コロナで大苦戦するアメリカ小売業 ゴディバ北米事業撤退に見る、With/Afterコロナの小売業
(画像=ltyuan/stock.adobe.com)

ベルギー王室御用達の高級チョコレートとして世界的に有名なゴディバ(Godiva)が、北米の店舗運営事業から完全撤退を発表した。同社の国際事業縮小は、新型コロナの影響に苦戦する米国の小売業者の現状を反映している。老舗デパートを含む米小売業が相次いで破たんする中、With/Afterコロナを見据えたビジネスモデルへの転換が、明暗を分けることは明白だ。

北米撤退、新CEO就任 事業改革に挑むゴディバ

ゴディバは、北米全128店舗(カナダ全11店舗含む)の閉鎖または売却を、2021年3月末までに完了させる。欧州・中国・中近東エリアの店舗は、維持する意向だ。「新型コロナの感染拡大により、実店舗への来客数が減少したこと」が、主な撤退の理由である。

同社は2020年12月に新CEOを迎え入れるなど、With/Afterコロナを見据えた事業改革に取り組んでいる。今後は自社の「オムニチャネル構造」を通じて、「新たなチャンスをつかむための3年間の戦略」に注力する。

ゴディバは過去にも繰り返し、大規模な事業改革を実施してきた。1966年に米キャンベルスープ・カンパニーの傘下に入り米市場に進出を果たした後、2008年にトルコのビリオネア実業家、ムラット・ウルケル一家が所有する食品大手、ユルドゥズ・ホールディングに売却された。さらに2019年には、東南アジアを拠点とするプライベート・エクイティ投資会社MBKパートナーズが、アジア太平洋地域の事業を買収した。

ショッピングモール低迷と新型コロナ 二重の打撃

今回の事業縮小に関しては、特に北米地域の業績不振が大きな要因となった。近年、北米のショッピングモールや百貨店は、ネットショッピングの需要拡大に押され、客足が遠のいている。店舗を主要な販売ルートとしてきたゴディバのようなビジネスにとって、ビジネスモデルの転換はパンデミック以前から避けて通れない課題となっていた。

実際、同社は売上増加戦略として、大衆向けの低価格ラインを欧州の大手量販店に出荷しているほか、2019年には今後6年間にわたり、世界中に2,000軒のカフェ併用店舗をオープンする計画を明らかにしていた。しかし、コロナの感染拡大により経済活動が著しく低迷した結果、計画変更を余儀なくされた。

統計データベースStatista などのデータによると、2015年には推定7億9,200万ドル(約835億8,811万円)だったゴディバの世界の総収益は、コロナショックに見舞われた2020年、5億ドル(約527億6,903万円)強へ縮小した。オンラインや小売パートナーを介した販売が、売上に占める割合が拡大している今、利益率の低い地域のオフラインビジネスを縮小し、オンラインの比重を増やす方向転換は、利益の最大化を図る上で利にかなった戦略といえる。

コロナで大苦戦する米小売業 大手が続々と破たん、事業縮小

米国で苦戦を強いられているのは、ゴディバだけではない。ショッピングモールの総敷地面積で全米最大を誇ったJ.C.ペニー、高級百貨店チェーンのニーマン・マーカス、アパレルグループのJ.クルー、アセナ・リテール・グループなどを含む、40以上の小売業が2020年8月までに相次いで破たんした。J.C.ペニーと並ぶ大手百貨店チェーン、メイシーズ(Macy's)やアパレルブランドのヴィクトリアズ・シークレット(Victoria’s Secret)、Gapなどは、大半の店舗を閉鎖する計画を発表した。

ゴディバ同様、これらの小売業者の業績はパンデミック以前から低迷していたが、コロナショックにより拍車がかかった。それではコロナが収束あるいは終息すれば、かつての盛況が戻るのだろうか?専門家の見解は懐疑的なものが多い。オンラインショッピングなど、コロナにより加速した消費者の購買行動の変化が、今後もニューノーマルとしてある程度定着するとの調査結果も報告されている。一部の専門家は「今後5年間で数百のショッピングモールが閉鎖される」と予想している。

「複数のわらじ戦略」がニューノーマルになる?

このような背景から、オフラインビジネスのオンラインへの移行が、With/Afterコロナの小売業界でさらに加速すると予想される。そうなると、商業施設などの空室率が上昇し、不動産業への影響が深刻化するなど、小売業以外の分野で問題が浮上する可能性が高い。

商業用不動産業界情報企業CoStar Groupの調査によると、2020年4~11月の店舗賃料の滞納総額は、520億ドル(約5兆4,882億円)に達していたという。リモートワークの急増でオフィスの空室率が高水準に達している不動産業にとっては、二重の痛手となるだろう。これまで小売業と不動産業は密接関係にあったが、With/Afterコロナではそれらの関係にも変化が訪れるかも知れない。

とはいうものの、街中からすべての実店舗が消滅するとは考え難い。良質な商品・サービスや立地条件、話題性、イベントなどで消費者にアピールできる実店舗を維持する一方で、オンラインを含む多様な販売チャンネルを効果的に拡大するなど、「複数のわらじ戦略」が米小売業のニューノーマルとなりそうだ。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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