虐待件数、毎年2,000件。日本の障がい者支援の「質」を今、変える
(画像=THE OWNER編集部)

障がい者を支援する施設は全国に13万事業所以上あり、100万人以上の職員が働く。そんな障がい者施設で「虐待」が問題となっている。施設での虐待を防ぎ、障がい者とその家族が安心して利用できる環境をつくるために、eラーニングサービスを提供するのが株式会社Lean on Meだ。代表取締役 CEOの志村 駿介氏に、サービス内容や目指す姿を聞いた。

志村 駿介
志村 駿介(しむら しゅんすけ)
1990年生まれ。ダウン症の弟を持ち、障がいのある人と自然と共生する環境で過ごす一方で、一般社会の「障がい」との向き合い方に課題を感じ、真のノーマライゼーションの実現を志し、2014年に株式会社Lean on Meを設立。「障がい者にやさしい街づくり」をビジョンとして、障がいのある人への理解を促進するためのeラーニングである”Special Learning”を中心に事業を展開する。

持ち前の障がいのある人の視点に加え、米オレゴン州への障がい者支援視察や日本を代表する社会福祉法人の北摂杉の子会、一般社団法人ホワイトハンズなどとの協業を通じ、最先端の研究や実務視点も取り入れたコンテンツを開発。チャーンレートは3%を切っており、安定した事業運営を実現している。

主な実績として、大阪府起業家スタートアッパー(地域部門1位 総合2位 受賞)、大阪府ベンチャー企業成長プロジェクトBooming!2.0&4.0に2度採択、日本eラーニング大賞2018 ダイバーシティ特別部門賞受賞など。

障がい者支援現場で働く職員を支援

――Lean on Me(リーンオンミー)の事業内容について教えてください。

志村 当社は2014年に設立し、「障がい者にやさしい街づくり」をビジョンに掲げ、施設向けeラーニング研修サービス「Special Learning」を中心に、障がい福祉に特化したサービスを提供しています。

私にはダウン症で知的障がいのある弟がいます。また当社メンバーのうち約3割は、障がいのある家族を持っています。自分の家族を安心して預けられるような施設を増やしたいと考え事業を運営しています。

――「Special Learning」の具体的な内容や特徴を教えてください。

志村 まず、知的障がい者支援業界の全体像からご説明します。知的障がいのある子どもは、特別支援学校を卒業後、約3割は就職し、約7割は障がい福祉サービス事業所、いわゆる障がい者施設で生活します。障がい者施設数は全国に13万事業所あり、そこで働く従業員は約100万人以上いるとされます。

障がい者支援,Lean on Me
(※知的障がい者支援業界の現状(画像提供:株式会社Lean on Me))

こうした施設における問題の一つは虐待です。障がい者虐待の通報件数は毎年2,000件以上あり、それも氷山の一角と考えられます。障がい者の虐待をなくし、その家族の不安を解消するために「Special Learning」を提供しています。

「Special Learning」は月額課金制のSaaS型eラーニングサービス。障がい者を支援するうえで必要な知識を、1本につき3分程度の短い動画で解説しているのが特徴です。短い動画なので、スマホやパソコンを使って好きな時間・場所で学習できます。また、動画には知的障がいのある当事者の方に出演いただいています。そのため、テキストだけでは伝えきれない雰囲気の部分、細かいニュアンスも伝わりやすくなります。専門家との連携のもと、権利擁護、虐待防止、安全面などのテーマ別に、500本以上の動画を用意しています。

現在、全国800施設以上に契約していただき、2万5千以上のユーザーにご利用いただいています。

障がい者支援,Lean on Me
(※動画コンテンツの一例。声のかけ方やしぐさなど細かい点は動画だからこそ伝わりやすい。(画像提供:株式会社Lean on Me))

日本の障がい者支援は諸外国に比べて遅れている

――そもそもどのようなきっかけで起業したのですか?

