中国北西部の新疆ウイグル自治区に住む、イスラム教少数民族ウイグル族への弾圧に対し、米英政府が「断固たる対応」を行う意思を発表した。最近の報道では、収容所でのウイグル女性への性的虐待や拷問が明るみに出るなど、人権を無視した数々の残虐な行為に対して、「21世紀の集団虐殺行為」との国際批判が高まっている。しかし、中国側はこれらの事実を一切認めておらず、今後、米英を筆頭とする他国の激しい衝突が懸念される。
中国のウイグル族に対する弾圧の歴史
ウイグル族弾圧の歴史は、新疆ウイグル自治区が設立された、1950年代にさかのぼる。ブリタニカ百科事典によると、21世紀初頭、中国に約1,000万人、ウズベキスタンとカザフスタン、キルギスタンに、合計30万人以上のウイグル人が暮らしていた。新疆ウイグル自治区設立後、多数の漢民族が新疆ウイグル自治区に流入し、20世紀後半までには、漢民族が自治区の総人口の5分の2を占めるまでに増加した。
大量の移民が集中的に流入すると、寛大に受け入れる土台がない限り、摩擦が生じる。新疆ウイグル自治区も例外ではなく、時の経過と共に両民族間で経済格差や緊張が高まり、深刻な民族問題へと発展した。民族問題はやがて多数の死者や負傷者を出す紛争へと形を変え、中国当局が「反体制派や分離派と疑われるウイグル人」の取締りに乗り出すこととなる。
国連などに寄せられた報告によると、取締りがさらに強化された2017年以降、少なくとも85ヵ所の収容所の存在が確認されており、100万人以上のウイグル人が拘留されているという。中国政府当局は長年にわたり収容所の存在を否定していたが、収容所の写真が世間に流出すると、「反体制派に惑わされた一部のウイグル人が、適切な教育を受けるための再教育施設だ」と主張した。実際はウイグル人を洗脳し、伝統や信仰を捨てさせるための強制収容施設であることが、数々の証言から明らかになっている。
被害者が証言する ウルグル女性に対する避妊・堕胎強制、性的虐待
そして現在、世界を震撼させている残虐行為の一つが、2020年6月にAP通信が報じた、ウルグル女性に対する避妊や堕胎強制疑惑だ。報道によると、ウルグル女性は定期的に妊娠検査を受けさせれ、妊娠が判明すると中絶手術を強制される。
AP通信の取材に応じた中国生まれのカザフ女性は、3人目の子どもを出産後、子宮内避妊用具(IUD)の装着と2,685ドル(約28万円)の罰金を支払うよう、政府に命じられた。「支払わない場合は、(彼女の)夫と他の数百万人もの少数民族が拘留されている収容所に連行する」と脅された。彼女の証言が示すように、新疆ウイグル自治区の少数民族が「子供が多すぎるという理由」で、収容所送りや禁固刑を宣告されることは珍しくない。
さらに2021年2月、英BBCが「収容所で警官や警備員から、組織的な拷問や性的虐待を受けた」というウイグル女性の証言を報じたことで、国際批判が頂点に達した。中国政府の新疆政策の第一人者であるエイドリアン・ゼンツ氏は、BBCが得た証言について、「残虐行為が始まって以来、私が見た中で最も恐ろしい証拠の一つだ」と述べた。
弾圧の背景には、「イスラム教徒の人口の増加が、貧困や過激主義などの政治的リスクを高める」という、歪んだ警戒心がある。産児制限や虐待行為を通してイスラム教徒の人口増加を封じ込め、完全支配下に置くという、中国政府の狡猾で残忍な意図が見える。
2015~18年にわたり、新疆ウイグル自治区のホータン市とカシュガル市の出生率は60%強、自治区全体では24%低下した。4.2%という中国全土の出生低下率との差は、明らかに不自然である。
世界の反応・対応
もはや、他国の介入が回避不可能な状況であることを受け、一部の国は具体的な制裁措置に乗り出した。
米国は2020年6月、ウイグル族に対する弾圧をめぐり、中国への制裁を求める法案にトランプ前大統領が署名。2021年1月には、中国の行為が「ジェノサイド(特定の民族・人種に対する大量虐殺行為)」に該当すると認定した。現在はバイデン政権がそれを引き継いでおり、新疆ウイグル自治区での同自治区からの綿やトマトの輸入を留保しているほか、さらなる制裁準備を進める方針を明らかにしている。
米英日など13ヵ国の政治家などが参加する「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」は、ウイグル人に対する産児制限についての捜査を国連に要請した。そして、マイク・ポンペオ米国務長官は「このような恐ろしい、ゾッとする慣行を直ちに終わらせるよう、中国共産党に要請する」との声明を発表した。
BBCの報道後、米国務省の報道官は「このような残虐行為は人間の良心を揺さぶるものであり、重大な責任が問われる必要がある」と厳しく批判した。英ナイジェル・アダムス外務閣外相は「欧米各国と協力して中国に圧力をかけ続けていく」、豪マリス・ペイン外相は「国連の監視団による調査実施に向け、現地へのアクセスを許可すべき」と言及した。
EU(欧州連合)は2020年12月以降、議会を通して中国への制裁措置を検討している。国際捜査機関による現地での独立捜査を要請すると同時に、民間企業に対し、新疆ウイグル自治区との関わりの評価とサプライチェーンの調査を行い、人権が遵守されていない場合、ビジネス関係を断ち切るよう、圧力をかける意向だ。
中国側は疑惑を否定「虚偽の報道」
「一筋縄ではいかぬ中国政府を相手に、各国がどこまで対応できるか?」という大きな課題の解決に向け、国際協力がカギとなるだろう。
中国側は世界的な批判に怯むどころか、弾圧の事実を一切否定している。AP通信やBBCの報道に関しても、「中国政府はすべての民族を平等に扱い、彼らの法的権利を保護している」「国内の全施設は人権ガイドラインを遵守して運営されている」「我が国は法治国家であり、人権は憲法で保障・保護されている」と、中国外務省がコメントするなど、「虚偽の報道」に屈しない姿勢だ。
他国の介入が困難であることは、すでに立証済みだ。2018年8月、国連は中国に拘留されているウイグル人の開放を要請したが、中国側はこれを拒絶した。2020年12月には国際刑事裁判所(ICC)が、ICC非加盟国の中国が調査の管轄外であることを理由に、ウイグル族弾圧の捜査要請を退けた。
しかし、このまま国際的圧力が高まり、中国が虚勢を張り続ければ、さらに追い詰められ、衝突し、孤立していくだろう。国際社会で中国が存続していく上で、根本的な方向転換を迫られる時期に突入していることは明らかだ。
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)