融資を受ける,事業計画書,書き方
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鈴木 まゆ子
鈴木まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

事業の成長スピードを上げるには融資が必要だが、融資を受けるためには金融機関の審査に通らなければならない。その成否を分けるのが、「事業計画書」だ。今回は、融資につながる事業計画書の書き方のポイントを解説する。

なぜ金融機関は融資の審査で事業計画書を見るのか

そもそも、なぜ金融機関は融資の審査で事業計画書を見るのだろうか。事業計画書は、融資を行う側の金融機関が求める「貸した資金を回収できる可能性」や、「利息の元になる収益性」を確認するための資料となるからだ。

一般的に、金融機関は企業の過去の決算書や現在の経営状況から融資の可否を判断する。しかし、起業や新規事業の場合は過去の決算書がない。そのため、事業計画書の内容から「この事業は今後どれくらい収益を生むか」「経営者は確実に元利の支払いができるか」を判断するのだ。

経営者にとっての事業計画書作成の意義

経営者の中には、「事業は先が読めなくて当たり前、計画なんて立てる意味がない」と思う人もいるだろう。しかし、融資を受けるかどうかに関わらず、事業計画書を作成することは経営者にとって重要な意味を持つのだ。具体的には、以下の3点が挙げられる。

資金調達

これは、広義の「資金調達」と捉えてほしい。本記事の解説は融資に限定しているが、事業計画書が必要になるのは「お金を借りる」時だけではない。国や地方自治体から受ける補助金やエンジェル投資家からの出資、つまり「お金を提供してもらう」時にも必要になる。なぜなら、出資する側は善意だけで資金を提供するわけではなく、その価値があるかどうかを判断する必要があるからだ。

出資者は、今後の配当や経営参画、経済活性化や雇用創出を期待してお金を出す。そのため、お金を提供するにあたっては、その事業が成功するかどうかを冷静に判断するのだ。事業計画書は、お金を出す側にとって、事業が成長する根拠や実現性を確認する材料になる。言い換えれば、事業計画書をしっかり作りこむことで、あらゆる形態で資金を調達しやすくなるのだ。

経営者が自省するきっかけになる

創業者は、自分の事業に熱心になるあまり、事業の現状をデータによって客観的に把握することを怠りやすい。やもすれば、手元資金を事業に注ぎ込みすぎて、気がついたら資金が枯渇していた……などという状況になりかねない。

また「この事業は必ず成功する」という思い込みが強すぎると、データ分析などがおろそかになるため、売上や利益が思ったように伸びなくなってしまう。

事業計画書は、自身が事業を興したきっかけや過去の経験を振り返るとともに、集客・売上の見込みを数値的根拠に基づいて説明する資料だ。計画書を作成する過程で、自らの事業を客観的に見てみることは、今後の事業展開をより堅実なものにすることにつながるはずだ。

事業戦略を社員と共有する

事業計画書を書くことで、事業の目的や理念、将来のビジョンを社員と共有することができる。

「なぜ経営者がこの事業を展開するのか」「事業が成長すると社員にどのような利益があるのか」「自分たちは実現のためにどう行動すればいいのか」について社員自身が明確に理解していたほうが、経営者に言われたことをただ単に実行するよりも、行動の質が上がるはずだ。

その結果、事業展開を合理的かつ迅速に進めることができるため、目標とする収益も早々に達成できるかもしれない。

事業計画書に盛り込むべき内容とは

事業計画書は、何でも自由に書けばいいというわけではない。金融機関によって書くべき内容が多少異なることはあるが、一般的には以下のような要素を盛り込まなくてはならない。

  1. 概要
  2. 会社概要・事業内容
  3. 市場調査の内容
  4. 起業・新事業展開の動機
  5. 顧客・取引先について
  6. マーケティング戦略
  7. 競合他社の調査
  8. 自社の強み
  9. 新規事業展開のスケジュール
  10. 売上・利益計画

これらの項目をどのように記述していくかについては、次項で説明する4つのポイントを確認してほしい。

融資を受けるための事業計画書の書き方 4つのポイント

一口に事業計画書といっても、ただ書けばいいわけではないことは理解できただろう。融資を受けるためには、ポイントを押さえて書かなければならない。以下の4つのポイントを意識しながら書き、最終的に「誰にでもわかる事業計画書」に仕上げよう。

具体的に書く

事業計画書において最も大切なのは、具体性だ。事業の展望を思いつくままに書いただけでは、審査の担当者には理解されない。マーケティング戦略や人員計画、事業展開のスケジュールなどについて、どのように行っていくのか、いつまでに何を実行するのかなどを具体的に示さなければ説得力がないのだ。事業計画書を作成する際は、以下の5W2Hを意識したい。

