欧米や中国、イスラエルなどで新型コロナのワクチン接種が始まる中、これまでの世界各国のコロナ対策が再び見直されている。感染拡大の封じ込めに成功した国、失敗した国の対策は、どこがどのように違うのか?共通する3つの要素について探ってみよう。
成功・失敗した国ランキング
以下のランキングは、国際引っ越し情報サイトMove Hubが、各国の累積死者数とウィルスの拡散防止対策を比較・分析したものだ。「コロナの死者」とカウントする基準が統一されておらず、国によってはデータに不透明性があるため、100%正確な数字とは言えないものの、大まかな目安にはなる。
成功した5カ国 *()は2020年12月1日の時点の感染者数・死者数
1位 台湾 (675人・7人 )
2位 ニュージーランド(2059人・25人)
3位 アイスランド(5392人・26人)
4位 シンガポール(5万8218人・29人)
5位 ベトナム(1347人・35人)
失敗した5カ国
1位 米国(1354万人・26万8045人)
2位 ブラジル(634万人・17万3120人)
3位 インド(946万人・13万7621人)
4位 メキシコ(111万人・10万5940人)
5位 英国(163万人・5万8545人)
各国の明暗を分けた3つの要素と成功国の共通点
国により、なぜここまで差があるのか?明暗を分けた主な要因は、複数考えられる。一つ目は、緊急事態宣言や行動規制措置のタイミング、国境封鎖や入国時のコロナ検査などの水際対策、感染経路の追跡システムといった、ウィルスを封じ込める戦略の有効性だ。二つ目は、国民やビジネスへの経済的救済措置など、広範囲に国を守る対策を講じられたか否かである。三つ目は、「感染拡大を封じ込めるために身勝手な行動を控え、積極的に協力する」という、国民の意識の高さだ。
台湾は、他国の政府がコロナの存在を脅威として受けとめる以前に、すでに武漢市からの渡航者に検査・隔離を実施していた。テクノロジーを駆使して早期に追跡システムを導入するなど、その迅速かつ効果的な対応は世界中から絶賛を受けた。
ニュージーランドは速やかに全国健康調整センター(NHCC)を設立し、1956年健康法に基づいて疑わしい症例の報告を医療従事者に義務付けたほか、国内の感染数が102件、死者0人の時点で国境を完全に封鎖した。
大規模なロックダウンを実施していないにも関わらず、感染をコントロール出来ているアイスランドは、保健当局が迅速に行動する傍ら、専門チームを結成して感染経路を徹底的に追跡した。給与の100%がカバーされる寛大な休業補償制度により、自己隔離の必要がある人々が安心して自宅に留まれる配慮がなされていること、人口がわずか36万人強と小規模な国であることも、成功の要因の一つとされている。
シンガポールは、中国での感染が報告されると、ほぼ同時に国境を封鎖した。2003年に新型肺炎SARSが発生した際、東南アジア諸国の中で最も打撃を受けた国であるだけに、その時の教訓を生かした対応と言える。
ベトナムは他国より数カ月前に水際対策を強化したほか、約2カ月におよぶ学校閉鎖など、国内の感染防止対策にも総力を挙げて取り組んでいる。
失敗した5カ国の共通点とは?
失敗した5カ国は、パンデミックを軽視する、あるいは経済活動を過度に優先する政府の対応が、そっくりそのまま国内の感染状況に反映していると言っても過言ではない。パンデミック下における、政府の統率力や国民からの信用度も欠ける。
ワーストNo.1に選ばれた米国の指揮をとっていたのは、前トランプ政権だ。国民を守る立場にあるはずの大統領が率先して、マスク着用や追跡システムの導入を含むWHO(世界保健機関)の推奨を拒絶した。「放っておけば、奇跡のように消滅する」など、無責任な言動を繰り返した結果、2021年1月15日現在、感染者約2386万人、死者約40万人(データサイトWorldometersより)と世界最多を更新し続けている。
米国に次いで感染者、死者が多いブラジルも、未だロックダウンを実施していない。それどころか、首都で開催された「反ロックダウン運動」には、ジェイル・ボルソナロ大統領が自ら参加するなど、他国との温度差が強く感じられる。
メキシコは3月末にロックダウンを実施したものの、規制は明確さに欠け、効果的とは言い難い。また、米国との国境付近の移民キャンプは、適切な衛生管理へのガイダンスもなく放置状態だという。
感染者と死者が欧州一、そして世界で5番目に多い英国は、当初は集団免疫の形成を目指していた。そのため、国内で感染が確認されてから5週間が経過した後も、政府が「通常通りの生活を維持することが重要」と主張するなど、対応が大幅に遅れた。ようやくロックダウンを発表したのは、国内での死者が285 人を突破した2020年4月。国内国外の旅行制限に関しては、6月まで実施されなかった。
インドはワースト5カ国中、唯一、速やかにロックダウンに踏み切ったが、経済的救済措置が大幅に遅れ、貧困層間で飢餓が広がる事態に陥った。
スウェーデン国王「コロナ対策は失敗だった」発言の真意
世界中から注目を浴びたのは、スウェーデンの異例の対応策だ。強制的な行動規制を設けず、自然に集団免疫が形成されることを狙った戦略だったが、10月以降は感染者が急増。これを受け、商業活動の禁止・営業時間の短縮措置など、方向転換を図っている。
12月にはカール16世グスタフ国王が、「(自国の)コロナ対策は失敗だった」と発言したが、これは大規模なロックダウンを実施していないことや、規制導入の延滞を悔やむと言うより、むしろ自国民の行動に向けられたものではないだろうか。同国があえて厳格な措置を控えていた理由は、国民が自主的に感染拡大防止に協力するなど、「望ましい行動」をとるという期待に根差すものだった。若干大げさな表現ではあるが、国民に選択肢を与えたにも関わらず、寛大な配慮が仇となったといったところだ。
世界各国でワクチン接種開始 過度の依存はリスクに?
現在、米国、英国、EU諸国、メキシコ、イスラエル、カナダ、ロシアなどで、すでにワクチン接種が開始されている。インドは1月16日、国内の製薬会社バーラト・バイオテックが開発した「コバクシン」と、英製薬大手アストラゼネカのワクチンを併用し、世界最大規模ともされるワクチン接種計画を開始予定だ。
しかし、「ワクチンがパンデミックを封じ込めるための、絶対的な解決策になる」と結論付けるのは時期尚早だろう。世界各国で複数のワクチンが開発されているが、承認を受けたものも含めて、臨床試験や実用化の歴史は極めて浅い。さらなるデータ収集の必要性については、WHOも主張している。また各国で変異種が広がってきている現状を考慮すると、ワクチンに過度に依存するのは危険だ。引き続き、政府と保健当局、そして国民が一丸となった警戒態勢を維持出来るか否かが、今後のコロナ対策の明暗を分けるのではないだろうか。
文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)