ブランディング
(画像=Rawpixel.com/stock.adobe.com)

「ブランド」という言葉がある。「ファッションブランド」や「プライベートブランド」、「ブランドもののバッグ」などに使われるが、原義は「焼き印」や「烙印」だ。マーケティングにおいてブランドを確立するということは、ブランド戦略と呼ばれるほど重要である。今回は、企業が持つブランドの価値を正しく顧客に伝えるための活動である「ブランディング」について、概要やメリット、事例を中心に解説する。

目次

  1. ブランディングとは?
  2. ブランドの構成要素7つ
    1. コカ・コーラのブランド構成要素を分析
  3. ブランディングとマーケティングの違い
    1. 顧客に価値を届ける活動はすべてマーケティング
    2. ブランディングはマーケティングの一部
  4. ブランディングのメリット4つ
  5. ブランディングの成功事例3社
  6. ブランディングは顧客ロイヤルティにつながる

ブランディングとは?

ブランディングについて説明する前に、まずはマーケティングやビジネスにおけるブランドの定義を確認しておこう。現在は広く浸透している「ブランド」は、もともとマーケティングの世界で使われていた言葉だ。

アメリカ・マーケティング協会(AMA: American Marketing Association)は、「ブランド」という言葉を以下のように定義している。

「ある売り手の商品もしくはサービスを、他の売り手のそれとは異なるものとして識別するための名前、用語、デザイン、シンボルおよびその他の特徴」

つまりブランディングとは、顧客に自社の商品やサービスを、他社の似た商品と識別してもらうための活動といえるだろう。ブランドにはAMAの定義に加えて、いくつかの構成要素がある。

ブランドの構成要素7つ

ブランドの構成要素(ブランド・エレメント)には、決まった定義があるわけではない。

コカ・コーラのブランド構成要素を分析

商品やサービスによっても変わるが、例としてコカ・コーラのブランド・エレメントを見てみよう。

・名称

ブランド名は「コカ・コーラ」(Coca-Cola)だが、「コーラ」はアフリカ原産の常緑樹「Kola」の種子を主原料とした炭酸清涼飲料の総称で、一般名詞だ。他にも「ペプシ・コーラ」「キリンメッツ・コーラ」などさまざまなコーラがあるが、コカ・コーラ社はコカ・コーラの愛称である「コーク(Coke)」を商標登録している。つまり、コークという言葉を清涼飲料水として使えるのはコカ・コーラ社だけだ。

・商標(ロゴマーク)

基本的には、赤地に白の筆記体で「Coca-Cola」と書かれている。商品はもちろん、自動販売機などにもこれを用いて、ブランドイメージの統一を図っている。

・標語(キャッチコピー)

コカ・コーラはこれまでにいくつものキャッチコピーを使っているが、「スカッとさわやかコカ・コーラ」「Yes Coke Yes」「さわやかになる、ひととき」「さわやかテイスティ」などは記憶に残っているのではないだろうか。

・デザイン(色や特徴的な形)

デザインは、基本的には赤と白で構成されている。これに対してペプシ・コーラは、濃紺(もしくは青)、赤、白を用いている。

・シンボル(キャラクターやマーク)

筆記体のロゴがあまりに有名なので目立たないが、コカ・コーラではよくポーラーベア(ホッキョクグマ)がキャラクターとして登場する。ペプシ・コーラでは、日本オリジナルのキャラクターとして全身が銀色の「ペプシマン」が登場したこともあった。

コカ・コーラではあまり見られないが、企業やサービスのイメージキャラクターとして、タレントを起用するケースも多い。そのタレントの持つイメージが、顧客に訴求したい企業やサービスのイメージに合うならば、タレントとしての知名度が訴求力に直結するからだ。

・音(ジングルやイメージ曲なども含む)

TVCMでは、炭酸が弾ける音がよく使われていた。特にこの手法は飲料で多く用いられ、ビールのTVCMでグラスに注がれるビールの音を聞いたことがある人は多いだろう。他に、ジングルと呼ばれる短い楽曲フレーズもよく使われる。ファミリーマートの入店時のジングルや、マクドナルドの「I'm lovin' it.」などがよく知られている。

・イメージ

ブランドの構成要素にはイメージも入るが、ブランドイメージは上記の構成要素を確立してはじめて得られるものだ。ブランドイメージの醸成には何より統一感が大切で、コカ・コーラのブランディングはその成功事例の筆頭といえるだろう。

ブランディングとマーケティングの違い

冒頭でブランディングを「顧客に他社と自社の商品やサービスを識別してもらうための活動」と定義したが、ブランド要素の確立はマーケティング活動に見える。両者はどう違うのだろうか?

