外国の株式や信託投資などで得た配当金から源泉徴収された場合や、企業が外国でビジネスを行う場合は、日本で納付する税金との二重課税が問題となる。
このようなケースでは、外国税額控除を利用することで、外国で納付した所得税を税額控除することが可能である。制度の仕組みや確定申告の方法、外国法人税の税額控除について解説する。
目次
外国税額控除とは
外国税額控除とは、二重課税防止のための制度のことである。
日本では、国内外で生じた所得全てにかかる所得税を納めなければならない。一方、外国で生じた所得に、その国の税制に則って課税される場合は、日本と外国で二重に税金を支払わなければならなくなる。
このようなケースで適用できる可能性があるのが外国税額控除である。二重課税を防止するために設けられている制度であり、外国で納めた税金を、控除限度額の範囲内でその年の所得税額から差し引くことが可能である。実際には、既に納付した所得税を、確定申告により還付してもらうことになる。
外国税額控除制度は、「全世界所得課税方式」を採用している国のほとんどで設けられている。日本をはじめアメリカや中国など、多くの国が全世界所得課税方式を採用している。
一方、シンガポールなど、その国で生じた所得のみに対して課税する「国内源泉所得課税方式」を採用している国では、国際二重課税が発生しないため、外国税額控除制度も設けられていない。
控除を受けられる人
外国税額控除は、日本に居住している個人が、外国の株式・ETF・投資信託などで配当所得を得たり、外国で不動産所得や売買益を得たりした場合に、源泉徴収などにより既に納税を済ませているケースで適用できる制度である。
たとえば、米国株式の配当を得た場合、アメリカと日本のそれぞれで所得税を源泉徴収される。国際二重課税が発生しているため、外国税額控除を利用すれば、確定申告によりアメリカで納税した分を還付してもらえることになる。
なお、外国税額控除は、「租税条約」を締結している国との取引により発生した所得に対して適用できる制度である。租税条約とは、二重課税の排除・軽減や脱法防止などを目的とし、国家間で締結される条約である。
租税条約は、日本では国内法に優先するが、租税条約は二国間で結ばれる条約であるため、国ごとに締結した条約により内容は異なっている。
外国所得税の範囲
外国税額控除制度の適用を受けられる外国所得税には、以下のような範囲が定められている。外国所得税に含まれないものがあることに注意しよう。
外国所得税に含まれるもの4つ
① 超過所得税や個人の所得における特定部分を課税標準として課される税
② 個人の所得またはその特定部分を課税標準として課される税の附加税
③ 個人の所得を課税標準として課される税と同一税目に分類される税で、個人における特定の所得に関し、所得に代えて収入金額やこれに準ずるものを課税標準として課されるもの
④ 個人における特定の所得に関し、所得を課税標準とする税に代わり、個人の収入金額やこれに準ずるものを課税標準として課される税
外国所得税に含まれないもの4つ
① 税金納付者が税金を支払った後、その金額の全部または一部の還付を任意に請求できる税
② 税の納付が猶予される期間を、税金納付者が任意に定めることが可能な税
③ 複数の税率の中から税を納付することとなる人と、外国もしくはその地方公共団体などとの合意により税率が決定された税のうち一定の部分
④ 外国所得税に附帯して課される附帯税に相当する税やこれに類する税
みなし外国税額控除(タックススペアリングクレジット)とは
開発途上国など、現地で外国税額が優遇されている場合、日本の法人税から差し引かれる「外国税額控除」は、安くなった後の実際支払「外国支払税額」だけとなり、減免によって安くなった税額分は、日本の法人税計算上、「外国税額控除」が行われない。
そのため、日本の法人税上は恩典を受けられず、低税率の国に進出したとしても、減免部分の税金の恩典が受けられていないことになる。
そこで、実際には海外で支払いされていない税金であるにも関わらず、減免された外国税額部分につき、日本の法人税から差し引くことで「減免部分の恩典」を受けられる制度が「みなし外国税額控除」と呼ばれる制度である(租税条約を結んでいる国のうち、一部の国との間で認められている制度)。
昨今においては、課税における公平性や中立性に欠ける上、実際に制度を悪用するケースも増えているため、みなし外国税額控除制度は縮減する方向にある。
外国税額控除の計算式
外国税額控除では、控除限度額を超えた分については税金が還付されないため、限度額の把握が重要である。具体的な計算方法や注意点などを押さえておこう。
具体的な計算方法
外国税額控除では、「その年に納付する外国所得税額」と「外国税額控除限度額」のいずれか少ない方を、その年の所得税額から控除できる。外国税額控除の限度額は以下の計算式で算出される。
その年分の所得税額×(その年分の国外所得総額÷その年分の所得総額)
たとえば、総所得における外国での所得の割合が30%であったケースでは、所得税額のうち30%相当額が限度額となる。
控除額の計算例
