利益剰余金
(画像=takasu/stock.adobe.com)

不況を乗り越えるために重要なのが、企業の体質である。人間が体を鍛えてウイルスに強い体質を目指すように、企業も利益を蓄えて体質を強化する。その体質強化に直結するのが利益剰余金だ。今回は利益剰余金について、当期純利益との関係や税務の注意点などをわかりやすく解説する。

目次

  1. 利益剰余金とは
  2. 利益剰余金の要素3つ
    1. 要素1.利益準備金
    2. 要素2.任意積立金
    3. 要素2.繰越利益剰余金
  3. 利益剰余金と現預金残高の関係
  4. 利益剰余金と資本剰余金の違い
  5. 利益剰余金の処分
  6. 利益剰余金の資本組入れ
    1. 利益剰余金による資本組入れの意義
    2. 利益剰余金による資本組入れの注意点
  7. 利益剰余金と節税のバランスを考えて経営しよう

利益剰余金とは

通常、利益は売上高から経費などを差し引いた残り(儲け)を意味しており、営業利益や経常利益、当期純利益などがある。これらは損益計算書(P/L)の利益だ。

対して利益剰余金は貸借対照表(B/S)の科目であり、毎年稼いだ利益の合計額である。いわば利益は単年度のフローであるのに対して、利益剰余金は設立から現在に至るまでのストックだ。

利益剰余金

利益剰余金の要素3つ

通常の貸借対照表における利益剰余金は、利益準備金や任意積立金、繰越利益剰余金で構成されている。

利益剰余金

要素1.利益準備金

利益準備金とは、利益剰余金のうち会社法によって積み立てることが義務付けられている金額だ。

企業は利益を中心とする剰余金の一部を配当金として株主に還元する。しかし、株主を優遇して配当しすぎると、利益剰余金が少なくなって財務基盤が弱まってしまう。

そこで、会社法では財務基盤の強化を目的として、配当金額の1割を積み立てるよう強制している。

限度額は、資本準備金と合わせた法定準備金が資本金の4分の1に達するまでとされている。したがって、4分の1に達した後の積み立ては不要だ。

要素2.任意積立金

任意積立金は、定款や株主総会の決議などにもとづき、利益準備金以外の利益剰余金である「その他利益剰余金」のうち、会社が任意に積み立てる金額をさす。

種類は、特定の目的がある目的積立金と、特定の目的がない無目的積立金に分かれる。

目的積立金としては、新築積立金や設備拡張積立金、退職給付積立金、修繕積立金などが挙げられる。一方で無目的積立金には、利用目的を限定せずに利益を留保する別途積立金がある。

要素2.繰越利益剰余金

繰越利益剰余金とは、利益剰余金のうち利益準備金と任意積立金以外の金額である。会社における過年度の累積利益に当期の利益(損失)を加算した金額であらわす。

この繰越利益剰余金が株主への配当原資となる。株主は多くの配当を要求するが、過大な配当は繰越利益剰余金を減らし、将来の会社経営に悪影響を及ぼす点には注意したい。

利益剰余金と現預金残高の関係

利益が1年間の企業活動で稼いだお金だという見方をすると、利益剰余金は毎期に積み重ねられる利益であるから、現預金残高=利益剰余金と考えられる。

しかし、実際には現預金残高=利益剰余金となることはほとんどない。なぜなら、支出=費用ではない場合が存在するからである。

たとえば、期首の現金残高が10,000とした場合を考えてみよう。売上高50,000、費用30,000とすると、利益は20,000で期末の現金残高は30,000のはずだ。

