遂にトヨタを超えたテスラ  2021年も快進撃は続くのか?
(画像=wolterke/stock.adobe.com)

米EVメーカー、Tesla(テスラ)は、「時価総額世界一の自動車メーカー」の座をトヨタから奪取したほか、S&P500株価指数の構成銘柄に一括採用されるなど、まさに飛ぶ鳥落とす勢いだ。世界のEV市場の拡大やバイデン環境政策など、期待材料が揃ってはいるものの、上場以来、損失を出し続けてきたTeslaの快進撃を、「過大評価」と見なす専門家も少なくない。果たしてこの快進撃は、今後も継続するのだろうか?

上場以来初の黒字達成、時価総額は8倍に高騰

2019年に新設した上海の新工場でEV生産が軌道に乗り、2020年の生産台数は50万9,737台(前年比40%増)、納車台数は49万9,550 台(36%増)と記録的な数字を叩き出した。12月通期の売上高は315億3,600万ドル(前年比28%増/約3兆 3,131億円)、最終損益は7億2,100万ドル(約757億5,477万円)と、2010年の上場後初めて、通期ベースの最終損益で黒字を達成した。

株価は2020年1月初旬から7倍以上値上がりし、12月には700ドル(約7万3,544円)を突破した。2021年2月2日現在は、872ドル(約9万1,615円)に高騰し、時価総額は8倍に膨張し、8,270億ドル台(約86兆8,899億円)を維持している。

2021年は、独ベルリン郊外と米テキサス州で建設中の工場が稼働予定であり、生産台数100万台、世界販売台数5割増を目指す。また、インド市場への進出も計画するなど、さらなる市場拡大に挑む。

「温室効果ガスの排出権販売への依存」に対する指摘

「2020年はTeslaにとって、まさに会心の一撃の年となったわけだが、同社の強気な展望や将来性について懐疑的な見方もある。

議論の焦点は、温室効果ガスの排出権(Regulatory Credits)販売への依存をめぐる「利益の質」だ。温室効果ガスの排出権とは、温室効果ガスの排出量・吸収量を各国がクレジットとして認証し、企業は予め定められた温室効果ガスの排出枠内で、余った分を他社に販売できる制度である。

Teslaは過去数年にわたり、この温室効果ガスの排出権をゼネラル・モーターズ(GM)などのライバルメーカーに販売することで、巨額の利益を得てきた。2020年も例外ではなく、他メーカーに販売した温室効果ガスの排出権は、総額16億 ドル(約1,680億7,295万円)と、純利益7億2,100万ドル(約757億3,787万円)をはるかに上回っていた。

CNNビジネスのシニアライター、クリス・イシドール氏はこのような事実を踏まえ、「排出権販売による収入がなければ、実際は純損失を計上していたことになる」と指摘している。

一方で同氏は、株式ベースの報酬等の項目を除外した2020年の調整後純利益報告では、排出権販売による収益を差し引いても、自動車事業の粗利益が54億ドル(約5,672億5,192万円)だった点についても触れている。純現金収支も28億ドル(約2940億9531万円)と前年から158%増加したことを考慮すると、資金枯渇により危機に晒されていた2018年から劇的に回復したことは確かである。

これに対し、Teslaの最高財務責任者ザックリー・カークホーンソ氏は、一時的に排出権販売による収入の割合が高くなる可能性があることを認めている。一方、「長期的な視点から見ると、排出権販売は事業の重要な収入源ではなく、それに依存して事業を計画することはあり得ない」と反論した。

米ベンチャーキャピタル企業Loup Venturesのパートナー、ジーン・ミュンスター氏は、このような論争を「聖戦(果てしのない論戦)」に例え、「排出権販売を差し引いた自動車の粗利益率が、Teslaの経済的成功を測る最良のバロメーターになる」と主張している。

VW、上汽通用五菱汽車などライバルが迫る

Teslaにとってのもう一つの課題は、加速するEV市場において、「Teslaのブランドイメージが、どこまで価格競争や話題性、減税措置などに対抗できるのか?」だ。EV大国である欧州では、フォルクスワーゲン(VW)の新世代EV「ID.3」やルノーのコンパクトEV「ZOE 」、中国では上汽通用五菱汽車の超低価格EV「宏光MINI EV」に売上げを追い越され、油断できない状況だ。

さらに米市場では、EV連邦税控除策の恩恵を受けられなくなるというハンデがある。これは累計販売台数が20万台未満のEVおよびプラグイン・ハイブリッド(PHV、PHEV)の購入者を対象とするもので、購入者には最大7,500ドル(約79万円)相当の減税措置が適用される。20万台以降は減税額が半減し、段階的に終了する仕組みとなっている。Teslaへの適用は2019年12月末で終了した。

多くの人にとって7,500ドルは大金だ。減税対象であるAudiの「新型e-tronスポーツバック」や「e-tron SUV」、BMWの「i3 シリーズ」などに、消費者の関心が向いても不思議ではない。Teslaは対抗策として、価格を2万5,000ドル(約263万円)に抑えた新型モデルを、2023年までに市場に投入する計画を発表した。

バイデン環境政策がさらなる追い風となるか?

さらに、生産能力の問題もある。2020年の納車台数は前年の3倍以上に増加したとはいえ、目標である50万台を僅かに下回った。新工場のフル稼働で生産台数のさらなる増加を見込んでいるが、計画通り行かなければ生産が追い付かず、同社の株価に影響を与える可能性がある。

とはいうものの、主要経済国が「脱炭素社会」をスローガンに抱え、電気自動車(EV)の世界市場が拡大している現在、Teslaに追い風が吹いていることは間違いない。また、米国ではバイデン氏の環境政策が、さらなる期待材料となるはずだ。これは今後15年にわたりクリーンエネルギーとインフラへ2兆ドル(約210兆604億円)投じて、気候保護に取り組むというもので、EV普及拡大に向けた戦略も含む。

「Teslaのビジネスモデルはサステイナブル(持続可能)ではない」という厳しい意見もある中、「EV市場シェアが低くても、継続的に成長していく」という 、Teslaのブランドイメージを重視した意見もある。

上場以来、損失を出し続けてきたTeslaが、本当に86兆円の価値がある企業なのか?評価の正当性が明白になるのはまだ先の話になるだろう。2021年はEV市場のシェア拡大に向け、ライバルメーカーと熾烈な競争が見られそうだ。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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