米経済
(画像=Michele Ursi/stock.adobe.com)

大混乱の米大統領選挙でバイデン氏の勝利がほぼ確実となった2020年12月7日現在、バイデン氏が掲げる「2兆ドル(約207兆9,455億円)規模のクリーンエネルギー投資計画」が現実味を帯び始めている。

再エネ中心の産業への移行と脱炭素経済を目指すバイデン政策は、気候変動への取り組みを縮小し、化石エネルギー産業を支援することで 、雇用と経済を後押ししようとしたトランプ政策とは真っ向から対立する。バイデン環境政策は米経済や産業、そして「脱炭素社会」へ向けた国際競争に、どのような影響をもたらすのだろうか。

「2兆ドルクリーンエネルギー投資計画」

バイデン氏のクリーンエネルギー投資計画は、今後15年にわたりクリーンエネルギーとインフラへ2兆ドルを投じて、クリーンエネルギー経済を促進するというものだ。具体的には、風力タービンや持続可能な建物、電気自動車(EV)などの建設や製造を通して新たな雇用を創出すると同時に、省エネインフラの構築によるエネルギーコストの削減や気候保護に取り組む。

気候変動に対する各国の取り組みと行動を追跡する「Climate Action Tracker(CAT)」の最新の分析によると、バイデン氏の環境政策が実施された場合、今後30年間で米国の温室効果ガス(GHG)排出量を約75ギガトン削減できる可能性があるという。

バイデン環境政策、3つの重要ポイント

オバマ政策と比較されることの多いバイデン政策だが、特に環境政策においては、「オバマ環境政策を超越する」というバイデン氏の言葉通り、米国史上類を見ない野心的な目標を掲げている。以下、3つの重要ポイントを見てみよう。

1. 2050年までにゼロエミッション達成

今後4年間にわたり、老朽化した400万棟の建物や道路、橋、水道システム、電力網などのインフラを再建する。200万軒の住宅を耐気候化し、150万軒の持続可能な住宅と住宅ユニットを建設する。50万ヵ所のEV充電ステーションの整備や既存のクリーン車購入減税策延長のほか、人口10万人以上の都市にライトレールやEV路線バスといったクリーン公共交通機関を整備し、歩行者や自転車用のインフラにも注力する。

電力産業に関しては、2035年までに100%カーボンフリー電力への移行を目指し、化石燃料の政府助成金は廃止する意向だ。また、農産業では温暖化防止に貢献する「Climate Smart Agriculture(CSA)」のアプローチを促進し、有毒物漏出などの環境汚染を防ぐ目的で、廃坑となった石油や天然ガス、石炭、石材、ウラン鉱山の埋め立てにも着手する。

2. パリ協定復帰・オバマ環境規制再策定

バイデン氏は独自の環境政策を打ち出す一方で、トランプ政権下で米国が離脱したパリ協定への復帰や、廃止が提案されているオバマ環境規制「Clean Power Plan(CPP)」を再策定する意向も明らかにしている。パリ協定とは気候変動を巡る国際的規定で、日本を含む国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国が参加している。オバマ前大統領が2015年に発表したCPPは、発電事業所のCO2排出量を2030年までに2005年の水準より32%削減するための規制だ。しかし、化石燃料産業から反感を買い、27州および業界団体がCPPの中止を要求した結果、米国最高裁判所によって阻止された。

トランプ政権は2019年、代替案として「アフォーダブル・クリーン・エネルギー(ACE)」を発表した。ACEでは連邦政府は石炭火力発電ユニット(EGU)から排出されるCO2量を制限するための指針を提示する役割に徹し、最終的な計画の策定は各州の裁量に委ねられる。バイデン政権がCPPをそっくりそのまま復活させるとは考え難いが、ACEより遥かに厳格な規制を導入することは間違いないだろう。

3. クリーンエネルギー革命で数百万件の雇用創出

バイデン氏は国を挙げて大規模なクリーンエネルギー革命を実施し、多様な産業で数百万件の新規雇用や新たなビジネスチャンスの創出を約束している。部品から材料、電気自動車の充電ステーションに至るまで、国内の自動車サプライチェーンやインフラを含む自動車産業で100万件の新規雇用を創出し、21世紀を勝ち抜く産業への成長を支援する。

その他、建設産業で100万件、インフラ産業で数百万件、CSAで25万件など、気候変動への取り組みを加速させると同時に、クリーンエネルギー経済の基盤を構築するという一石二鳥の戦略だ。

実現のカギは「イノベーション」と「脱炭素社会への意識」?

もちろん、バイデン氏の「クリーンエネルギー革命」は、一夜にして実現するものではない。実現させるためには、想像をはるかに超えるさまざまな困難や摩擦を乗り越え、有益なイノベーションを促進しなければならない。そのうえ、企業や投資家、国民の関心を脱炭素社会に惹きつける必要がある。

アメリカ風力エネルギー協会を筆頭とする米国のクリーンエネルギー産業は、バイデン環境政策を全力でバックアップする構えだ。すでに米国の風力発電産業における雇用は12万件を超えており、風力タービン技術者と太陽光発電設置業者は国内で最も急成長している職種である。また、再生エネルギーへの年間投資額が600億ドル(約6兆2420億円)を上回るなど、ポジティブな材料は揃っている。

「脱炭素社会」へ向けた国際競争が激化するか?

米国が脱炭素社会宣言をした現在、主要国でクリーン経済の確立に向けた国際競争が激化すると予想される。

ロックダウン中、各国・地域におけるCO2排出量が減少した。これを受けて、コロナで打撃を受けた経済の復興策を模索する多数の国が、気候変動対策を軸とする「グリーン・リカバリー(緑の復興)」に注目している。欧州連合(EU)加盟27ヵ国は2050年のゼロエミッション達成を目指し、2030年までにCo2排出量を2019年の水準より少なくとも40%削減することを目標にしていたが、2020年9月、これを55%に引き上げた。

「CO2排出大国」中国でも、グリーン・リカバリーに向けた動きが見られる。9月に開催された国連総会の一般討論演説では、2060年までにカーボンニュートラル(気候中立)の達成を目指すことを、習近平国家主席が自ら宣言した。カーボンニュートラルとは、たとえば化石燃料の燃焼から排出されるCO2の量と、森林などに吸収されるCO2の量をプラスマイナスゼロにするという概念だ。また、日本と韓国も2050年までのCO2実質ゼロを目指す。

各国の環境政策が過熱により明るい未来へ

EU、中国、米国、日本、韓国が世界経済の3分の2、そしてCo2排出量の約5割を占めている事実を考慮すると、国際競争の加速は地球温暖化対策において極めて重要な意味をもつ。もちろん、各国の目標達成に向けた道のりは長く、一筋縄ではいかないだろう。しかし、各国の環境政策がお互いにとって刺激剤となり、それが経済の活性化や環境問題の緩和、人々の暮らしの向上につながるのであれば、そこからポジティブな未来が開けるかもしれない。

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