志村 もともとはプロテニスプレイヤーを目指していましたが、「自分にしかできない仕事をしたい」と思い、違う道を模索しました。そして自分の家が母子家庭で、障がいのある弟がいたこともあり、経済的に豊かになりたいと考え、経営者を志しました。

卒業後まずは就職し、ゼンショーグループのはま寿司で店舗責任者として働き、財務諸表の見方や従業員教育など、経営の基礎を学びました。その後、障がい者施設でアルバイトをしながら、ビジネスのアイデアを探していました。

そのときに感じたのは、研修や教育体制が整っていないということ。たとえばマニュアルがないので、先輩方に手取り足取り教えてもらうしかありません。そこで、飲食店で働いた経験を活かして、自分で業務マニュアルを作成して、新人職員の研修に使うなどしていました。

その後、全国の施設を見学したときに、同じような問題はどこにでもあるとわかり、施設の職員を支援するための教育研修サービスで起業することを決意したのです。

――2014年に会社を設立した後、すぐにサービスを立ち上げたのですか?

志村 いえ、当初は施設でアルバイトをしながら情報を集めて、ホームページ制作の仕事などもしつつ、サービス立ち上げの準備を進めていました。その後、日本政策金融公庫から融資を受けることができ、その資金を使ってサービス開発を進めました。

その頃、市場調査のためにアメリカに渡り、1カ月くらいかけて各地の障がい者施設を見てまわりました。そこで感じたのは、アメリカの障がい者支援の現場は日本と比べて非常に進んでいること。たとえばアメリカでは、行政が施設職員のための研修カリキュラムを提供していますし、ライセンスを持っていない人はそもそも働けません。投薬一つとっても厳格な手順が決められていて、ミスをすればクビになるくらい厳しい。

アメリカと比べて遅れている日本の現場をレベルアップさせたいという思いを胸に、日本でサービス開発に力を入れました。こだわったのはやはり動画の内容です。親御さんや施設の協力を得ながら、障がいの当事者に出演いただき、少しずつ動画コンテンツを増やしていきました。もともと私がeラーニングの専門家ではなかったので、その点でも苦労しました。

コロナ禍でeラーニングのニーズが拡大

――ユーザーは順調に拡大したのですか?

志村 そんなことはありません。スタートしてからしばらくは、なかなかユーザーが増えませんでした。資金が枯渇して、あと数カ月で倒産という時期もありました。しかし、そんな状況でも金融機関などから資金の支援を受けることができ、なんとか食いつなぐことができました。

サービスを継続できる自信が出てきたのは2020年に入ってからです。コロナ禍で、在宅でもできるeラーニングの需要が拡大したことが追い風になりました。2020年3月に2千人ほどしかいなかったユーザー数が、1年で10倍以上に。障がい者施設は横のつながりも強いので、口コミで導入施設が増えています。

また施設だけでなく、障がいのある就労者を受け入れる企業や自治体での導入も進んでいます。

――利用者からはどんな感想が聞かれますか?

志村 介護施設から障がい者施設に転職してきた人からは、「不安を抱えながら利用者さんと接していたが、動画コンテンツを見て自信を持って支援できるようになった」との声をいただきました。「自分の行動が虐待に当たるかどうか意識しながら支援に当たれるようになった」との声も聞かれます。虐待防止の視点では確かな効果が上がっていると考えています。

遅れている日本の障がい者支援の現場をアップデートする

――最近力を入れている取り組みはなんでしょう?

志村 システムのリニューアルです。現在のシステムは、元々エンジニアではない私が独学で開発したため、正直、UIUXの面で改善点がたくさんあります。現在は、資金調達も進めながらコンテンツやシステムの拡充に取り組んでいます。新システムはまもなくローンチできる予定です。

――今後の目標やビジョンを教えてください。

志村 「Special Learning」の利用を広げていくことで集めたデータを活かし、障がい者施設の特徴や強み、外部機関からの評価レベルがわかるようなデータベースをつくりたい。例えば、そういったデータが特別支援学校に通われているお子さんのいる保護者さんへ提供できれば、障がい特性に合った施設選びに役立つはずです。このような取り組みを通じて「障がい者にやさしい街づくり」を進め、日本の障がい者支援の質を高めていきたいと考えています。

障がい者支援,Lean on Me
(※Lean on Meのビジョン(画像提供:株式会社Lean on Me))

<会社情報>
会社名:株式会社Lean on Me
創業:2014年4月1日
資本金:3,730万円(準備金含む)
事業内容:障がい福祉専用 eラーニング研修「Special Learning」
知的障がい者テニス教室「Special Tennis」
所在地:本社・大阪府高槻市萩之庄5-1-1-502
東京支店・東京都千代田区大手町2-6-2 日本ビル12階
URL:https://leanonme.co.jp/

無料会員登録はこちら