しかし、期中に固定資産の支払いが10,000あり、その減価償却費が費用30,000のうち1,000だとすると話は別だ。

実際の現金収入は50,000、現金支出は10,000+29,000=39,000となり、現金残高は10,000+50,000-39,000=21,000となる。

したがって固定資産などの支出がある場合、利益と現金残高の間に乖離が生じる。通常の企業活動では、現預金残高=利益剰余金とはならない。

利益剰余金と資本剰余金の違い

剰余金の名称として資本剰余金もある。資本剰余金は、会社設立時に払い込まれた資金のうち、資本金に組み入れなかった金額だ。資本準備金とその他資本剰余金で構成される。

その他資本剰余金とは、資本取引から生じた剰余金であり、主に下記の金額などをさす。

・資本準備金の取り崩し額
・自己株式処分差額(自己株式を譲渡した際の差損益)
・組織再編における増加資本のうち資本金や資本準備金に組み入れなかった金額

通常は、設立時に払い込まれた資金は全額資本金と思われがちだが、実際には払い込み資本金は資本金+資本準備金であることが多い。

会社法では、出資する際に出資した資金の半分以下を資本金に組み入れずに済むと規定している。

B/Sの純資産
株主への配当は利益準備金を取り崩して行われるが、業績が悪化して十分な配当原資がないときもあるだろう。その点、その他資本剰余金は株主への配当原資になりうる。

同法第453条によると、株式会社はその株主に対して剰余金を配当できると定められている。

利益剰余金の処分

株式会社では、決算において当期純利益を確定し、前期末の繰越利益剰余金をプラスして利益剰余金を確定する。

一般的に利益剰余金は、決算日の翌日から3ヵ月以内に開催される株主総会で配分について決定される。

しかし、2006年5月施行の新会社法によって、従来の計算書類の一部であった「利益剰余金処分案」が廃止され、株主総会の決議事項として独立した。

そのため、剰余金の配当は定時株主総会だけではなく、臨時株主総会においても決議が可能となった。すなわち、配当原資があれば年に何回でも配当が可能である。

利益剰余金の処分は、株主配当金や利益準備金、任意積立金に配分され、株主資本変動計算書に掲示される。

利益剰余金

処分というと余り物をなくすようなマイナスイメージがあるが、利益剰余金の処分とは金額の分け方を決める意味を持つ。

利益剰余金の資本組入れ

利益剰余金の資本組入れの意義と税務上の注意点を解説していく。

利益剰余金による資本組入れの意義

会社が資本金を増やしたい場合、通常は新株発行による増資が一般的である。しかし、第三者割当増資のように外部からの新たな資金提供に頼らなくても、過去に積み上げた利益により増資を行う方法がある。

それは利益剰余金を資本に組み入れる手段であり、資本金を増やしたいとき株主に十分なキャッシュがない場合や、第三者割当増資の引受先が集まらないケースなどでも増資しやすい。

利益剰余金の資本組入れによって増資するには、利益剰余金を確定させる必要がある。決算(利益剰余金)が確定した段階で定時株主総会の普通決議を行う。

なお、あくまで確定した利益剰余金に従うので、定時株主総会以降に年度の途中で臨時株主総会を開いて決議することも可能だ。

利益剰余金による資本組入れの注意点

注意点1.国税(法人税)の取り扱い

利益剰余金の資本組入れによって増資を行うことにより、税務上不利になる場合がある。増資した結果、1億円を越えると税務上で下記の影響が生じる。

①法人税の軽減税率(18%)が適用されない
②交際費は全額損金不算入となる
③少額減価償却資産(30万円未満)の損金算入に関する規定が適用されない
④留保金課税(同族会社に対して行われる特別の課税)が適用される場合がある
⑤欠損金の繰戻還付制度の適用が受けられない

したがって、利益準備金の資本組入れで1億円を超える場合は、慎重に行う必要があるだろう。

ちなみに、資本金が1,000万円以上になっても1億円以下であれば、消費税の免税事業者でなくなるといった多少の問題が生じるだけで済む。

注意点2.地方税の取り扱い

地方税においても中小法人の恩恵が受けられなくなる。

①資本金が1,000万円超になると均等割額が増加する
②資本金が1,000万円以上の法人で、3以上の都道府県に事務所等ある場合は、事業税の軽減税率が適用されない
③資本金が1億円超になると事業税において外形標準課税が適用される

利益剰余金の資本組入れは株主総会の決議によって、特に同族会社では比較的容易に増資しやすいが、ケースによっては税金の無駄が生じるので注意してほしい。

利益剰余金と節税のバランスを考えて経営しよう

利益剰余金についてさまざまな側面から解説してみた。利益剰余金は会社の貯蓄に関する金額であり、多いほど信用度が増す。

賢い納税のためには節税も重要であるが、節税に走りすぎてもいけない。利益剰余金と節税のバランスを取りながら会社経営をしていきたい。

文・志磨宏彦(税理士・中小企業診断士)

無料会員登録はこちら