課税所得が600万円の場合、所得税率は20%、控除額は42万7,500円であるため、所得税額は以下のように計算される。
600万円×20%-42万7,500円=77万2,500円
外国株式の配当金が30万円だった場合、外国税額控除限度額は次のように算出できる。
77万2,500円×(30万円÷600万円)=3万8,625円
外国税額の税率が10%だとすると、配当金に対しての外国所得税は3万円となるため、このケースでは外国税額3万円が全額控除できることになる。
限度額や繰り越しについて
外国税額控除では、その年に源泉徴収などで外国に納付した所得税を全額還付してもらえるとは限らない。控除額を超えた分は還付されないことに注意しよう。ただし、計算式からも分かるように、より多くの課税所得を得ている人ほど控除を最大限に利用できる。
また、所得税において外国税額控除限度額を超えて納付した分は、以下の計算式で算出される住民税の控除限度額を超えない範囲で、住民税から控除される。
都道府県民税の控除限度額=所得税の控除限度額×12%
市区町村民税の控除限度額=所得税の控除限度額×18%
住民税の税額控除は、都道府県民税、市区町村民税の順で控除される。
外国税額控除は、翌年以降3年間にわたり繰り越すことが可能である。その年分の所得税と住民税から控除してもなお控除しきれない分がある場合、繰越多年度に控除できる分があるケースでは、その年分の所得税や住民税から控除できる。
外国税額控除の確定申告方法
外国税額控除の適用を受けるためには、確定申告する必要がある。必要書類や具体的な書き方を確認しておこう。
必要書類4つ
外国税額控除の還付を受ける際は、以下に挙げる書類の準備が必要である。
- 確定申告書
- 外国税額控除に関する明細書
- 外国所得税が課されたことを証明する書類
- 外国所得総額の計算に関する明細書
1と2は必要事項を記入して提出し、3と4に関しては取引先から発行される年間取引報告書を添付すれば問題ない。繰越控除を適用させたい場合は、各年の控除限度額や納付した外国所得税が記載された書類も用意する必要がある。
申告書の記入方法
確定申告書と一緒に提出する「外国税額控除に関する明細書」では、外国で得た課税所得と源泉徴収された税額を記入しよう。
確定申告書では、給与などの所得や外国で得た課税所得を記入する。国外所得総額や控除限度額を記入する欄があるため、計算式に従って実際に算出した金額を記入しよう。復興特別所得税の控除限度額や住民税の金額も計算し、該当する欄に記入する。
確定申告書内の「外国税額控除額の計算」で控除税額を算出し、外国税額控除に関する明細書で記入した金額を転記すれば、最終的に納める税金と還付金が算出される。
外国法人税の税額控除について
日本国内の企業が海外の子会社や企業から受け取る配当・利子などの所得や、外国の長期プラント建設工事などから得る所得は、その所得が発生する外国で課税を受けることになる。
個人の場合と同様に、日本と外国の間で生じる法人税の二重課税を、外国税額控除制度の適用により排除できる。
控除対象外国法人税額のワークフロー
外国法人税の税額控除については、海外で納付した税金を、「法人の所得を課税標準として課されるもの」と「法人の所得以外を課税標準として課されるもの」に分ける必要がある。関税や消費税は外国税額控除の対象とはならない。
次に、「法人の所得を課税標準として課されるもの」に該当する税金を、「外国法人税」と「外国法人税に含まれないもの」とで区別する必要がある。納付後に任意で還付請求できる税などは、個人のケースと同様に外国法人税には含まれない。
さらに、外国法人税のうち、「納付した控除対象外国法人税」「納付したとみなされる外国法人税」「外国子会社合算課税に係る外国法人税」が、税額控除対象外国法人税となる。
控除限度額の計算方法
外国法人税においても、個人の場合と同様、控除限度額が設けられている。計算方法は以下のとおりである。
全世界所得に対する日本の法人税額×(国外所得金額÷全世界所得金額)
国外所得金額は、全世界所得の90%を限度とする。また、国外と全世界の所得金額ともに、外国法人税が課されない国外源泉所得は含めない。
控除しきれなかった外国税額や、適用しなかった控除限度額分が生じた場合は、個人のケースと同様に翌年以降3年間繰り越すことが可能である。
二重課税されている場合は還付を受けよう
外国税を納付した場合、外国税額控除を適用すれば控除限度額の範囲内で日本の税額から差し引けるため、個人においては節税効果を期待できるだろう。
ただし、法人の場合は、控除対象外国法人税に該当する税金かどうか迷うものが数多くあるため、控除を行う際は注意が必要である。
国内の法人で十分な課税所得があり、外国の所得も十分な金額に達している場合、実際の確定申告では全額控除できないケースも考えられる。税制改正が頻繁に行われていることも意識しなければならない。
法人が外国税額控除の適用を検討する際は、税理士と相談しながら実務を進めていくのが賢明だといえるだろう。
文・福薗 健(公認会計士税理士福薗事務所所長 公認会計士・税理士)