ジェフ・ベゾス(Amazon.com, Inc.)
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「月に戻るときがきた」――。

アポロ11号が月に着陸してから2019年7月20日で50年。同年に創立25周年を迎えた米Amazon.comの創業者ジェフ・ベゾス氏は最近、有人月面着陸機を初披露した。彼はなぜ月を目指しているのか。その理由の一つとしてベゾス氏は「基盤作り」の重要性を挙げる。

将来的に月ビジネスを発展させるためには、月と地球を往来する手段の確立が不可欠となる。ベゾス氏はAmazonがその土台を作り、将来の宇宙スタートアップの成長の下支えとなることに意欲を示している。

連載「経営トップ、発言の真意——WORDS by EXECUTIVE」、今回はベゾス氏の言葉からこうしたモチベーションの源泉と、Amazonの月面着陸計画に迫る。

ベゾス氏が「基盤作り」にこだわる理由

「アマゾンが1994年に少ない資本金でイージーに創業できたのは、既に輸送システムが存在していたからだ」。2019年6月、Amazonが初めて主催したAI(人工知能)カンファレンス「re:MARS」で、ベゾス氏はこう言い切った。

EC(電子商取引)サイト運営で成功し、2018年12月には株式時価総額が約8666億ドル(約95兆円)となり、初の世界首位となった。そんなAmazonの成功は、既に確立されていたインフラシステムに支えられてきたという一面性が確かにある。

だからこそベゾス氏は、月と地球を結ぶ交通インフラ作りにこだわりをみせているわけだ。誰でも安価で、月や宇宙に行けるようになれば、宇宙ビジネスのアイデアを持った起業家たちがその第一歩を歩み始めやすくなる。

2024年を月面着陸成功のデッドラインに

そんな思いを持つベゾス氏の月戦略をひもといていこう。

ベゾス氏が宇宙事業に本格的に携わり始めたのは2000年。同年に宇宙ベンチャー企業としてブルーオリジン社を設立し、宇宙ロケットの開発に取り組んできた。それから20年近くがたった2019年5月、ベゾス氏は有人月面着陸機「ブルームーン」の模型を発表した。

アメリカ政府はいま、2024年までに宇宙飛行士を月面に再着陸させるという目標を打ち立てている。民間の宇宙ロケットを活用することも視野に入れており、この計画を支持するベゾス氏は、2024年を月面着陸成功のデッドラインとして自ら定めている。

ベゾス氏はさらに、新たな天然資源を宇宙に求めるという考えを示している。月には鉱物や氷がある。「我々は地球を救うために宇宙へ行く必要がある」とベゾス氏は語っている。

1兆ドル超の市場、スペースXとの覇権争い

また、当然のことではあるのだが、宇宙ビジネスによる収益も見据える。投資銀行世界大手の米モルガン・スタンレーは、2040年代には宇宙ビジネスの市場が1.1兆ドル(約120兆円)規模に膨らむと予想している。

ただAmazonのように、既に宇宙ビジネスを手掛けている企業は少なくない。例えばイーロン・マスク氏が自らの財産を投じて率いるスペースX社は競合の代表格だ。スペースX社は2023年の月への有人飛行を目指している。

ベゾス氏の宇宙ビジネスの基盤作りという野望は宇宙を巡る覇権争いに勝ててこそ果たせるものだ。アメリカ政府も本格的な再着陸に本腰を入れ始めたいま、今後はスペースXなどとの開発レースの行方に一層関心が集まっていくだろう。

長丁場となる宇宙事業と55歳のベゾス氏

ブロックチェーン、AI、自動運転、宇宙開発……。Amazonも一角を成す「GAFA」の戦いの舞台は、次世代の技術やサービスに移りつつある。現在55歳のベゾス氏。少し先のことを考えれば、次期CEO(最高経営責任者)に対してどのようなバトンを渡せるかは、長丁場となる宇宙事業の黎明期にかかっている。

ベゾス氏が目指す宇宙交通の基盤作りは、将来のAmazonを支えるビジネスの基盤作りでもある。ベゾス氏の経営手腕に今後も注目だ。

経営トップ、発言の真意
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