EV
(画像=Nischaporn/stock.adobe.com)

新型コロナの影響で売上が急減したガソリン・ディーゼル車とは対照的に、コロナ禍の欧州でEV販売台数が急増した。売上増加トップのノルウェーでは新車販売のEV比率が80%を突破し、2021年には90%に成長すると予想されている。

一方、カリフォルニア州が2035年を目途にガソリン車全廃止を発表するなど、米国でもEVへの移行に向けた動きが見られる。激化しているEV開発競走ではTesla(テスラ)の快進撃が続くなど、欧米諸国でEVの普及が現実味を帯び始めた。

コロナ禍にも関わらず 欧州のEV売上は57 %増 米・中・日は大幅減

EVデータベース、EV-Volumesが2020年上半期の世界の自動車売上を集計したデータによると 、欧州では自動車売上が前年同期比37 %に減少したにも関わらず、EVの売上は57 %増えた。また、世界の自動車売上は28 %急落したが、EVの売上は14%減と比較的小幅におさまった。

一方、EV先進国といわれた中国においては、補助金の削減や技術的要件の厳格化が逆風となり、新エネルギー車(NEV)の売上が前年比42 %減した。日本は38%減、米国は25%減と、いずれも大幅に低下している。

EV普及率世界一のノルウェー EV税金全額免除延長が追い風に

ノルウェーはEVの需要が急拡大している欧州のみならず、世界一の普及率を誇る。米クリーンテクノロジー・メディアClean Technica(クリーンテクニカ)のデータによると、同国の新車販売のEV比率は、2020年2~7月にわたり連続で6割を超えた。さらに、8月は70.2% 、9月は81.6%、10月は79.1%と記録を更新している。

圧倒的なシェアを占めるのはBEV(バッテリー式電動自動車)で、同国10月のEV売上60.8%を占めた。PHEV・PHV(プラグインハイブリッドカー)は18.3%、HV(ハイブリッドカー)は9.5%だった。

同国で絶大な人気を誇るVWのコンパクトEV「 ID.3」は、国内の全自動車売上の20%にあたる2,475台を、わずか1ヵ月で売り上げた。その後を追うのは、上海汽車集団傘下のMGのサブコンパクトクロスオーバーSUV EV「ZS 」、日産(ルノー)「Leaf」、現代自動車(Hyundai)の小型クロスオーバーSUV「Kona Electric(コナ)」、Audi(アウディ)のスポーツバッグSUV「e-tron(イートロン)」などだ。

欧州では2040年までにガソリン・ディーゼル車販売禁止

ノルウェーの「EV化」の追い風となっているのは、排気ガス量がゼロの車に対して、自動車取得税や重量税などを全額免除とする優遇措置である。この措置は2021年以降も延長されるため、フォルクスワーゲン(VW)は同国における新車販売のEV比率が、2021年には90%を突破すると見込んでいる。

同様の動きは、欧州全体で見られる。欧州自動車工業会(ACEA)いわく、ノルウェーを含むEU加盟27ヵ国のうち26ヵ国が、補助金や免税制度などEV購入を奨励するためのインセンティブを実施している。もう一つ、欧州でEVへの移行を後押ししているのは、ガソリン・ディーゼル車販売・走行禁止計画だ。一部の欧州諸国は、国内におけるガソリン・ディーゼル車販売禁止や乗り入れ禁止措置について、具体的な期間を設けている。

ガソリン・ディーゼル車の販売禁止が2025年と目前に迫ったノルウェーを筆頭に、オランダ、フランス、英国、スウェーデン、アイルランドなどが、2025~2040年までに同様の措置を講じる。また、ロンドン、パリ、アムステルダム、ブリュッセルなど、交通量が多く大気汚染が深刻な大都市では、一足早く2030~35年に実施される予定だ。

米EV市場、再燃の可能性は?

2018年、Tesla の「Model 3」の発売でEVの売上が80%伸びた米国は、中国とともに失速した。EVの売上が減少した理由の一つとして、3月末から5月中旬にわたりカリフォルニアやニューヨークにあるTeslaの工場が閉鎖され、米国内での供給用が大幅に低下したことが挙げられる。

しかし、第3四半期の車両の生産および配送台数は、各14万5,036台、13万9,300台と、前四半期から1.7倍、1.5倍に回復した。大手自動車メーカーのEV開発競走も加速していることから、EV人気が再燃する可能性が高い。さらに9月には、米国で初めてカリフォルニア州 が2035年までにガソリン車の販売を廃止する意向を発表した。今後、他の州にも同様の動きが拡大すれば、瞬く間にEV市場が息を吹き返すのではないだろうか。

世界EV市場で圧倒的な人気を誇る「Model-3」 中国メーカーが追い上げ

世界のEV市場で圧倒的なシェアを占めるのは、Tesla(テスラ)の「Model-3」だ。2020年上半期に世界で販売されたEVの7分の1に相当する、14万2000台を売り上げた。2位は日産(ルノー)リーフ の欧州版「Zoe(ゾエ)」、3位は日産(ルノー)「Leaf(リーフ)」、4位はVWの「eGolf」、5位は中国の比亜迪自動車(BYD)の「Qin(秦)Pro」だ。

比亜迪自動車同様、世界のEV市場で頭角を現しているのは、中国メーカーの上汽通用五菱汽車(Wuling)のプラグイン車「Hongguang (宏光)Mini EV 」である。長さ2.91m、幅1.49m、高さ1.62m、ホイールベース1.94mという超コンパクトなボディーと、レトロ×モダンがスタイリッシュに融合したデザインが人気となり、8月には全世界で9,150台を売り上げた。同月のEV売上では「Model-3」に次ぐ2位という快挙だ。

「燃費規制案」でEV比率2~3割を目指す日本

コロナで失速したものの、EVへの移行の取り組みは世界各地で徐々に拡大している。2019年の時点で、UNFCCC(気候変動枠組条約)締約国197ヶ国・地域のうち73カ国・地域が、「2025年までのゼロエミッション達成」を目標に設定した。UNFCCCとは、大気中の温室効果ガスの安定化を最大の目的に、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で採択された条約「UNFCCC(全額免除枠組条約)」だ。

経済産業省の2017年のデータによると、日本における全販売台数に対するEVの割合は0.41%、PHVは0.82%と極めて低い。このような現状を受けて政府は、2019年に「2030年までにEVおよびPHVの新車販売台数に占める比率を2~3割に高める」という目標を掲げ、達成に向けて新たな燃費規制案を発表した。

日産だけではなく、ホンダやトヨタ、マツダなど、日本の自動車メーカーが続々とEVを開発・発表している今、より魅力的なインセンティブを提供するなど、他国に負けない強力なEV普及促進策を講じることで、EVの普及目標達成に近づけるのではないだろうか。

文・アレン琴子(オランダ在住のフリーライター)

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