日中米
(画像=darwelshots/stock.adobe.com)

米国の離脱後、崩壊の危機に瀕していた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)だが、日本を議長国とする11ヵ国が「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(TPP11)」として、新たなスタートを切ることで合意に至った。TPP11に関心を示している中国、そしてTPPの主導していた米国が参加する可能性と共に、今後の日本のスタンスや企業への影響について探ってみよう。

TPP11とは?

前身となった環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、2016年2月にニュージーランドで署名された自由貿易協定(FTA)だ。日本では2017年1月に締結された。

TPP11(正式名称CPTPP)は、トランプ政権下にあった米国が2017年に離脱後、再開を目指す残りの11ヵ国(オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナム)間で協議が重ねられていた。アジア太平洋地域における、物品やサービスの貿易、投資の自由化を推進すると同時に、知的財産・電子商取引・国有企業・環境など広範囲な分野で、加盟国の経済成長戦略となる新たな規則を構築することが目標だ。

「議長国」としての手腕が問われる日本

TPP11で注目されているのは、これまで主導権を握って来た米国に代わり、日本が議長国としてイニシアティブを取ることだ。多大な影響力をもつ米国の存在なしに、自由貿易協定を進めることができる点は、日本や他の加盟国にとって新たな可能性を生み出すチャンスと言えるだろう。

米国と強い同盟関係を維持して来た日本にとっては、どこまで加盟国をまとめ、議長国として存在感を強めることができるか?その手腕が問われる正念場でもある。

日本企業への影響は?

日本企業にとっての最大のメリットは、段階的に関税が撤廃され手続き等も簡素化されるため、輸出入のコストや時間が大幅に削減できるほか、加盟国との取引や進出が容易になることだ。また、これまで経済協定を結んでいなかった、カナダやニュージーランドとの自由貿易が実現するため、より多面的なビジネスが展開できる利点も大きい。たとえば、カナダで仕入れた素材をベトナムの工場で加工し、ニュージーランドに輸出するといった、グローバルなサプライチェーンを構築しやすくなる。

その反面、加盟国から安価な商品が大量に国内に流入し、国際競争が激化した場合、特に農林水産などの国内市場の縮小が懸念される。多数の日本企業が、自社の商品・サービスの品質水準を維持しつつ、生産の効率化を図る手段を模索する必要性に迫られる可能性が高い。

「参加を積極的に検討する」中国 その狙いとは?

中国が加盟に関心を示している点も興味深い。習近平国家主席は、2020年11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、そして12月の中央経済工作会議の2回にわたり、TPP11への参加を積極的に検討する意向を明らかにした。

これに関しては、「地域的な包括的経済連携(RCEP)」への署名直後の発言であるだけに、TPPを離脱した米国へのけん制との見方が強い。RCEPはフィリピン、タイなどASEAN10ケ国と、日本や中国を含むFTAパートナー6ヵ国が交渉に参加する広域経済提携だ。TPPの交渉は2013年、当時のオバマ政権の主導で開始した。それを追うようにRCEPの交渉が開始したことを考慮すると、中国にとってRCEPへの参加=アジア太平洋における米国の影響力への対抗策という図式が見える。

そして今、米国なきTPP11へ参加を通し、「超大国」の地位の拡大を狙う意図があっても不思議ではないだろう。米国以外の国とより緊密な経済的および貿易関係を発展させることで、米国とその同盟国による「中国封じ込め政策」への反撃準備を整えているのではないだろうか。

一方、今回の動きを、米国の政権交代を転機とする和解策とする見方もある。中国の国営メディアCGTN は、習近平国家主席の発言を「次期バイデン政権が間近に迫った今、CPTPPへの参加に向けて戦略的なタイミングで行われた」と報じた。

このようにさまざまな推測が飛び交う中、中国の加盟が実現する可能性については、消極的な見解が多い。貿易摩擦が深刻化しているオーストラリアや領有権紛争を抱えるベトナムなど、一部の加盟国との不調和音が懸念される。また、中国がTPPに参加した場合、自国にとって都合のよい貿易ルールへと軌道修正を試みる可能性も指摘されている。

米国復帰の可能性は?

中国同様、米国の復帰に関しても、「現時点においては非現実的」との意見が多い。

ハーバード大学のグラハム・アリソン教授の試算によると、オバマ政権下でTPP交渉が実現していた場合、世界のGDPの40%を米国に引き寄せる絶好のチャンスとなるはずだった。当時、TPPの交渉を推進していたバイデン大統領にとって、アジア圏との自由貿易協定は今なお関心事の一つにちがいない。

しかし、政権交代をめぐり、米政界の現状は共和党と民主党の真っ二つに分断されており、何事も一筋縄ではいかない雰囲気に満ちている。それに加えて新型コロナ対策の立て直しやクリーン経済への移行など、就任後の優先課題は山積みだ。正直なところ、TPP11への加盟云々について検討するのは、遠い先の話となるだろう。

今後、TPP11が米国主導ではない独自のルールを築いていくと想定すると、仮に将来的に米国が復帰した場合、それにより協定そのものや加盟国間のバランスが崩れる可能性がある。また、米中対立が継続あるいは悪化した場合、中国との関係にも圧力がかかるだろう。

米中とは程よい距離を保ちながら推進

欧州連合(EU)から離脱した英国が加盟を検討しているとの報道もあることから、将来的にTPP11がアジアという枠組みを超え、グローバルな経済成長戦略へと拡大する可能性も考えられる。繰り返しになるが、「壮大な可能性をもつTPP11の議長国としての手腕を発揮し、自由貿易協定のメリットを享受する一方で、いかにして中米との程よい距離感を維持するか?」が、今後の日本の重要課題となるだろう。そしてその課題を日本がクリアできるどうかに、世界中が注目している。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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