「広報部」や「広報担当」という言葉はよく聞くが、広報の役割やメリットについてはあまり知られていないのではないだろうか。会社によっては広報と広告の担当者が同じところもあり、ますます違いがわかりにくくなっている。今回は広報の概要や役割、広告との違い、広報の正しい実施方法、有名企業の広報事例などについて解説する。
目次
企業活動における広報とは
広報とは、企業や行政、各種団体がその活動内容や商品の情報を公衆に対して発信し、良好な関係を構築するための活動のことだ。広報において重要なのは、「情報を正しく発信すること」と「公衆と良好な関係を保つ」ことだ。
余談だが、戦前の広報は「弘報」(情報を一方的に配信するのみ)だった。戦後GHQによってPR(Public Relationship)の概念が導入されて双方向的な「広報」となった。当初は中央官庁や自治体からの情報発信に使われていたが、やがて企業にも普及していった。「公衆と良好な関係を保つ」という考え方は、アメリカからもたらされたのだ。
広報の種類
戦後広まった広報だが、近年では新しいコミュニケーションチャネルが増えたこともあり、いくつかの種類に分かれる。まずは「社内広報」と「社外広報」だ。社内広報については後述するが、社外広報は近年、新聞やテレビなどのマスメディアだけでなく、SNSやブログを使ったものも多い。広報というと堅苦しく聞こえるが、公衆に正確な情報を伝えられ、かつ双方向であれば手段は問わない。
広報の役割とメリット
ここでは、広報の役割とメリットを確認しておこう。
広報の役割
広報は、双方向で公衆と情報をやり取りする。公衆との間にマスメディアが入ることも多いが、広報は自社と社会のブリッジの役割を担っているのだ。
自社の構成員(経営陣、従業員など)は業界およびその職種のプロフェッショナルではあるが、社会全体の状況を正確に把握しているわけではない。広報担当者は自社の情報を発信していくとともに、公衆(またはマスメディア)の反応から社会全体の状況を収集する機能もある。
広報の重要な役割には、ブランディングの管理もある。企業イメージの管理と言い換えてもよいだろう。企業や商品の商標、ロゴデザインの管理、宣材写真、時にはマスメディアが報じる記事のチェックまで広報担当者が行う。企業にとって重要な、統一感のあるイメージ管理を広報が一手に担っているのだ。
社外だけでなく、社内の情報展開を広報の仕事だ。社外に発信されている情報と、社内で漏れ伝わってくる情報が食い違っていたとしたら、従業員はどのような気持ちになるだろうか?会社に対する不信感は間違った情報の蔓延を招き、それによって業務に支障をきたすこともある。広報担当者は、社内に対しても統一感のある正しい情報を発信しなければならない。
広報のメリット
広報は、「ローリスク・ローコスト」な情報発信方法といわれている。企業や商品の情報をCMや広告などで発信するには、相応のコストがかかる。テレビや全国紙などでは数千万円規模の予算が必要になるが、SNSやブログを使った情報発信ならコストはほとんどかからない。
もちろんその波及効果を考えなくてはならないが、世代によっては既存のマスメディアではほとんどリーチできかもしれない。TwitterやYouTubeなどのほうが、ずっと多くの情報が届けられる。最初はローコストな方法で情報を発信し、商品やサービスの人気を確認できたら予算をかけて広告を行えばよい。このように、広報はリスク回避の手段としても使えるのだ。
近年は情報が氾濫しており、広告が顧客に届きにくくなっている。ひっきりなしに届くメールマガジンや街中にあふれる広告、動画の途中で流れる広告などは、場合によっては視聴者に嫌悪感を抱かせてしまう。「広告はBuy me、広報はLove me」という言葉がある。プッシュとプル、現代においては広報(プル)のほうが情報を伝えやすいのかもしれない。
広告と広報の違い
ここからは、混同されやすい広告と広報の違いを整理していこう。広告とは、基本的には広告料を支払い、テレビやラジオの時間や、新聞などのスペースを購入し、自社もしくは商品・サービスの情報を公衆に発信する方法のことだ。
一方広報は、商品やサービスの情報、経営に関わる情報や社会貢献活動などの情報をマスメディアに提供し、マスメディアの判断で記事として取り上げてもらう方法である。
広告料の有無が大きな違い
最大の違いは「広告料を支払うか否か」で、広告は契約して広告料を支払えば、間違いなく指定した時間と場所に指定した情報が掲載され、そこにはマスメディアの判断は入らない。一方で広報では金銭のやり取りは発生せず、基本的に契約もない。マスメディアが広報を取り上げるか否かは、ニュースバリューの有無で決まるといえる。
