WHO武漢調査、中国での初期感染はより大規模だった?データ共有拒否巡り米中摩擦に拍車
(画像=monticellllo/stock.adobe.com)

中国武漢で新型コロナウイルスの発生源などの調査を行った、WHO(世界保健機関)の調査団は、発生源追跡の重要な手掛かりとなる、新たな事実が確認されたことを明らかにした。2019年12月に武漢で公式に感染が確認された際、これまで推測されていた以上に、感染拡大の兆候が発見されたという。
しかし、調査は一筋縄ではいかず、中国側が初期の感染患者に関する「生データ」の提出を拒否したことで、米中間にさらなる摩擦が生じている。

WHOの「遅すぎた調査」に疑問の声

WHO調査団は、2021年1月末から2週間にわたり、武漢で現地調査を実施した。武漢で初めて公式に新型コロナが確認されてから1年以上が経過していたことで、一部の専門家は「遅すぎた調査」に懐疑的な見解を示していた。武漢では感染拡大予防のために都市を繰り返し消毒しているため、ウイルスの痕跡は一掃され、環境が変化している。「初期感染の証拠は、すべて抹消されている可能性が高い」という理由だった。

これらの専門家の懸念通り、WHO調査団は調査開始から約1週間後、発生の原因の手掛かりを得られないまま、「中国の研究機関から流出した可能性は極めて低い」と発表した。初期感染が認められた武漢華南海鮮卸売市場や現地の病院、研究機関などで訪問調査を行った結果、「動物からヒトに感染した可能性が高い」「武漢より先に他の地域で流行していた可能性がある」との見解を示した。

生データから「新たな発見」 推定1000人以上が感染していた?

ところが、初期感染者174人に関する「生データ」の提供を拒否していた中国が、最終的にWHO調査チームと共有することに合意した。これにより、いくつかの「新たな発見」があった。

WHO調査団のリーダーを務めた食品安全分野の専門家、ピーター・ベンエンバレク氏は、「以前に報告されていた以上に、武漢において初期感染が拡大していたことを示す、明確な兆候を発見した」とCNNの取材で語った。生データの初期感染者は、重症化したケースだと見られている。新型コロナの感染者で重症化する割合は約15%だ。これに基づき大まかに概算すると、武漢では2019年12月の時点で、軽症者・無症状者を含めて推定1,000人以上が、すでに感染していた可能性があるという。

また、部分的な遺伝子サンプルを分析した結果、13種類の異なるSARS-COV-2(新型コロナウイルス株)遺伝子配列が収集された。一部は、最初に集団感染が確認された華南水産市場で発見されたものだ。ウイルスが感染プロセスで、変異を繰り返すことは珍しくはない。ベンエンバレク氏は性急な結論を避けているが、豪シドニー大学のエドワード・ホームズ教授は、「感染初期に13種類の変異種が存在したということは、かなり以前から感染が始まっていた可能性が考えられる」と見ている。また、「華南水産市場で確認される以前に明らかになっていない感染期間があったという、他の分析結果とも一致する」と付け加えた。

中国側の透明性に疑問の残る 生データ共有巡り米中間で摩擦

近年、米中関係の緊迫が著しく悪化しているが、今回の調査を巡り、両国間で再び摩擦が生じている。発端は、前述した中国側の生データの共有拒否だ。生データは新型コロナの起源を調査する上で、重要な手掛かりになると期待されていた。ところが中国側は、武漢の130以上の施設から収集した7万6,000件の症例報告の分析結果など、多くの資料を提供する一方、WHOが要請した生データに関しては難色を示した。

WHO調査団の豪微生物学者、ドミニク・ドーヤー氏は、ロイターの取材で、「生データの共有は、感染病調査の標準的な慣行である」とし、「中国側が共有を渋っている理由が不可解だ」とコメントした。WHOにはたとえ加盟国であっても、データの提供を強制する権限はない。

米国からの情報開示の透明性についての批判を受けた後、中国は生データを提供した。しかし、WHO調査団の訪問先は中国側が指定した場所に限定され、「健康上の規制」を理由に、コミュニティーのメンバーとの接触は禁じられていたという。新たな成果が得られたとは言え、政府の監視の目が光る状況下で、どこまで透明性の高い調査が行われたのか?という点に、疑問を唱える声もある。

一方、在米中国大使館の広報官は米国から受けた批判に対し、「近年の米国の行いは、WHOを含む多国間機関を弱体化させ、COVID-19に関する国際協力に深刻な打撃を与えている」と憤慨を露わにした。また、中国外務省の広報官は、「事実と科学を尊重し、努力を尊重する」よう、米国に要請した。

外交問題評議会のグローバルヘルス担当シニアフェロー、Yanzhong Huang氏は、「主な問題は、この問題自体に政治が介入し過ぎていて、独立性と透明性のある、徹底的な調査が非常に困難になっていることだ」と語った。

WHOは、2021年2月末に調査団を武漢へ再派遣することを希望しているが、正式な日程等は決定していない。Huang氏の指摘通り、「コロナの起源調査の政治化」が加速した場合、特に現地での再調査に支障をきたすことも予想される。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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