WORDS by EXECUTIVE
(画像=Koukichi Takahashi/stock.adobe.co)

「他社がなかなかまねできない料金体系に」——。

楽天の三木谷浩史会長兼社長は2019年9月6日に開いた報道機関向けの記者会見で、携帯電話事業者(キャリア)として始めるサービスについて、こう力強く語った。

楽天が配備する通信ネットワークは「仮想化」という新技術を世界で初めて導入しており、三木谷社長はこの技術を活用したネットワークのコストについて、会見で「異常に安い」と言及している。大手キャリアも楽天の携帯電話事業の展開に戦々恐々としており、通信料金の値下げ競争は今年いよいよ本格化している。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回は三木谷浩史社長の発言を取りあげ、楽天が展開する携帯電話事業の概要と強みである仮想化ネットワーク技術、そして記者会見で発表した自社開発の独自端末「Rakuten mini(ラクテンミニ)」についても触れる。

仮想化という「携帯電話業界のアポロプロジェクト」

楽天は2018年4月に周波数の割り当てと許認可を総務省から得て、携帯電話事業への参入の準備を進めてきた。そして「やるならには新しいことをやろう」(三木谷社長・今回の記者会見)と考え、日本そして世界で初となる仮想化ネットワークを敷く挑戦に挑むことを決めたという。

三木谷社長が「携帯電話業界のアポロプロジェクトと言っていいと思う」とも語る仮想化ネットワーク技術について、記者会見では「専用機器の呪縛からの解放」が特徴だと説明された。ハードウェアをソフトウェア化することで、より安く、より大容量で、より高速な通信が実現できるという。

また世界に先駆けて「モバイルエッジコンピューティング」を仮想化ネットワークで実用化することも特徴だ。従来の通信における「接続」という機能だけではなく、ネットワーク自身にAI(人工知能)などのコンピューティング機能を持たせることができるとしている。

本格展開へのロードマップは? Rakuten miniにも注目

楽天は当初は2019年10月のサービスの本格開始を計画していたが、この時期を2020年春までに後ろ倒しすることが記者会見で明らかになっていた。基地局の整備の遅れなども指摘されているが、サービスを安定して提供するためには、まず限定した範囲で試験的に運用するのが必要という判断だった。

具体的には「無料サポーター」として利用者を5,000人に絞り、0円でサービスを提供。1週間、東京や大阪などでサポーター希望者を募集したあと実際に利用してもらい、安定稼働が確認されたあとに正式にネットやリアル店舗で利用者の受付を開始した。

記者会見では楽天が独自の携帯端末としてクレジットカードサイズの「Rakuten mini」の開発を進めていることも発表。日本で初の「eSIM」機能を搭載しており、従来の携帯電話のようにSIMカードを抜き差しする必要がなくなるという。

Rakuten miniは仮想化ネットワークにも最適化させており、本格的なサービス開始とともにこの独自端末の販売も伸びていきそうだ。今後はRakuten miniをシリーズ化させ、さまざまなラインナップを開発していく予定だという。

「仮想化」技術を世界の標準へ

楽天の三木谷社長は日本で展開する「仮想化ネットワーク」が、海外で今後導入されていく可能性についても触れた。今回楽天がその初期モデルを確立することで、海外事業者から楽天はさらに注目されていくはずだ。そういう意味でも三木谷社長の記者会見は、一般ユーザーにとってだけではなく、B2B(企業間取引)的な観点からも注目されたことは言うまでもない。

楽天の参入で日本の寡占状態に変化が訪れ、サービス料金が業界全体で安くなっていくことについては、一般ユーザーだけではなく日本政府も期待感を寄せているとされる。三木谷社長が取り組む「アポロプロジェクト」が今後いよいよ大詰めを迎え、同社に対する関心は高まる一方だ。

経営トップ、発言の真意
(画像=THE OWNER編集部)クリックすると連載TOPページへ飛びます