「私の想像以上だった」——。米航空機大手ボーイングのデービッド・カルホーン新CEO(最高経営責任者)は、米紙のインタビューで今の心境をこう吐露している。墜落事故を2度起こした「737MAX型機」の運航再開にめどが立たないままCEOというバトンを受け取ったが、問題の根深さに苦戦を強いられている。
さらにその後、新型コロナウイルスの感染拡大問題でボーイングはいっそう窮地に陥っている。渡航需要の減少による航空各社の業績悪化は、ボーイングの事業をさらに圧迫することにつながる。2020年3月11日には新規雇用を凍結する方針も発表し、「倒産危機」とささやかれ始めている現状からいち早く脱却することを目指す。
連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、ボーイングのデービッド・カルホーン新CEOの発言を取り上げ、ボーイングの現状を探っていく。
ボーイングにいま何が起きているのか
ボーイングは航空機メーカーとしては世界大手という位置付けだ。ライバルは欧州のエアバスで、長らく2社で業界をリードしてきた。
ただ、ボーイングが製造する最新鋭の航空機「737MAX型機」が2018年10月と2019年3月に相次いで墜落事故を起こしたことで、機体の安全性への懸念から737MAXは納入停止に追い込まれる結果となった。欧米の航空当局なども運航停止を命じている。
ちなみに前者のライオン・エア610便墜落事故では乗員乗客189人が、後者のエチオピア航空302便墜落事故では乗客乗員157人がそれぞれ死亡している。事故原因は今のところ、自動失速防止装置のソフトウェアが不具合を起こしたことと考えられている。
737MAX型機の納入停止や運航停止はボーイングの業績を著しく悪化させ、2019年の通期決算では、最終損益が赤字に転落したことが明らかになった。通期赤字は1997年以来22年ぶりのことで、赤字額は実に6億3,600万ドル(約680億円)に上っている。
デービッド・カルホーン氏の憂鬱
こうした中で、会長職から新CEOに就いたデービッド・カルホーン氏は、経営の安定化をいち早く目指し、収益を改善させることに取り組んでいる。
737MAX型機の運航再開の具体的な目標時期について、カルホーンCEOは「2020年半ば」としている。再開に向けて楽観的なコメントが目立った前任のデニス・ミューレンバーグ元CEOよりも現実的なロードマップを掲げた格好で、投資家からもカルホーン氏の手腕を期待する声が大きい。
ただカルホーンCEOは米ニューヨーク・タイムスのインタビューに対し、「正直に言って、想像していた以上だった」と自社の状況を分析するコメントを寄せている。弱音と聞こえなくもない発言だ。
業績が悪化していることはもちろん承知していたが、前任のミューレンバーグ氏が事故後の規制当局や航空各社への対応の遅れから関係を著しく悪化させ、そのことが想像以上にカルホーンCEOの足かせになっているらしい。
737MAX型機の運航再開に向けては両者との信頼回復が急務であると言えるが、果たして計画通りに事は進みのだろうか。
米最大級の輸出企業の復活はなるか
ボーイングはアメリカでも最大級の輸出企業であり、トランプ大統領もボーイングの業績回復に向けてカルホーンCEOの手腕に期待するコメントをしている。
ただ追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスの感染拡大がボーイングを苦しめている。2020年第3四半期の業績は売上高が141億ドル(1.45兆円)、フリーキャッシュ流出は50億8,000万ドル(5,251億円)で総債務も610億ドル(6.3兆円)と、前年の192億ドル(1.98兆円)から急増した。顧客企業の航空各社の業績が悪化すれば、自ずとボーイングの業績にも影響する。ボーイングは新規採用の凍結などでコスト抑制に取り組み、なんとかこの苦境を乗り越えようとしている。(※円換算は2020年12月22日時点)
ボーイングの業績回復の道筋はまだ見えない。ただ737MAX型機の運航再開のめどが立てば、一筋の光は見えてくる。新型機の運航停止とパンデミックというダブルパンチによるボーイング未曾有の危機。この苦境に耐え抜けるかは、カルホーンCEO氏にかかっている。