これは、情報を受け取る側が抱く信頼度に影響する。明らかな広告より、マスメディアのフィルターを通った広報のほうが、信頼を得やすい。ただし、これは広告も広報もマスメディアを通じて行われた場合の話だ。
企業が自らSNSやブログを使って情報を発信した場合は、すべてが企業の自己責任となる。ちょっとした誤解が「炎上」につながるリスクを考慮して、広報を行わなければならない。
広報担当者に求められるスキル5つ
広報担当者には、「炎上」を回避するような特別なスキルが要求される。具体的に見ていこう。
・文章力
広報担当者には、マスメディアに発信するプレスリリースや、代表者がインタビューを受ける場合に準備する原稿、SNSやブログへの投稿文など、バランスの取れた文章を書くスキルが求められる。「バランスの取れた文章」というと抽象的でわかりにくいかもしれないが、情報を正確に伝えながら、誰からも反感を招かない、インテリジェンスを感じさせる文章という意味だ。簡単なようで、これが最も難しい。
・プレゼンテーション能力
プレスリリースはマスメディアに配布するだけでなく、記者発表などで使われることもある。広報担当者は会社の代表として、正確かつ相手に伝わるようにプレゼンテーションをする必要がある。
・コミュニケーション能力
上記のような席では、質疑応答が行われることもある。何を聞かれていて、何を答えるべきか、自社の利益を考えながら回答する能力が必要だ。広報は双方向のコミュニケーションなので、ステークホルダーやメディアとのコミュニケーション能力も欠かせない。
・情報収集能力
広報担当者は自社と社会のブリッジとなり、外の情報を中へ、中の情報を外へ伝える役割を担っている。したがって社内だけでなく社会の動きにも目を向け、様々な情報を収集するアンテナの高さと情報の取捨選択能力も求められる。
・企画力
誰かの指示によって動くのではなく、どのような手段、どのような伝え方が効果的かを常に考え、発信方法を提案する能力も求められる。自社を取り巻く環境だけでなく、顧客の好みも常に変化している。広報担当者に限らないが、指示待ち体質は業務の陳腐化を招き、効率を低下させる。
社内広報とは
広報担当者は社外に対してだけでなく、社内に対しても情報発信を行う。内容は社外に発信した情報の共有もあるが、「経営ビジョンの浸透」「人事など社内情報の展開」「目標の共有」「社内コミュニケーションの促進」などを目的としたものだ。社内広報を通じて情報共有を行うことで社内の一体感が醸成され、効率的な企業活動が可能になる。
社内広報は社内報やメールマガジン、イントラネット上に設置された社内ポータルサイトなどを通じて行われるが、ここでも広報担当者に要求されるスキルは先ほど説明したものと同じだ。
広報の失敗事例
結論からいうと、企業のイメージを下げてしまうのが失敗、広報の目的に沿って正しく情報を伝えるのが成功だ。広報の成功はあまり報じられることがないが、失敗事例は話題になることが多い。ここでは、広報の失敗事例から広報を成功させる方法を学びたい。
例に挙げるのは、アンケート調査で回答された「イメージが悪化した出来事」の原因となった行動だ。
1位 当事者によるうそ・隠蔽の姿勢
2位 当事者の倫理観・コンプライアンス意識の欠如
3位 当事者が実際にとった態度や振る舞い、発言内容
4位 当事者を取り巻く風習・慣習、世間の常識とのずれ
5位 当事者の周辺にいる関係者の対応
6位 発覚したタイミングの遅さ
7位 騒ぎ立てすぎたマスメディア
これらは、事件を起こした当事者(企業と個人を含む)が記者発表を行った際にイメージが悪化した出来事だが、すべて広報の失敗といえる。
広報が必ず意識すべきこと
絶対にやってはならないのは、「うそ」「事実の隠蔽」「倫理観のない発言」「誠実でない態度」「発表の遅れ」などではないだろうか。広報担当者は会社の意向に沿って広報活動を行うため、会社の姿勢がそのまま広報担当者の姿勢と捉えられてしまうこともあるのだ。企業と広報担当者に不可欠なものは、「社会に対する誠実さ」といえるだろう。
広報はローリスク・ローコストの宣伝方法
バックオフィス業務であり、利益を直接生むわけではないので軽視されがちな広報。広報はローリスク・ローコストの宣伝方法といわれているが、広報次第で企業のイメージは大きく変わる。一度毀損した企業イメージを取り戻すには、長い年月と莫大なコストがかかる。広報のスキルは一朝一夕に身につくものではないため、広報担当者の選抜と育成は常に経営上の優先事項と心得よう。
文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)