイルスの感染拡大によるテレワークの普及など、経営者は従前の働き方を見直さなければならない事態となっている。

社員の労働生産性の向上を図るならば、まずは現状分析が必要であるが、その際にも職務内容を整理する意味ではジョブディスクリプションの作成が有効である。テレワークの拡大によって、社内で他業務をフォローすることが難しくなる場合には、個々人の業務範囲を明確にすることも必要となるだろう。

ジョブディスクリプションの作成によって自社に必要な人材が明確になれば、それぞれの専門性を融合させたスペシャリストチームの構築も不可能ではない。中小企業においても、ジョブディスクリプションを活用した日本版のジョブ型雇用とも呼べるような、柔軟な対応が必要となるだろう。

ジョブディスクリプションによって働き方を見える化し、採用や人材育成にも活用

メンバーシップ雇用のような終身雇用が一般的であった日本では、ジョブディスクリプションのような職務内容を明確にする書類は敬遠されてきた。しかし、ジョブディスクリプションを作成することによって、企業にとっては曖昧だった働き方を「見える化」できるといったメリットもある。

ジョブディスクリプションの作成は必ずしも容易ではないが、「日本版O-NET」の活用などで、ゼロから作成する負担は軽減されてもいる。ジョブディスクリプションによって企業に必要な人材を精査した上で採用活動を行い、人材育成のためのツールとしても活用してみてはいかがだろうか。

文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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