  1. Why(なぜ):理念・ビジョン 「なぜこの事業をやるのか」を伝えるために、商品やサービスを提供する意義を書く
  2. What(なにを):ビジネスの内容 事業の経緯や過去の経験からビジネスのテーマを決め、提供する商品・サービスの内容を書く
  3. Where(どこで):市場環境・立地 市場の需要とともに競合他社との比較や差別化対策などを書き、市場における自社の優位性を書く
  4. How to(どのように):戦略・特徴・ノウハウ 自社のノウハウや戦略、仕入れから販売までのプロセスを書く
  5. When(いつ):販売計画 商品やサービスの提供時期や、事業展開のスケジュールを書く
  6. Who(誰が):顧客・取引先など ターゲットは誰か、顧客にとってのメリット、取引先の規模や取引額を書く
  7. How much(いくら):資金計画・売上計画・収益性 売上や利益の目標、商品やサービスの価格について書く

これらは、頭の中で考えているだけではすぐに出てこない。まずは、自問自答しながらひたすらノートに書き出してみるといいだろう。

簡潔にまとめる

事業計画書は、文字数が多ければいいというものではない。大切なことは、情熱よりも融資担当者の理解と信用を得ることなのだ。そのためには、わかりやすく簡潔にまとめることが求められる。特に、売上や利益のように数値で伝えるべき項目については、数字だけでなく表やグラフを用いて「見やすく、わかりやすくする」ことを心がけよう。

根拠をもって計画を作成する

融資の審査を通過するためには、事業計画書に説得力がなくてはならない。説得力を持たせるには、売上・利益計画の実現性を示す根拠が欠かせない。いくら具体的で簡潔だったとしても、それが経営者の頭の中の妄想や皮算用なら審査には通らない。官公庁が発行する白書や統計資料などから必要なデータを集めたり、実地調査を行ったりした上で、根拠のある数値を割り出すようにしよう。

飲食店出店のための融資なら、出店するエリアの競合店の数、時間帯・曜日ごとの通行人数、周辺にある施設などのデータを提示し、メニュー構成や価格帯、客単価、集客数、回転数などを割り出して記載したい。事業計画書には、根拠資料も添付するといいだろう。

売上・利益計画については、自社の過去の損益計算書を参考にし、誇張にならないように注意しながら作成しよう。飛躍的な売上や利益が見込めるなら、その根拠を提示する必要があ。

論理性を意識する

融資審査では、それぞれの項目の「裏側」が必ずチェックされる。数値はデータが根拠になるが、融資が必要となった経緯や自己資金の準備の仕方、職務経歴や事業実績などは経営者自身がしなければならない。

特に異業種からの参入や新事業の立ち上げの場合は、その理由を聞かれることが多い。「なぜそう思い至ったのか」「過去の経験がどのように新事業に活かせるのか」などをポイントを押さえて論理的に説明できれば好印象を持たれやすい。

事業計画書以外の融資を受ける際の4つの注意点

ここまで「事業計画書が融資成功のカギ」と伝えてきたが、「事業計画書さえうまく書けば他はどうでもいい」というわけではない。融資を受けたいなら、事業計画書以外にも以下のようなことに気を配ってほしい。

1. 自己資金はコツコツ貯める

事業展開に融資が必要だとしても、事業資金の100%を融資でまかなうことは難しい。事業資金を自ら用意する努力をしない経営者を、金融機関は信頼しない。融資を受けるためには、自己資金をある程度用意しなくてはならないのだ。

用意すべき自己資金の目安は、事業資金の3割だ。多ければ多いほど経営者の事業展開の本気度と堅実さが評価され、融資は下りやすくなる。とはいえ、多ければいいわけというわけではなく、コツコツと自分で貯めることが重要だ。現預金がない場合は、解約返戻金付きの生命保険や有価証券などの金融資産などを提示してもいい。

ただし、身内などから一時的に資金を借りて「見せ金」とするのは、融資担当者の心証を悪くするのでやめておこう。

2. なるべく創業期に融資を受ける

実績のない創業期は融資のハードルが高いと思うかもしれないが、実は絶好のタイミングと言える。なぜなら、実績がまだないからだ。事業の可能性や計画性だけで勝負できる、またとないチャンスなのである。

好調な業績を常に維持できればいいが、実際の経営では浮き沈みがあるのが普通だ。特に、創業期は初期投資にお金がかかる一方で、売上の見通しは立ちにくい。売上が安定し黒字に転換するまで、最低でも半年はかかる。創業時なら融資を受けられたのに、無理して自己資金だけで事業を開始し、資金が枯渇してから融資を申し込んで断られるケースは珍しくない。

