資金が限られた事業者はマーケティングの手法に悩まされやすい。しかし、ダイレクトマーケティングをうまく活用すると、中小企業でも短期間で成長できる可能性がある。効果的な手法を検討中の経営者は、本記事を通してマーケティングの在り方を考えてみよう。
目次
現代ビジネスに欠かせない「ダイレクトマーケティング」とは?
ダイレクトマーケティングとは、企業と顧客が1対1で直接コミュニケーションを取るマーケティング手法のこと。
ほかの手法に比べて費用対効果が高いことから、近年では多くの企業が採用しているため、ダイレクトマーケティングを軽視すると時代に置いて行かれてしまう恐れがある。また、ワントゥワンマーケティングの基礎を身につける意味でも、現代の経営者はダイレクトマーケティングについてきちんと学んでおくことが重要だ。
ダイレクトマーケティングの特徴としては、主に以下の3点が挙げられる。
○ダイレクトマーケティングの3つの特徴
【1】双方向のコミュニケーション | 企業と顧客が双方向でコミュニケーションを図れる。 |
【2】効果測定が容易 | 顧客のレスポンスから、マーケティングの効果を簡単に把握できる。 |
【3】場所にとらわれない | 事務所や公共交通機関をはじめ、どのような場所でも商品を販売できる。 |
後述でも詳しく解説するが、ダイレクトマーケティングの手法はひとつだけではない。テレビや新聞などの従来メディアはもちろん、インターネットやSNSサービス、カタログなど、ダイレクトマーケティングではさまざまな種類のメディアを活用できる。
ダイレクトマーケティングに含まれるもの・含まれないものの一覧
もう少し理解を深めるために、次はダイレクトマーケティングに含まれるもの・含まれないものの例をチェックしていこう。以下の一覧に目を通せば、ダイレクトマーケティングの具体的なイメージをつかめるはずだ。
ダイレクトマーケティングに含まれるもの | ダイレクトマーケティングに含まれないもの |
---|---|
・テレマーケティング ・SNSマーケティング ・メルマガの配信 ・ECサイトのチャット機能やレコメンデーション ・各顧客へのアプローチを変えたダイレクトメール(DM) | ・新聞や雑誌の広告 ・クーポンの配布 ・テレビやラジオのCM ・すべての顧客に対して、同一の内容を発信するダイレクトメール |
上記を見ると分かるように、企業と顧客が双方向でコミュニケーションを取れる手法は基本的にダイレクトマーケティングに含まれる。ただし、すべての顧客に対して同一のDMを送るなど、顧客へのアプローチを限定した手法はダイレクトマーケティングには含まれないため注意が必要だ。
通信販売やマスマーケティングとの違い
ダイレクトマーケティングへの理解を深めるには、通信販売やマスマーケティング(※すべての消費者を対象にする手法)との違いも押さえておく必要がある。そこで以下では、ダイレクトマーケティングとこれらの手法の違いを簡単にまとめた。
○ダイレクトマーケティングとほかの手法の違い
主な違い | ダイレクトマーケティング | 通信販売 | マスマーケティング |
---|---|---|---|
・コミュニケーションの内容 | 双方向的 | 一方的 | 一方的 |
・アプローチの方法 | 顧客ごとに異なる | すべての顧客に対して同一 | すべての顧客に対して同一 |
・効果測定の主な方法 | 顧客からのレスポンスの確認 | 販売データのチェック | 到達目標と実績の比較 |
・発生するコスト | 低い | 高い | 高い |
通信販売やマスマーケティングでは、メディアなどを通してすべての消費者に同一のアプローチをかける。つまり、コミュニケーションがどうしても一方的になるため、顧客からのレスポンスによって効果測定をすることはできない。
また、一般的な通信販売やマスマーケティングでは大量の消費者に対してアプローチをかけるので、一度の活動で膨大なコストがかかってしまう。大量の商品を一度で売却したい場合には適しているが、必要なものを必要な分だけ提供する現代型のビジネスでは、やはりダイレクトマーケティングのほうが高い費用対効果を期待できるだろう。
企業がダイレクトマーケティングに取り組むメリットとデメリット
企業がダイレクトマーケティングをうまく活用するには、実施のメリット・デメリットをきちんと理解しておくことが必要だ。ダイレクトマーケティングにも欠点はあるため、特にデメリットを理解してその欠点を補うような工夫をしなければならない。
そこで次からは、ほかの手法と比べた場合のダイレクトマーケティングのメリット・デメリットをまとめた。
ダイレクトマーケティングのメリット4つ
ダイレクトマーケティングのメリットとしては、主に以下の点が挙げられる。
・高い費用対効果を期待できる
・少人数でも事業拡大を狙える
・収益が安定しやすい
・効果測定が容易であり、PDCAサイクルを実現しやすい
ダイレクトマーケティングでは、ターゲット層を絞った形でマーケティングを進めるため、事業拡大に伴って一気に人手を増やす必要がない。また、顧客からのレスポンスをデータとして蓄積し、そのデータを活用して新たなターゲット層を決められるので、事業が一度波に乗れば安定した収益を実現できるだろう。
そのほか、PDCAサイクルによってマーケティングの質を高められる点も、ダイレクトマーケティングならではの強みだ。顧客からのレスポンスをもとにマーケティング手法を改善すれば、費用対効果がより高い手法を確立できる。