顧客に価値を届ける活動はすべてマーケティング

マーケティングは市場調査や広告のことだと思っている人がいるが、マーケティングは「顧客に価値を届ける活動のすべて」を指す言葉である。市場の環境分析から自社を取り巻く脅威の分析、ターゲットの選定から価値のポジショニング、販売、対価の回収、会社(事業)の組織構成まで、すべてがマーケティング活動なのだ。

ブランディングはマーケティングの一部

ブランディングに関する有名な著書「戦略的ブランド・マネジメント」を書いたケビン・レーン・ケラーは、「ブランディングは精神的な構造を創り出すこと、消費者が意思決定を単純化できるように、製品・サービスについての知識を整理すること」と定義している。

ブランディングに関してはさまざまな解釈が存在するが、ブランディングが顧客に対する商品やサービスに関わるアプローチである限り、マーケティングの一部といえるだろう。

ブランディングのメリット4つ

ここからは、ブランディングを行うことによって得られるメリットを見ていこう。

・顧客のロイヤル化(ブランド・ロイヤルティ)

ブランド・ロイヤルティとは、顧客が継続してある特定のブランドを購買し続ける程度のことだ。顧客に、「あの商品(企業)なら間違いない」と認識させる、もしくは他のものがあっても「この商品がほしい」と選好させるのが顧客のロイヤル化(顧客ロイヤルティ)である。

ロイヤルティの原義は「忠誠心」だが、顧客ロイヤルティ(Customer Loyalty)は顧客が特定のブランドや商品、サービスに対して感じる「信頼」や「愛着」を指す。

・競合との差違化(価格競争の回避)

ブランディングによって顧客のロイヤル化ができれば、競合との差違化が実現する。競合する商品やサービスとの差違化ができなければ、通常は価格競争となってしまうが、ブランド・ロイヤルティによってそれを回避できる。

・利益の確保

価格競争は、本来得られるべき利益の喪失につながる。ブランディングに成功すれば、市場を確保(維持)するために赤字で販売を行う必要はなくなる。一定のブランド・ロイヤルティを獲得すれば、プロモーションコスト(広告宣伝やキャンペーン、リベートなど)の低減による利益の拡大も期待できる。

・人材の確保

商品やサービスだけではなく企業としてのブランドも確立できれば、人材の確保にも寄与する。優秀な人材の採用だけでなく、離職率の低減などにもつながるからだ。

ブランディングの成功事例3社

ここからは、ブランディングの成功事例を紹介する。

・東京ディズニーリゾート

オリエンタルランドが運営する東京ディズニーリゾートについては、詳しく説明する必要はないだろう。東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを中心とする商業施設の総称が東京ディズニーリゾートだが、このすべてが強力なブランディングによって顧客ロイヤルティを獲得している。

東京ディズニーリゾートは、「夢と魔法の国」という世界観を米国のディズニー本社から借り受けて、1983年に営業を開始した。日本には他にもテーマパークがあるが、東京ディズニーリゾートの人気が群を抜いていることは周知の事実だ。絶叫コースターなど刺激的なアトラクションはないが、その世界観が唯一無二のブランディングに寄与している。

・レッドブル

エナジードリンクの概念を一気に変えたのがレッドブルだ。広告には成分(ビタミンやタウリンの配合など)を表記せず、「レッドブル、翼を授ける(Red Bull Gives You Wings)」というキャッチコピーで、エナジードリンク=中年の飲み物というイメージを一新した。

F1やエアレース、サッカーなどにスポンサーとして積極的に参加することで、若年層から絶大な支持を受けている。レッドブルの価格設定は通常のエナジードリンクの倍近いが、それでも指名買いされるブランド・ロイヤルティを確立しているのだ。

・スターバックス

日本には昔から純喫茶があったが、喫茶店の概念を一変させたのがスターバックスだ。スターバックスは1971年に米国で創業し、日本には1992年に上陸した(一旦撤退し、1995年にスターバックス コーヒー ジャパンを設立)。以来、日本国内で積極的に出店し、2020年9月末時点で全国に1,600店舗を展開している。

スターバックスのサービスの詳細については割愛するが、特筆すべきは2011年にロゴマークから「Coffee」の文字を取り去ったことだ。スターバックス コーヒー ジャパンは、企業のミッションとして「人々の心を豊かで活力あるものにするために — ひとりのお客様、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティから」を掲げている。

スターバックスにとっての主役はコーヒーではなく「人とコミュニティ」であることを明確にし、そのサービスの方向性を改めて定義したのだ。ブランディングは1回行えばよいというものではなく、同じ商品・サービスであっても、環境や顧客の好みの変化によって変えていかねばならないものといえる。

ブランディングは顧客ロイヤルティにつながる

売上や利益に寄与するブランドを確立することは、容易ではない。ブランディングは念入りに計画し、ブランドの構成要素をひとつずつ地道に、確実に実行していく必要がある。そうして獲得したブランド・ロイヤルティは顧客ロイヤルティにつながり、商品やサービスへの揺るぎない信頼となる。ブランディングはコストと時間のかかる作業だが、一度獲得した顧客ロイヤルティは何物にも代えがたい武器となるはずだ。

文・長田小猛(ダリコーポレーション ライター)

無料会員登録はこちら