経営の見通しが立ちにくいからこそ、業績が明らかになる前の創業時が融資を受ける最大のチャンスなのだ。ここで経営者の経験値や自己資金、事業プランや将来性をプレゼンし、融資を受けられれば、余裕をもって事業展開できるだけでなく、金融機関から「この経営者は信頼できる」と評価され、次回以降の融資審査でも有利になるだろう。

「銀行は晴れの日に傘を差し出すが、雨の日には傘を貸さない」と言われているが、創業期が最高の「晴れの日」ということだ。

3. 支払期限は守る

融資審査の際、最も重視されるのが「支払が滞っていないか」である。これまでの事業での買掛金や経費の支払い、借入金の返済だけでなく、経営者個人の日常の支払いもチェックされる。たった数百円、数千円の支払いだとしても、1日でも遅れれば遅延となる。特に融資の前は、あらゆる支払期限を守るようにしよう。

4. 嘘をつかない

融資の審査を受ける人の中には、過去の借金や事業の失敗など、マイナスの評価になりそうな材料を隠したくなる人もいるだろう。どんな事情があるにせよ、嘘をつかず、正直に伝えるようにしよう。大切なことは「なぜそうなったのか」を正直に伝え、「そこから何を学び、いかに次につなげるのか」をきちんと説明することだ。

一般的に、金融機関は融資の申込を受けると、申込者の借入状況や金融事故の有無を個人信用情報機関(CIC)に照会する。金融機関は「申込者が信用できるか」「借金を確実に返済できるか」を見ているため、その確認が裏で行われるのだ。

嘘は、融資担当者の心証を悪くするだけだ。隠したい過去があっても、嘘はつかないようにしよう。

5. 審査の面談では服装と態度に気をつける

審査では面談も行われる。事業計画書の内容によっては「経験が足りないようだけど、大丈夫なのか」「集客の見込みの根拠は何か」など、厳しい質問が次々と担当者から投げかけられることがある。どんな質問にも答えられるように準備しておくことはもちろんだが、不意な質問を受けても冷静に、真摯に答えるようにしよう。不機嫌になるなどもってのほかだ。

業種によってはカジュアルな服装で面談に臨もうとする人がいるが、ここで重要なのは「金融機関の担当者の心証」だ。少しでも堅実かつ前向きな姿勢が担当者に伝わるように、きちんとしたスーツなどで面談に臨みたい。

融資を受けられる金融機関

ここからは、融資を受けられる金融機関を紹介していく。基本的にほとんどの金融機関で融資を行っているが、ハードルが比較的低いとされるのは以下のとおりだ。

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、株式会社日本政策金融公庫法に基づいて設立された財務省直轄の特殊会社だ。国の政策に沿って、民間の金融機関から融資を受けることが難しい事業者に対しても融資を行っている。日本政策金融公庫の融資制度でよく知られているものは、以下のとおりだ。

【中小企業経営強化基金】
税理士などの外部専門家による経営支援と、日本政策金融公庫による金融支援を一体で行う制度だ。事業計画書を経営者と専門家が作成し、事業計画達成のための支援を専門家が行う。無担保、無保証で最高2,000万円の融資を受けられる。

【新創業融資制度】
創業前あるいは創業後間もない事業者で、「従業員を雇用する事業」あるいは「需要があり他との差別化ができている事業」あるいは「現在の勤務先と同種の事業」を展開する人向けの融資制度だ。こちらも無担保、無保証で最高3,000万円の融資を受けられる。

信用金庫・信用組合

信用金庫・信用組合は地域に根付いた金融機関で、広くても隣接する都道府県にしか商圏を持たないだ。どちらも地元密着型だが、信用金庫が地域繁栄や相互扶助を目的としているのに対し、信用組合は組合関連の法律に基づき、組合員の相互扶助や経済的繁栄を目的としている。

地域密着型なので、地域の制度融資によっては有利な条件で融資を受けられることもある。また、地元企業に対して親身になって面倒を見てくれるのも特徴だ。ただし、信用保証協会の保証決定に1ヵ月ほどかかる上に、保証料を支払う必要がある。

日頃から事業について意識しておくことがよい事業計画書への近道

融資を受けられるような事業計画書を作成するのは、簡単ではない。経営者自身が冷静に自分を振り返っていること、融資を意識して日々の生活を送っていることも求められる。日頃から「なぜ自分はこの事業をしているのか」「何を目標としているのか」などを自問すること、小さな約束を疎かにせずきちんと守ることに努めてもらいたい。

文・鈴木まゆ子(税理士・税務ライター)