今回発生した新型コロナウイルスの感染拡大においてITが果たした役割は極めて大きいと言える。特にインターネットがここまで一般化、広帯域化していたことは不幸中の幸いと言っても良いだろう。オンラインによるWeb会議、面談によって、世界中での移動制限がなされる中で、一定程度経済活動が止まらずに済んだ部分は大きく、この感染拡大がひと昔前に起きていたらと思うとぞっとする部分もある。
例えば当社を例にとってみれば、感染拡大当初、当社の主要な事業活動である面談による取材活動が完全に止まるのではないかという重大な懸念があった。結果としてそれは杞憂に終わり、多くの取材活動がオンラインによって行われることで、現在ではほぼ平常化している状況である。また、資料販売などの営業活動に関しても、お客様を訪問できなくても、オンラインでの資料内容の確認や打合せも可能であったことが大きな助けになった。多少の不便はあるものの、現在では比較的スムーズにリアルとweb面談を使い分けるようになっている。さらに、社内的には人数の集まる会議や拠点間のオンラインミーティングは普通のこととなり、在宅勤務と出勤についても、各人がそれなりに使い分けている。
また、私が担当している店舗システムの分野では、ITを活用したニューノーマル化が着々と進行していく見通しである。例えば、レジ周辺業務のセルフ化は既に普段当たり前に見かける光景となりつつあるが、多くの食品スーパーやコンビニで採用されているのは、料金支払いのセルフ化である。元々これはコロナ以前のレジ業務の人手不足対策として業界で取り組まれてきたものであり、どちらかと言えば店側の論理で顧客に支払い業務を代行してもらう主旨のものであった。しかし、昨今のコロナ禍によって、店員、顧客両方にとって対人接触時間を削減する効果があるものとして、肯定的に受け止められるようになってきている。
また、飲食店での店頭端末を利用したセルフオーダリングに関しても、同じく対人接触時間の削減がコロナ対策につながるとして肯定的な受け止め方に変化してきている。また、このシステムに関しては、さらに一歩進んで、共用の端末ではなく自分のスマホを使って店内、店外に関わらず注文できるシステムに進化しつつある。ベンダー各社によれば、コロナの流行によって問い合わせが急増しているということだ。
ITが人と人の接触を削減することに効果を発揮している点では、様々な業界でこうした事象が起きていると言えるだろう。しかし、ある意味人と人の関係を希薄化するこれらのIT活用事例を見ていると、今回のコロナウイルスのたちの悪さを改めて痛感する。過去長らく都会で進行してきた人間同士の関係性の薄まりを、コロナウイルスは益々加速させていくのではないだろうか。
一方で、様々な場面でのオンライン化の進展が都心への人口の集中を抑制し、これまで困難を極めている地方再生のチャンスになると捉える意見もある。果たして本当にそうだろうか。
確かに様々な経済活動がオンライン上で可能になったことから、理論上はどこに住んでいてもある程度の仕事ができるようになった。例えば普段は地方に住んで仕事をしつつ、ミーティング等はオンラインで参加することで、地方への移住を促すことができるという主張がある。実際に在宅勤務を前提にした求人も増えてきており、会社に出勤するのは月に1度で良いなどという条件の求人もあるという。また、パソナが本社を兵庫県の淡路島に移転するというニュースも話題になった。果たして、これまで東京に集中してきた企業や人が、本当に地方に分散されるであろうか。上述の例で言えば、仮に東京本社への出社が月に一度でもある人が、例えばわざわざ淡路島に住むことになるだろうか。精々東京に住んでいた人が、関東圏の郊外に移住する程度にとどまるのではないだろうか。今本当に人口減少に悩んでいる地方にとって、オンライン化の進展がそう簡単に追い風になるとは到底思えないのだ。
逆に、特に一定以上の規模を有する大手企業の地方拠点は、その多くが営業拠点であり、いわゆる支店、営業所、出張所などは、実際にその地域の顧客を訪問しなければならないという理由から設けられている。仮にこの機能を本社がオンラインで代替するということにでもなれば、地方の営業職の雇用の多くが失われる可能性さえあるのだ。
コロナ禍による未曾有の大きな変化を、プラスにできるか逆にマイナスにしてしまうのかは、やはり多くの人が住みたくなる魅力あるまちづくりができるかどうかという大原則に立ち返ることになるのではないか。
2020年12月
理事研究員 野間博美