ダイレクトマーケティングのデメリット2つ
一方で、ダイレクトマーケティングには以下のようなデメリットも潜んでいる。
・一定の効果が出るまでに時間がかかる
・それぞれの顧客に最適なアプローチを考える必要がある
ダイレクトマーケティングは、顧客のレスポンスがあってこそ成り立つマーケティング手法だ。そのレスポンスをデータとして蓄積しない限り、ターゲット層に合わせたアプローチをかけることが難しくなるので、ダイレクトマーケティングはすぐに効果が表れる手法ではない。
また、顧客データを収集した後にも、それぞれのターゲットに最適なアプローチを考える必要がある。広告の見せ方や表現を間違えると、期待通りの効果は表れなくなってしまうため、アプローチの方法には最大限の工夫が求められる。
ダイレクトマーケティングのメリット | ダイレクトマーケティングのデメリット |
---|---|
・高い費用対効果を期待できる ・少人数でも事業拡大を狙える ・収益が安定しやすい ・効果測定が容易であり、PDCAサイクルを実現しやすい | ・一定の効果が出るまでに時間がかかる ・それぞれの顧客に最適なアプローチを考える必要がある |
上記のメリット・デメリットを踏まえると、ダイレクトマーケティングは資金や人材の限られた中小企業・個人事業主に適したマーケティング手法と言える。マスマーケティングのように膨大な資金・人材が必要になる手法ではないため、ダイレクトマーケティングに取り組めば小規模事業者でも短期間で事業を成長させられる可能性があるだろう。
ただし、アプローチを間違えると前述のようなメリットは発生しないので、ダイレクトマーケティングの実施前には綿密な計画を立てておくことが重要だ。
ダイレクトマーケティングが適している業種とは?
ダイレクトマーケティングの効果は、実は業種によっても変わってくる。現代では金融や自動車、保険、アパレルなどさまざまな業種で活用されているが、なかでもダイレクトマーケティングが適しているとされる業種は「ECサイトの運営」だ。
例えば、ECサイトで収集した顧客データを活用すると、各ユーザーにおすすめの商品を表示させられる。また、問い合わせ窓口やチャット機能などを活用すれば、顧客のレスポンスもスムーズに把握できる。
このECサイトの例のように、「顧客データの収集」と「データを基にしたアプローチ」を両立できるビジネスにはダイレクトマーケティングが適している。
事例から学ぶダイレクトマーケティングのポイント
ダイレクトマーケティングは実施方法によって効果が変わるため、実施を検討している経営者は各ケースに最適な方法を考える必要がある。ここからはダイレクトマーケティングの成功例を紹介していくため、自社のケースと比較しながら成功のポイントやコツを学んでいこう。
【事例1】閲覧データをもとにした関連商品の提案/Amazon.com, Inc.
世界最大級のECサイトを運営するAmazonは、ユーザーの閲覧データを活用する形でダイレクトマーケティングを行っている。具体的には、閲覧データをもとにピックアップした「関連商品」が商品ページに表示される仕組みになっており、さまざまな関連商品の購買を促している。
この事例のように、関連商品を提案する形のダイレクトマーケティングはいまや珍しくない。カタログやDMを活用すれば、ECサイトに限らずさまざまな業種で実践できるため、数ある手法のなかでも関連商品の提案は積極的に考えておきたい手法だ。
ただし、関連商品はユーザーが本来購入しようとしていた商品とは異なるので、関連商品のピックアップは慎重に行う必要がある。
【事例2】好感度を上げるDMの発信/ソフトバンクグループ株式会社
携帯電話の大手3キャリアに含まれるソフトバンクは、ひとり一人の顧客がこれまで使用してきた機種をアルバムにまとめ、冊子にして送る独特なダイレクトマーケティングを実施している。もちろん、新機種に関する情報も同時に発信しているが、アルバム冊子と新機種のチラシは別冊として発信されている。
仮に、好感度を上げるためのDMと商品紹介を同じ冊子にまとめると、顧客の心には刺さらなくなってしまう恐れがある。会社や商品の好感度を高めるには、この事例のように商品紹介をあくまで「おまけ要素」として発信する方法もひとつの手になる。
【事例3】体験会や無料配布を活用した顧客データの収集/株式会社ベネッセコーポレーション
教育事業に携わるベネッセは、以下のようにさまざまな方法でダイレクトマーケティングに取り組んでいる。
・体験会を開催し、アンケートをデータとして収集
・生徒の成長に即したDMなどの発信
・教材の無料配布
また、生徒がこなした課題の添削を通して、双方向的コミュニケーションを図っている点もベネッセの特徴だ。同社は単に課題を添削するだけではなく、提出した課題の内容に応じてプレゼントなども提供している。
この事例のように、さまざまな角度から顧客のデータを収集できれば、見込み顧客の獲得にもつながるだろう。
慎重に計画を立て、各ケースに最適な形でダイレクトマーケティングを
現代ビジネスにおいて、いまやダイレクトマーケティングは欠かせない手法と言える。特に資金や人材が限られた事業者にとって、ダイレクトマーケティングは短期間での成長を狙える経営戦略だ。
ただし、ダイレクトマーケティングにもさまざまな形があり、業種や事業規模、営業形態などによって最適な方法は変わってくる。これからダイレクトマーケティングに取り組む経営者は、本記事の事例なども参考にしながら慎重に計画を立てていこう。